MEテック・ラボラトリー合同会社 代表 田中 嘉一 氏
MEテック・ラボラトリー合同会社は、医療機器の保守点検を専門とする技術系企業です。病院経営の厳しさが増す中、「安心・安全・適正コスト」を両立させる点検体制を現場目線で構築しています。メーカー任せの前提を見直し、医療機関の実情に合わせた最適な保守を提案する姿勢は、多くの病院から支持を集めています。本記事では、代表の田中嘉一氏に創業の経緯や事業の柱、今後の展望、そして経営に込める思いについて伺いました。
原点にあるのは「現場を支えたい」という想い
――独立に至るまでの経緯を教えてください。
前職で医療機器の保守点検部門の立ち上げに関わり、5年ほどで目標規模を達成しました。しかし組織の事情により、独立の話が先延ばしになり、次第に自分の理想と現実のギャップを感じるようになりました。
そんな中、かつて営業で信頼関係を築いた病院から「辞めるならうちをお願いしたい」と声をかけていただいたんです。あの一言が背中を押してくれました。設備も資金もないところからの再スタートでしたが、必要としてくれるお客様がいるならもう一度やってみようと決意しました。「現場で培った実務知識をまっすぐに誠実に届ける」それが私の原点です。
医療機器保守の“すき間”を埋める二本柱
――現在の事業と強みを教えてください。
柱は2つあります。1つ目は、病院向けの定期保守点検(フロントエンド/バックエンド)で、もう1つは海外メーカーなどの国内販売会社向け点検受託です。
病院向けでは、メーカー見積の見直しニーズに応え、点検範囲を実態に合わせて再設計しています。専用ソフトやメーカー許諾が必要な領域はメーカーに委ね、汎用測定でカバーできる部分は当社が責任をもって対応します。メーカー任せでは手が届かない部分を補い、必要十分なメンテナンスを実現することで、品質とコストの最適化を図ります。
販売会社向けには、サービス部門を持たない企業の“現場の手”として、点検・整備の代行も行っています。お客様にとって必要な部分を無理なくサポートする仕組みを整えています。
技術と信頼で築くポジション
――業界内でのポジションや提供価値はどこにありますか。
私たちは、メーカーと独立系業者の“あいだ”に位置する存在だと考えています。カバーしきれない領域に入り込み、実務で支えるのが役割です。
学会や展示会で名前を売るタイプではありませんが、実際に現場で起きている課題を分析し、確実に改善する。そんな積み重ねの結果、「技術と誠実さで任せられる会社」と言っていただけるようになりました。
たとえば、従来なら「年に一度のオーバーホールで80万円」というような見積もりが、当社では必要な範囲だけを選定して年間契約化し、コストを半分以下に抑えることもあります。もちろん安全を犠牲にすることはありません。点検頻度や範囲を綿密に見直すことで、無理なくリスクをコントロールする仕組みをつくっています。
協働を通じて広げる現場力
――人材や協働の進め方について教えてください。
現在は正社員を増やす段階でもありますが、すでに複数の熟練技術者と連携もしています。遠隔地の案件では福岡のプロとタッグを組み、営業は電話に特化した外部パートナーに依頼しています。それぞれのスキルが最も活かされる形で仕事を進めるのが理想です。
私自身は現場に入ることが多いため、チームが動きやすいよう基準書や点検マニュアルを細かく整えています。共通言語を持つことで、誰が対応しても同じ品質を保てるようにする。人に頼るだけでなく、仕組みで支える体制を整えることを意識しています。
公的病院への挑戦とリソース拡充
――今後の展望と、乗り越える課題を教えてください。
最近では、公的病院からの問い合わせも増え、参加資格も整いました。これまで主に民間病院を対象にしてきましたが、公共医療機関での実績ができれば、当社の信頼性はさらに高まります。
一方で課題はリソースです。メーカー側からも「もっと任せたいが回せない」と言われることが増えており、人的体制の強化が急務となっています。専任技術者の確保と育成、アウトソースの拡充、稼働計画の最適化。いずれも時間と体制づくりが必要です。求める人材は、資格や経歴よりも、誠実に“目の前の機械と向き合える人”であることを重視しています。
顧客第一の姿勢と地球への恩返し
――経営で大切にしている価値観は何でしょうか。
何よりも「顧客ファースト」です。ただし“言いなり”という意味ではなく、お客様の本質的な課題を一緒に解決するという姿勢を指しています。時には耳の痛いご指摘を受けることもありますが、そうした声こそが成長の糧です。自分たちの技術を磨き続け、お客様の安全と安心を守ることが、最終的に会社の信頼につながると考えています。
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
私のリフレッシュ方法はオフロードバイクです。整備されすぎていない道を切り拓いていく感覚が、仕事の原点にも通じます。将来的には、ドローンを活用した山林管理や防災の分野にも挑戦したいと思っています。医療で培った技術を、地球や自然のために還元していく、それが次の目標です。

