子育て中の女性にとって、「保育園に預ける」「学ぶ」「働く」は、それぞれが高い壁になりがちです。
Animo株式会社は、こうした課題に対し、「働きながら子育てする環境をトータルサポート」するために、“預ける・学ぶ・働く”を一貫して支援する仕組みを展開してきました。社会経験ゼロから起業した代表・橋本氏が、女性の自立とキャリア支援にかける想いを語ります。
目次
すべての女性に、キャリアの選択肢を—Animoが目指す仕組みとは
現在の事業内容について教えてください。
Animoグループでは、企業主導型の保育園をはじめとした、東京都認証保育園や児童発達支援の療育施設を展開しています。就職活動中や子育て中の保護者が、安心して子どもを預けられる環境を提供し、働きやすさを支えることが目的です。
就労先が決まっていなければ、保育園に預けられない。
保育園が決まっていないと、企業は採用内定を出すのが難しい。
といった社会課題を解消するために、保育と就労支援をセットで考える体制が整っています。
また、グループ会社のAnimo Plus株式会社では、発達障がい児を持つ母親が就労困難な状況にあることに着目。
これを改善すべく、東京都内に2つの事業所「ママサポセンター」を開設し、発達障がい児の療育施設と母親の就業環境を整備。ママサポセンターでは、在宅ワーカーの育成事業・企業のバックオフィス業務の請負事業を行っています。
発達障害のあるお子さんを1日預かる療育施設を運営し、その近くで保護者が働けるワークスペースも用意しているため、子育てと仕事を両立できるよう、物理的にも心理的にも距離の近さを意識しています。
研修や就労支援ではどのような仕組みを作っているのでしょうか?
在宅ワークを希望する方には、プログラミング(GAS)や経理などの実務講座を提供しています。
特徴は、学んだ後にAnimoが発注する業務を担ってもらえること。無償・有償のインターン制度を経て、実際に企業のバックオフィス業務に携わることで、「学び→実践→就労」までを一貫して経験できます。
「学んだのに仕事がない」「経験がないから採用されない」といったミスマッチが起こらないよう、業務の内容と研修カリキュラムをリンクさせる工夫もしています。未経験の方でも、ステップを踏んで実務をこなしていける仕組みです。
他社にはないAnimoならではの強みとは?
多くの企業が「保育」「教育」「就労支援」をそれぞれ個別に行っているのに対し、Animoではそれらを一体化しています。
子どもを預け、スキルを学び、すぐに実務につなげられる。この一連の流れを同じ環境の中で実現している点が最大の特徴です。
働きたくても子どもを預けられない、スキルがない、ブランクがある、そんな声を拾い、ひとつずつ乗り越えていく。仕組みをつくることで、誰もが社会とつながり直せるようにしたいと思っています。
社会経験ゼロの“わたし”が、起業するまで
橋本さんご自身のキャリアはどのように始まったのでしょうか?
私はもともと社会経験ゼロの専業主婦でした。子どもが小さい頃、働きたくても「家の近くで時給で働く」以外の選択肢が思い浮かばず、時間の制約や家事育児との両立を考えると現実的には難しかったんです。
でも、将来のことを考えたとき、「このまま非正規で働き続けても、自分の価値を高められるとは限らない」と気づきました。子どもが20歳になるころ、自分は48歳。何もスキルがない状態では、企業から必要とされる人材にはなれない。そう考え、「自分の価値をつくる方法」を模索し始めました。
照明作家として活動された経験があるそうですね。
はい。まず「家でできる仕事はないか」と考えて、竹に穴を開けてつくる照明づくりに挑戦しました。
作品はすべて独学で制作し、自ら個展を開いたうえで企業への営業にも出向きました。そのなかで大手のお花屋さんとの契約が決まり、やがて空港や商業施設のイルミネーションも任されるようになったんです。短期間で大きな案件を動かす経験は、自分にとって大きな転機になりました。
Animoを立ち上げたきっかけは?
活動を続けるなかで、周囲のママ友たちから「どうしたら自分も働けるのか」という相談を多く受けるようになったんです。
「社会に出たいけど出られない」という不安を抱えているのは私だけではないと実感し、これは社会全体の課題だと気づきました。
だから私は、個人の努力に頼るのではなく、「仕組みをつくること」で女性たちを支えたいと思いました。そうして、Animo株式会社を設立したんです。法人化することで支援の幅を広げ、本気で社会に貢献できる基盤を整えることができました。
組織づくりに込める想い—社員250名の心をどうつなぐか
現在の組織の規模と、社員との関係性について教えてください。
Animoグループ全体では、現在およそ250名の社員が在籍しています。
ここまで組織が大きくなると、すべての社員と日常的に対話するのはどうしても難しくなります。だからこそ私は、「全員と話せなくても、自分の想いだけはしっかり伝えたい」と考えています。
その取り組みのひとつが導入研修です。
Animoでは入社式を設けていませんが、新たに入ってきた人に対しては必ず、理念や会社が目指す方向、そしてなぜこの事業を行っているのかといった根っこの部分をキャリアコンサルタント資格を保有する社内講師が、全従業員に伝え続けるように仕組み化しています。これは創業当初から一貫している大切な姿勢です。
社員に求めるのは「保育スキル」だけではないと伺いました。
特に保育事業においては、保育士の社会課題も大きくあり、2024年度の保育士登録者数は約179万人に対し、従事者数は約68万人です。登録者数は増加しているものの、実際に社会福祉施設等で従事している者は全体の約4割程度となっており、資格を持っている方でも現場経験がない方が多く、また一度保育の仕事を離れた人が戻ってこられない構造もあります。
だからAnimoでは、保育士という職業の枠にとどまらず、社会人としてのスキルや意識を育てる研修にも力を入れています。
例えば、社会人マナー、ビジネスの基本、職場でのコミュニケーションなど、「保育士として働かなくなっても社会で活躍できる力」を身につけてほしいと考えているんです。社員一人ひとりの将来を見据えた支援ができる会社でありたいと思っています。
社員から寄せられる反響で、印象的だったことはありますか?
「橋本さんのようになりたい」と言ってくれる社員もいますが、私はむしろ、社員のみんなのほうが専門性も経験も豊かだと思っています。
私が何もできなかったからこそ、「私でもできた」という事実が、社員にとって身近なロールモデルになるのかもしれません。
私は、すべての社員の仕事をこなすことはできません。でも、だからこそ「信頼して任せる」ということを大切にしています。自分ができないことを誰かに任せ、任せた人が誇りを持てる組織でありたい。それが私の考えるチームの形です。
社会の“当たり前”を変えていく—Animoの未来構想
今後、会社としてどのような展望を描いていますか?
私がこれから実現したいのは、「民間版マザーズハローワーク」のような存在を全国に広げていくことです。
実際、各都道府県にはマザーズハローワークがありますが、そこに本気でキャリアと向き合う女性がどれだけ通えているかというと、まだまだ少ないのが現状です。
だからこそ、もっと日常に近い場所で、もっと身近な存在として、働くことや学ぶことを支援できる場所が必要だと思うんです。
Animoが提供する仕組みは、単なる保育や研修ではなく、人生そのものを支える接続点でありたいと考えています。
現在の主力である保育事業の今後については?
企業主導型保育園は子育て中の方々にとって、とても重要なインフラ事業ではありますが、少子化の影響もあり、制度的に新規開設が難しくなってきています。また少子化の影響もあり、今後は大規模に展開していくというよりも、質を高め、地域に根ざした形で展開していくことが求められると感じています。
一方で、今力を入れているのがソーシャルビジネス領域。「私たちは何のために存在しているのか」「どんな社会課題を解決できるのか」を軸に、社会貢献につながる事業を着実に拡げていきたいと思っています。
女性のキャリア支援や、家庭の中にある働きづらさを解消する仕組みづくりは、まだまだ可能性が広がっています。
将来的に取り組んでみたいテーマなどはありますか?
実は社内ではよく「私たちが歳をとっても、共に過ごせる面白い介護施設をつくろう」と話しています(笑)。
というのも、私たちの社員にはお子さんがいない方やシングルの方も多く、長く働いてくれている人たちの“その後”を一緒に考えたいという気持ちがあります。
また、児童養護施設が、寄付や公的な収入で運営されるだけではなく、「大人になって、働くことが楽しい」と思えるように、企業が積極的に子どもたちを育てていく仕組みができたら、企業の人材不足や、子どもが夢を描く未来づくりもできるのではないか。と、思っています。
例え子どもを産まなくても、「社会の中で誰かを育てる」という形はある。私たちの社員や事業を通して、そんな未来を形にしていけたらと本気で思っています。

経営と家庭、そして“わたし自身”のために—橋本代表の素顔
多忙な日々の中で、リフレッシュの方法はありますか?
経営をしていると、どうしても人との関わりで悩んだり疲れたりすることがあります。
そんなとき私が無心になれるのが「料理」です。
朝6時から数時間、家族のご飯や作り置きを作る時間は、考えを整理したり、自分に戻るための大切な時間です。材料に向き合って手を動かしていると、不思議と心が落ち着きます。
ご家族との関係にも大きな支えがあったのでしょうか?
起業した当初は、家族との時間をなかなか取れませんでした。でも最近、大学生の娘から「当時は寂しかったけれど、社会を変えるママの姿はすごい」と言われて、胸が熱くなりました。
家族との関係は今も深く、毎日LINEでやりとりしています。子どもたちからの刺激も、私にとっては原動力になっています。
だからこそ、自分らしい人生を選びたいと願うすべての人が、確かな一歩を踏み出せるように、これからも現実に即した支援の場を届けていきたいと思っています。