株式会社ニット・ウィン 代表取締役 西口 功人氏
奈良県で三代にわたり靴下製造を続ける株式会社ニット・ウィン。祖父の代から続く工場を受け継ぎ、「靴下で1日を変える、靴下で価値を変える」という理念のもと、天然素材にこだわった製品づくりとブランド展開を進めています。伝統技術を守りながらも新しい価値を追求する代表・西口功人氏に、会社の現状や経営への想い、そして未来への展望を伺いました。
靴下で“価値を変える”という使命
――現在の事業内容と理念について教えてください。
当社は1950年に祖父が立ち上げた靴下工場で、私が三代目として代表を務めています。主な事業は、天然素材を使った靴下やレッグウォーマー、アームカバーなどの製造と、自社ブランドおよびOEMの展開です。
私たちが掲げているパーパスは「靴下で1日を変える、靴下で価値を変える」。履いた瞬間に“今日も頑張ろう”と思えるような、圧倒的な履き心地とデザインを提供することを目指しています。靴下という身近なアイテムに「意味」と「驚き」を持たせることが、私たちの使命です。
――御社の強みはどのような点にありますか。
ブランド力と商品力に加え、営業・マーケティングの総合力です。私は前職でユニ・チャームに在籍し、営業、そして後にマーケティングを担当していました。その経験を活かし、ブランド戦略と販売戦略を自社内で一貫して行える体制を築いています。
また、古い編み機から最新の機械まで幅広く保有し、時代を越えたものづくりができるのも特徴です。古い機械でしか再現できない独特の風合いを生かしつつ、新技術で効率化を図る。伝統と革新の両立こそ、私たちの強みだと思っています。
マーケティングから家業へ──継承と挑戦の軌跡
――経営者としてのキャリアを教えてください。
大学ではマーケティングを専攻し、卒業後はユニ・チャームで営業職に就きました。将来家業を継ぐかもしれないと考えていたため、営業力とブランド構築を学びたかったのです。
2012年に家業へ戻り、当初は営業担当としてスタートしました。その後、実質的に経営全体を見るようになり、約7年前から代表業務を本格的に引き継ぎました。
経営で大切にしているのは「仕事に意味を見出すこと」。単に給料のために働くのではなく、自分たちの仕事が誰かの一日を豊かにするという“意義”を感じられるようにしたいと常に考えています。現状に満足せず、挑戦を続けることが自分の信条です。
チームで価値をつくる組織づくり
――社員との関わり方や組織運営について教えてください。
現在、社員は約74名。私は現場に入って社員と常にコミュニケーションを取るようにしています。ピラミッドの頂点に立つというより、小舟の先頭で皆と一緒に進む感覚です。
朝礼や定例ミーティングでは、会社の現状や目指す方向をしっかり伝えています。業務目標も部署ごとに明確に設定し、達成に向けて一体感を持てるように工夫しています。
また、技術者たちには“数字の意味”も共有します。たとえば「粗利が1%上がれば会社全体の利益が何百万円変わる」と伝えることで、自分の仕事が経営に直結していることを実感してもらえる。そうした“見える化”がやりがいと成長意欲につながっています。
――どのような人材が組織に合うと感じますか。
自ら面白がって挑戦できる人ですね。安定を求めるだけでは変化に対応できません。挑戦する人を支え合う文化があることが、当社の強さだと思っています。
思考を切り離す時間が、新しい発想を生む
――オフの時間やリフレッシュ方法について教えてください。
週に一度、フットサルをしています。プレー中は仕事のことを一切考えないので、頭をリセットするには最適です。サウナも好きで、10分ほど“何も考えない時間”をつくることで思考を整理しています。
経営者は常に考え続ける立場ですが、だからこそ思考を切り替える時間が必要なんです。その切り替えが、新しいアイデアや決断力を生む原動力になっています。
国内から世界へ──変化を恐れず進む
――今後の展望を教えてください。
国内市場は人口減少と消費の冷え込みで厳しさが増しています。その一方で、海外にはまだ多くの可能性があります。現在は海外パートナーとの提携を進めながら、自社ブランドの販路拡大を図っています。
同時に、国内でもブランド認知を高める取り組みを強化中です。小売店やお客様との関係をより深めながら、靴下を通じて日常に小さな驚きと豊かさを届けたい。
「靴下で1日を変える」という理念のもと、どんな変化の中でも価値を生み続ける企業でありたいと考えています。

