「惚れ込んでくれる人」とともに歩む木製バットの道

日本一の木製バット産地として知られる富山・福光で、伝統の手削り技術を守り続ける有限会社エスオースポーツ工業。代表取締役の中塚陸歩氏は、大手メーカーの下請けから転換し、1本からのオーダーメイドに特化する独自の道を切り拓いてきました。派手な広告よりも、実際に手にしたお客様の「惚れ込む気持ち」を何より大切にする姿勢で、口コミを通じて信頼を積み重ねてきた同社。中塚氏は「目の前のお客様を大事にし続けることが、未来をつくる原動力になる」と語ります。

今回は、中塚氏のこれまでの歩みや経営に対する考え方、そして木製バットづくりに込めた想いについてお伺いしました。

木製バットの伝統を継承し、現代に合わせて進化

御社の事業内容と特徴について教えてください。

当社は木製バットの製造・販売を手がけています。所在地の南砺市福光は日本有数の木製バットの産地で、最盛期には11社が存在し、全国シェアの7割を誇っていました。しかし、金属バットの普及や野球人口の減少に伴い、現在では5社、シェアも4割程度にまで縮小しています。

当社もかつては大手メーカーの下請けとして量産を担っていましたが、約10年前に大手の生産拠点が海外へ移ったことを機に、オーダーメイドに特化した自社ブランドを立ち上げました。現在は「1本からでもオーダー可能」という柔軟な体制を特徴とし、個人のお客様に寄り添ったものづくりを行っています。

他社との差別化はどのように図っているのでしょうか。

木製バット業界では約20年前からコンピュータ制御による全自動加工機が普及し、プロ野球選手のバットでさえボタン一つで仕上げられるのが主流になりました。多くのメーカーが効率を優先し、手削りの技術をやめてしまいましたが、当社はあえて「手削り」を残してきました。

手削りには、素材の木目を読み取り微妙な調整を加えられるという魅力があります。効率では機械に劣るものの、使い手の感覚に合わせた細やかな調整が可能です。2年前には最新の自動加工機も導入し、現在は「伝統の手削り」と「最先端の機械加工」を併用。双方の良さを引き出しながら、お客様のニーズに合った製品を生み出しています。

折れたバットを再現するサービスも提供していると伺いました。

はい。既製品を並べるだけでは大手メーカーとの差別化はできません。当社の強みは「どんな注文にも柔軟に対応できる」こと。折れたバットを送っていただければ、同じ形で再現するサービスを行っています。

例えば、他メーカーのモデルであっても人気がなく廃盤になってしまった場合、愛用していた選手が困ることがあります。「このモデルが一番しっくりきていたのに、もう手に入らない」という声を多くいただきました。そこで、「それなら当社で再現しよう」と始めたのがこのサービスです。

大手では対応が難しい細やかなニーズにも応えることで、「あのモデルがもう一度手に入るなら」と選んでくださるお客様が増えています。差別化戦略としてだけでなく、プレーヤーにとって大切な道具を守り続けたいという想いから始めた取り組みです。

野球少年から職人の道へ

これまでのご経歴について教えてください。

私は兵庫県出身で、小学校から高校まで野球一筋で過ごしました。高校卒業後は鉄道会社に就職し、駅員などを4年間務めました。当時は「ものづくり」に興味があり、高校時代には花火師を志したこともありますが、周囲から現実的ではないと反対され、諦めた経緯があります。

鉄道会社で働く中でも「自分が本当にやりたいことは何か」という思いは心の片隅にありました。22歳のときに「今ならまだ挑戦できる」と決意し、バットづくりの世界へ足を踏み入れることになります。実は高校時代から木材を削ってバットを自作するなど、自然と惹かれていた世界でした。

どのようにして現在の会社と出会ったのですか。

インターネットで調べても情報が少なく、国内に職人がわずかしかいないことを知り「ここなら挑戦の余地がある」と感じました。地元近くの工場を訪ねたところ、「本格的にやるなら富山で修行すべき」と言われ、思い切って現地へ。町内に複数の工場があったため一軒ずつ飛び込みましたが、どこも簡単には受け入れてくれませんでした。

そんな中、現在の会社の先代社長だけが話を聞いてくださり、手削りの様子を見せていただけました。最初は断られましたが、その後も手紙や電話で半年以上粘り強くアプローチを続け、最終的に「半年だけ試してみなさい」とチャンスをいただき、23歳で職人としての道を歩み始めました。

もともと経営者を目指していたのでしょうか。

最初から経営者を志していたわけではありません。修行を始めた頃は「10年間で技術を磨き、子どもが小学校に上がる頃を目処に地元へ戻るかどうか決めよう」と考えていました。ところが、実際に生活する中で富山の環境に馴染み、家族や子どもにとっても「ここがふるさと」になっていきました。

さらに、この地域には「日本一の木製バット産地」という大きなブランドがあります。その名は全国から注目され、多くのメディア取材やお客様との出会いをもたらしてくれました。これを兵庫に持ち帰ってゼロから築くのは現実的に難しく、この土地で続けていくことが最良の選択だと判断しました。

日本一の産地で働くことの強みは何でしょうか。

やはり「歴史が築いたブランド力」です。ここには先人たちが長年積み上げてきた信頼と実績があります。私自身はそこに加わり、次の世代に技術を受け継ぐ役割を担っていると考えています。ブランドに甘えるのではなく、自分の努力と実績を重ねることで、その価値をさらに高めていきたいと思います。

技術と接客の両立を目指して

現在の従業員体制について教えてください。

当社は、私と妻、そして3名のスタッフを加えた計5名で運営しています。少人数だからこそ一人ひとりの役割が大きく、連携の質が仕事の成果に直結する体制です。

お客さまや社員との関わりにおいて、大切にしていることは何でしょうか。

私は入社当初、職人にとって一番大切なのは「技術力」だと考えていました。しかし、あるお客様から「多少形が違ってもいいから、中塚さんに削ってほしい」と言われたことがあります。その時、技術だけでなく「コミュニケーションや信頼関係」がものづくりにおいて非常に重要だと気づかされました。以来、お客様との会話を丁寧に重ね、思いをくみ取ることを心がけています。

オンライン販売も行っていますが、やはり直接来ていただいた際の対話が信頼を築く大切な機会です。そのため、接客時にはできる限りお客様と向き合い、安心して注文いただける雰囲気を作るようにしています。

社員間のコミュニケーションについてはいかがですか。

木製バットの職人は「職人気質」で、黙々と作業に打ち込む人が多い傾向にあります。その姿勢は品質を支える大切な要素ですが、当社が大手の下請けから自社ブランドを立ち上げ、工場をオープンにしたことで、外部との接点が増えました。接客力や挨拶といったコミュニケーション力も求められるようになり、そこに新たな課題が生まれています。

現在は「得意なことを活かす」スタイルを意識しています。接客に向いている人にはお客様対応を任せ、ものづくりに集中できる人は製造を中心に担ってもらう。少人数だからこそ住み分けが難しい面もあります。

口コミで広がる信頼を大切に―未来の展望

今後の事業展開についてどのように考えていますか。

大きくシェアを拡大してナンバーワンを目指すというよりも、今すでに当社を信頼し、惚れ込んでくださっているお客様を大切にすることを第一に考えています。広告や派手なプロモーションに頼るのではなく、誠意を持ってお客様に向き合い、1本1本のバットに心を込めてつくり続けること。それが口コミを通じて自然に広がり、これまで10年かけて少しずつ信頼を積み上げてきました。今後もその姿勢を崩さずに歩んでいきたいと考えています。

競争の激しい市場において、どのような強みを発揮していきたいですか。

野球人口が減少する一方で、SNSやYouTubeの普及により、個人が自らブランドを立ち上げる動きが活発になっています。市場は飽和気味ともいえますが、その中で当社の強みは「自社工場を持ち、手削りの技術を継承し続けていること」です。大量生産品とは異なり、ユーザーと職人が直接つながり、思いを込めた1本を届けられる点が最大の価値だと考えています。

流行や宣伝に流されるのではなく、「手仕事の温もり」と「お客様との信頼関係」を武器に、今後も地道に実績を積み重ねていくことが当社の未来の形です。ブランドがあふれる時代だからこそ、誠実なものづくりこそが最後に選ばれる理由になると信じています。

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