ジャパン・コイン・キャビネット株式会社 代表取締役 阿部貴志氏
世界には、まだ知られていない価値が無数に眠っています。その一つが、数百年の時を超えて現代に残るアンティークコインの世界です。
日本ではまだ一部の愛好家の間でしか知られていないこの魅力を、もっと多くの人に広めたいと情熱を注ぐのが、ジャパン・コイン・キャビネット株式会社(以下、JCC)の阿部貴志社長です。
IT業界出身の阿部社長が、なぜアンティークコインの世界に飛び込み、新たな文化を創ろうとしているのか。その想いと挑戦に迫りました。
アンティークコイン事業の独自性とビジョン
━━ 事業の特徴と理念について教えてください。
日本ではまだまだ認知度が低いですが、ヨーロッパではコイン収集は紀元前から続く、市民に根付いた文化と言えます。
コインには、宝探しのような楽しさがありコレクション(収集)する喜びや、コインという歴史遺産を通じて文化芸術に触れ知的好奇心をくすぐる学びの魅力があります。また、コインの資産価値は年数の経過とともに増していく傾向があり、手堅い実物資産という投資的な魅力も持ち合わせています。
弊社には「コインを通じて人生を豊かに」という理念があります。今は日本では、まだごく一部の人達にしか知られていないコイン収集ですが、一人でも多くの方がコインから歴史や物語、文化や芸術に触れ、知的好奇心を満たしながら、仲間や資産を増やしていき、人生そのものを楽しんでほしいという想いがあります。この日本でもそのような文化としてコインを根付かせるのが私の大きなビジョンです。
現在の事業としては、主に海外のコインショーやオークションからコインを仕入れ、ネットや店頭でコイン愛好家や投資家の方々へ販売をしています。また、国内のコレクターの方がお持ちのコインをお預かりし、弊社で販売するという委託販売も積極的に行っています。
加えて、新たな取り組みとして、2025年のゴールデンウィークに「JCCコインフリーマーケット」と称し、日本中のコイン収集家の方が主役のフリーマーケットの開催致しました。初めての開催でしたが予想を遥かに超える大盛況となり、日本国内のニーズの高まりを実感しました。今後も徐々に規模や回数を増やしてフリーマーケットを継続して開催いく予定です。
━━ JCCの強みはどこにありますか。
弊社は創業9年目ですが、老舗店が多いこの業界の中ではまだまだ新進気鋭の存在です。大手や老舗店がオークションや上得意様を中心とした伝統的な販売手法を取る中、私たちはネットを活用した販売戦略やきめ細かな取り組みで業界でも注目をされる実績を残しています。
自社で販売するコインは”無類のコイン好き”を自称する私自身が年に何度も世界各国を飛び回り、オークションや海外の主要ディーラーを訪問し、現物を自分の目で確かめて仕入れています。写真だけではわからない質感や状態を見極めた上で購入しています。もちろん価格交渉もします。その結果、高品質で魅力的なコインを適正価格で提供できるのが強みです。
異業種から飛び込んだ理由と経営哲学
━━ IT業界からコイン業界に転身したきっかけは何ですか。
元々は20代でIT企業を立ち上げ、システム開発やウェブ構築を行っていました。ある時、知人から「コイン販売会社の経営を手伝ってほしい」と依頼され、その会社の社長に就任しました。最初はコイン自体には殆ど興味がありませんでしたが、仕事としてWebサイトの改善やマーケティングに取り組む中でコインもどんどん売れていき、経営も順調に立ち直っていきました。しかし、何より気が付けば私自身がすっかりコインの奥深さに魅了され、最終的に自分自身の手で今のJCCを創業するに至りました。
━━ 経営で大切にしていることは何でしょうか。
「情熱」と「好奇心」を大事にしています。好きな仕事だからこそ情熱が溢れ出てきます。そして、その情熱を原動力にして、新しいことに挑戦し続ける好奇心が、事業の成長に繋がると信じています。そしてその先にはもっと大きな使命感に繋がっていくのだと考えています。
コインはとても趣向性の強いアイテムです。お客様は皆、コインがお好きな方ばかりです。JCCはその誰よりもコインに情熱を持ち、コインに愛情を注ぎ、誠実に真摯に経営していくことがお客様の信頼を得るに値する会社だと思っています。
「好き」を原動力にした組織づくり
――社員に求める資質は何でしょうか。
素直さと探求心です。コインの世界はとてもニッチで、新しくこの世界に入った方は見たことも聞いたこともない事や物ばかりです。まずは素直に受け入れてコインの世界を楽しんでもらいたいと思います。ある程度のことが分かってくると、良い意味でも悪い意味でも「慣れ」が出ていきますが、コインの世界は一人の人間が生涯を賭しても底が見えない程の奥深さがあります。その奥深さに自ら進んでいく探求心を持ってもらえれば最高です。
社員も含め若い人に伝えたいのは、たまに「好きなことを仕事にしない方がいい」と言う人がいますが、私は全く逆です。「好きこそものの上手なれ」という言葉があります。好きだからこそ、探求心が湧き上手くなれる。情熱の力で困難を乗り越えていける。人を幸せにできる。好きな事が生涯の仕事になれば、最高じゃないですか!
未来への挑戦と社員への想い
━━ 今後の展望や課題を教えてください。
コインのネット販売を主軸にしつつ、フリーマーケットやセミナーなどコイン愛好家の方々と直接楽しめるリアルな活動を全国規模で展開することが一つの目標です。フリーマーケットでは東京での成功をきっかけに、関西や九州などの地区からも開催要望を多数いただいており、地域ごとにコイン文化を広めたいと考えています。
また、コイン以外のアンティークショップ等と連携したリアルなコインサロンの開設も計画中です。コイン愛好家同士が気軽に集える社交場を作り、将来的にはコインをきっかけに人生にとってかけがえのない”何か”を提供できれば本望だと考えています。
最大の課題はお恥ずかしながら、私自身の時間の制約です。今は仕入れから販売、顧客対応までほぼ全ての業務を私が行っていますので、とにかく時間が足りません。ここで述べたような理想を実現するためには、右腕となる人材の育成が急務です。まずは人材の採用と育成に取り組み、私がコア業務に集中できる体制を整えたいと考えています。
学びと好奇心が心を潤すプライベート
――プライベートの過ごし方やリフレッシュ方法を教えてください。
時間が取れれば大好きなテニスやゴルフなどスポーツを楽しんでいます。また、絵画や音楽も大好きですので、海外出張の際には必ず地場の美術館や博物館へ足を運びます。また、普段の仕事終わりに銀座にある老舗のライブホールへよく行きますが、そこが私にとって最高のリフレッシュの場といえるかもしれません。
――最後に、読者や社員の皆さんへメッセージをお願いします。
アンティークコインは数百年の時を超えてきた「歴史遺産(資産)」そのものです。その魅力を日本国内に広げて文化として根付かせていくことで、多くの人の人生をより豊かにできると信じています。
情熱と好奇心を持ち続け、誠実に真摯に一歩ずつ前に進んでいけば、いつか必ずその足跡が道となり新しい未来が切り拓かれるはずです。これからも社員や仲間、そして何より多くのコイン愛好家の方々と共に、その挑戦を楽しんでいきたいと思います。