株式会社樋口電子 専務取締役 樋口真士氏
日本の製造業を支える中小企業、樋口電子。電子部品の加工から組み立てまでを一手に引き受け、短納期対応と人間の手による精密加工を強みに、国内ものづくりを支える取り組みを続けています。今回、専務の樋口様に経営方針や組織運営、今後の展望についてお話を伺いました。
電子部品の開発設計から完成品までトータル支援
──現在、どのような事業をされていますか?
樋口電子は、電子部品の加工・組み立てを中心とした製造業を展開しています。プリント基板の製造から電子部品の調達、半田付け、組み立て、検品・納品まで、開発設計から完成品までの一連の工程を網羅しています。
特徴は、全工程を受注する必要がなく、半田付けのみや組み立てのみなど、ポイントごとの受注も可能な柔軟性です。また、産業機器メーカーからの依頼が多く、少量多品種のニッチな製品を手掛けることが多いといいます。
コロナ禍到来が一つの転機に
──家業へ戻るに至った理由を教えてください。
もともと工作機械メーカーで技術営業を担当していました。現場での経験を経て、2020年にコロナ禍で会社の売上が半減する中、父のもとへ戻り会社を立て直す決断をしました。
次の時代に力になるものづくりを支えたいという信念のもと、時代や現場の課題に応じて必要な問題解決を行ってきたことが、樋口電子の強みとなっています。とくに、コロナ禍で中国での大量生産がストップした際に、手加工の重要性を再認識し、人間の手での精密作業に注力する方針を打ち立てました。
一人ひとりが成長する環境づくりを
──チームづくりで大切にしていることはありますか?
社員だけでなくパート社員やママさんなど多様な人材も積極的に受け入れています。コミュニケーションを重視し、休みや家庭の都合にも柔軟に対応することで、心理的負担なく働ける環境を整えています。
また、作業の標準化や教育マニュアルを整備し、未経験者でも致命的なミスを避けつつ作業ができる体制を構築しています。そして、次世代への技術継承にも力を入れています。ピッチイベントなどを通じて社員・パートの協力意識を醸成し、チームとして成果を上げる文化も育んでいます。
日本国内のナンバーワンを目指して
──今後の展望をお聞かせください。
今後の目標は、日本国内で手加工のシェアナンバーワンになることです。現状の拠点は大阪にあり、ここを教育・研修の中核拠点として位置付けています。将来的には、愛知や神奈川にも拠点を展開し、全国規模でのネットワークを構築する計画です。
さらに、手加工教育のノウハウを体系化し、他地域でも再現可能な形で展開できる仕組みづくりも視野に入れています。具体的には、作業手順書や教育マニュアル、オンライン研修コンテンツを整備することで、新たな拠点や人材が短期間で高い水準に到達できるようにします。この仕組み化により、従来の「職人の経験に依存する」モデルから脱却し、誰でも一定以上の品質を維持できる教育体制を確立することが目標です。
また、生産性向上の観点から、作業の効率化やAI検査機の導入も検討中です。手加工の工程は高い技術を要しますが、AIを活用した品質管理や作業工程の最適化により、作業時間の短縮と品質の均一化を同時に実現できます。これにより、顧客に提供するサービスの透明性を高めつつ、コストパフォーマンスの向上も期待できます。
仕事を趣味のように楽しみ、リフレッシュも忘れずに
──経営者として大切にしている価値観があれば教えてください。
価値観の根底には、日本のものづくりを守り、効率が悪い部分の改善によって生産性を高めるという考えがあります。手加工こそがボトルネックであり、そこに注力することが日本の産業競争力を維持する最善策だと考えています。
父親の背中を見て育ち、経営者としての責任感や人との関わりの大切さを学んできました。「仕事も趣味のような感覚」で取り組みつつ、アウトドアや子供との時間でリフレッシュする姿勢も持っています。

