特定非営利活動法人 日本日帰り手術推進機構 理事長 大橋直樹 氏
患者・医療者・社会の三者にとって利益をもたらす医療の実現を目指し、日本日帰り手術推進機構が設立された。
クリニックの経営者であり外科医でもある大橋氏は、日帰り手術の現場で直面してきた課題を解決するため、非営利の中立機関として立ち上がった。
志ある医師たちとともに立ち上げる
──まずは団体の概要を教えてください。
日本日帰り手術推進機構は、昨年末にNPO法人として正式に登記されたばかりの団体です。前身は「日帰り手術研究会」で、志を同じくする医師たちが集まり、勉強会や症例検討を重ねてきました。その活動を発展させ、医療の質を守る中立的な組織として法人化したのが当機構です。
私たちの目的は、日帰り手術の普及と安全で正しい医療の推進です。入院を必要としない手術を安全に提供することは、患者の身体的・経済的負担を軽減するだけでなく、社会全体の医療費削減にもつながります。欧米では一般的な日帰り手術ですが、日本ではまだ十分に広がっていません。正しい情報と質の高い医療を普及させるためには、中立的な立場の団体が不可欠だと考えています。
三方よしの理念を軸に
──設立の背景を教えてください。
東京外科クリニックの設立以降、近年では日帰り手術クリニックが乱立し、国民にも認知度が少しずつ高くなってきていると思われました。その一方で、医療の安全性や品質に大きなばらつきがあることに気付きました。中には誤った手術手技によって患者が不利益を被るケースもあります。こうした現状を是正し、正しい医療を公正に評価・普及させるために、非営利の立場で機構を設立しました。
私たちの理念は「三方よし」です。
患者にとって安全で、医療者にとって誇りある仕事であり、そして社会全体にとっても持続可能な仕組みである――この三者の利益が調和する医療を目指しています。
活動内容──三者の利益を見据えた3つの柱
1. 医師・医療従事者向けの勉強会・研究会の開催
日帰り手術の安全性向上と知識共有を目的に、定期的な勉強会や研究会を実施しています。全国の医師・看護師・医療スタッフが参加し、成功事例やトラブル事例の分析を通じて、安全で効率的な医療の実現を図ります。単なる情報共有ではなく、現場での実践に直結する学びの場を目指しています。
2. 優良施設認定制度による医療機関の評価
日帰り手術を行う医療機関の質と安全性を客観的に評価するため、独自の優良施設認定制度を運用しています。認定を受けた施設は、患者や地域社会からの信頼を得やすくなり、医療者にとっても自己研鑽の励みになります。認定基準は定期的に見直し、最新の医療技術と安全管理体制に対応できる柔軟な仕組みを整えています。
3. 市民啓発・教育プログラム(キッズドクター体験など)
医療への理解と関心を育むため、一般市民や子どもを対象とした教育活動にも力を入れています。代表的な取り組みが「キッズドクター体験」で、子どもたちが医療器具に触れたり模擬手術を体験したりすることで、医療の現場を身近に感じてもらいます。医療を尊重する心と未来への関心を育てることを目的としています。
持続可能な医療の未来を見据えて
──今後の目標をお聞かせください。
中期的には、YouTubeやコラムなどを定期的に配信し、啓蒙活動を充実化していくこと、また、私が個人的にアテンドしてきたキッズドクター体験を機構の運営に移管し、年2回程度、安定的に開催できる体制を整えることを目標にしています。これは単なるイベントではなく、医療教育としての意義を重視した取り組みです。子どもたちが医療の魅力を知り、将来の医療従事者や地域医療の理解者へと育っていくことを期待しています。
長期的には、国や学会への政策提言を行える組織になることを目指しています。医療制度や社会構造に働きかけることで、個々の医療機関の枠を超えて、社会全体の医療の質向上に貢献したいと考えています。
最終的なゴールは、日帰り手術の普及を通じて「患者負担の軽減」「医療コストの効率化」「医療者の安全性確保」という三つの要素を同時に実現し、持続可能な医療環境の構築に寄与することです。

