ゴルフの常識を変える“100ヤード以内”の競技が、今注目を集めています。日本で初めて体系化し、誰もが挑戦できる新しいゴルフ文化として広げているのが、一般社団法人日本プロアプローチ協会です。年齢や性別、経験の差を超えて同じ舞台に立てる――そんな理想を形にした背景と、競技に込めた思いについて伺いました。
目次
「距離ではなく技で勝負」――100ヤードに込めた挑戦と新たなゴルフ文化づくり
まず、事業内容と100ヤード競技を始められた背景について教えてください。
当協会では、ゴルフの中でも「100ヤード以内」に特化した競技大会を開催しています。通常のゴルフが18ホールを回る長距離の試合であるのに対し、私たちはアプローチに焦点を当て、日本で唯一この形式を採用しています。
もともとミニツアーを運営していましたが、プロ中心でアマチュアが参加しづらい環境でした。そこで、年齢や経験を問わず誰もが挑戦できる競技をつくりたいと考え、「100ヤード以内」という距離に特化しました。短い距離なら、子どもからシニアまで、男女関係なくフェアに競える。これが、多くの人が新たな楽しみを見つけられる場になっています。
実際の取り組みや会員層についてはいかがでしょうか。
昨年9月にプレ大会を開催し、今年から本格的にスタートしました。初年度は各地で予選大会を行い、11月には全日本選手権を予定しています。会員募集はSNS広告を中心に行い、すでに130名が登録。独自の筆記試験「プロテスト」を年4回実施し、理念を理解したうえで参加してもらっています。
参加者の中心は50代・60代で、夫婦や親子で出場される方も多いです。リタイア後の生きがいや、仕事の合間の楽しみとして参加する方も増えています。
この競技を通じて、どのような価値を届けたいと考えていますか。
100ヤードという短い距離だからこそ、1打ごとに集中でき、ミスも成功も共有しやすい。そこから生まれる“人との距離の近さ”が最大の魅力です。これまで孤独なスポーツと思われてきたゴルフを、より温かく開かれたコミュニティに変えていけると感じています。競技をきっかけに、人がつながり、笑顔が生まれる。そんな新しいゴルフ文化を広げていきたいです。
波乱と挑戦のキャリア――流行を読み、時代を生き抜く経営の原点
これまでのキャリアをどのように積み重ねてこられたのでしょうか。
高校時代は名門校で野球一筋。卒業後は建設業に就き、20歳で独立。ちょうどバブル期で人手が求められており、勢いのままに事業を立ち上げました。しかしバブル崩壊で仕事が激減し、27歳のときにおもちゃ屋を開業。ミニ四駆やハイパーヨーヨーのブームに乗って人気店となり、テレビ出演も果たしました。
ただ流行は長く続かず、次の道を探していたときに「フランチャイズビジネス」と出会いました。当時はまだ珍しい分野でしたが、「面白そうだ」と感じて挑戦し、全国で100店舗規模まで拡大。流行や時代の流れを読むことの大切さを学びました。
その後も新しい事業に挑戦されたそうですね。
インターネットの普及に伴い、10円まんじゅうや肉巻きおにぎりなどの飲食事業をフランチャイズ展開しました。中でも北海道・帯広で出会った「豚丼文化」を全国に広めたいと考え、フードコート中心に20店舗を展開。順調に拡大しましたが、コロナ禍によって店舗経営は大きな打撃を受けました。多くの加盟店が撤退を余儀なくされる中、「ここで終わるわけにはいかない」と再起を決意。これをきっかけに、以前から親しんでいたゴルフを本格的に仕事にする道を選びました。
ゴルフ業界に転身された経緯を教えてください。
半年間の猛練習を経てライセンスを取得し、レッスンプロとして活動を開始。スクール勤務やフリー指導を行い、全国指名ナンバーワンにもなりました。しかし、年齢を重ねる中で「現場を続けるだけでは限界がある」と感じ、次のステップとしてツアー運営に挑戦。プロ中心のミニツアーを主催しましたが、賞金制による赤字構造を目の当たりにしました。そこで出会ったのが、ヨーロッパで広がりを見せていた「100ヤード以内の国際競技」です。日本にはなかったこの競技を広めようと決意し、現在の一般社団法人日本プロアプローチ協会の活動へとつながりました。
長年経営の最前線に立たれていますが、どのような信念で事業を続けてこられたのでしょうか。
「やるか、やらないか」。それだけです。資金面での苦労は常にありましたが、どんな事業でも成り立たせる自信がありました。会社員は与えられたルールの中で成果を出す立場、経営者はそのルールをつくり、組織を動かす立場。責任の重さはまるで違いますが、だからこそ面白い。自ら選んだ道を正解にしていくのが経営者の仕事だと思っています。
利益と人の両立――経営判断と現場の声を大切にする組織運営
経営者として、日々の仕事で最も意識していることは何でしょうか。
どんな取り組みでも「どうすれば会社として利益を生み出せるか」という視点を欠かさないようにしています。売上を上げることだけに注力するのではなく、経費をどこまで削減できるか、あるいは将来のためにどこへ投資すべきかを常に考えています。節約が一見正解に見えても、長期的に見れば成長を止めてしまうこともある。だからこそ、目先の損得よりも“未来への投資になるかどうか”を基準に意思決定を行っています。無駄を省きつつも、必要なところにはしっかりお金をかける。そのバランスが経営を続けるうえで何より大切だと感じています。
社員との関わりで意識されていることを教えてください。
昔は営業職だったこともあり、よく社員と飲みに行っていましたが、今は「職場でよく話す」ことを重視しています。わざわざ時間を設けるよりも、日常の中で自然に声をかけることを心がけています。仕事の合間に「最近どう?」と気軽に話しかけたり、表情や声のトーンから状態を感じ取ったり。形式的な面談よりも、雑談の中でこそ本音が出ると思うんです。
まさに“現場主義”ですね。
そうかもしれません。立場が上になっても、現場の空気を感じ取ることは経営判断に欠かせません。社員一人ひとりの声に耳を傾け、全体のバランスを見ながら判断する――それが私の経営スタイルです。
「心の豊かさ」を広げるために――アプローチ競技から始まる未来構想
今後のビジョンについて教えてください。
私たちが目指しているのは、参加する方々が“心から楽しめる場所”をつくることです。会員の中には60代以上の方も多く、皆さんとても前向きでエネルギッシュです。だからこそ、単なる競技の勝ち負けにとどまらず、「人生を楽しむきっかけ」になるような場にしたいと思っています。ゴルフを通じて笑顔が増え、心が豊かになる。そうした循環を全国に広げていくことが、協会の根本的なビジョンです。
その実現に向けて、現在どのような取り組みを進めているのでしょうか。
最も大きな課題は会員数の拡大です。1年目で130名の会員が集まりましたが、まだ道半ばだと感じています。300名、500名、そして1000名という規模を目指すことで、より多くの地域で大会を開催し、会員同士のつながりを強めていきたいです。世代を越えて参加者同士が刺激を受け合い、「また次も出たい」と思える環境を整えることが、私たちの使命だと思っています。

将来的にはどのような展開を構想されていますか。
アプローチ競技に限らず、新しい形のイベントも生み出していきたいです。たとえば音楽や食、地域交流を組み合わせた「ゴルフフェスティバル」のような催しも考えています。ゴルフを軸に人と人がつながり、笑顔で帰っていけるような“第二の居場所”を全国に増やしたい。競技の枠を超え、人生そのものを豊かにすることが私たちの最終的なゴールとしています。
「誰でも参加できるゴルフ」を目指して
プライベートでの趣味や、リフレッシュ方法はありますか。
昔はずっと野球をしていました。社会人チームの代表も務めていたので、休日はほとんど野球漬けの日々でしたね。
今はどちらかというと「趣味が仕事になっている」感覚です。特別に没頭しているものがあるというより、仕事そのものが一番楽しい。最近はInstagramやメタ広告などを見ながら、「どうすればもっと多くの人に競技を知ってもらえるか」「どう発信すればフォロワーが増えるか」と考えている時が一番ワクワクします。
まさに、経営と趣味が重なっているのですね。
そうですね。SNSやSEOなどのマーケティング分野は、今では欠かせない要素になっています。自分で試行錯誤しながら成果が出ると、それがそのままやりがいにつながる。仕事の延長線上に“好き”がある、そんな毎日を送っています。
最後に、「経道」をご覧の方々へメッセージをお願いします。
先ほどもお話ししましたが、今後はとにかく会員さんを増やしていくことが大きな目標です。この競技は、ゴルフ経験の有無を問わず、誰でも挑戦できるように設計されています。スコア130〜140の方もいれば、70台の上級者もいますし、年齢も10代から70代まで幅広いです。クラス分けも行っているので、どなたでも自分のレベルに合った形で楽しめます。
だからこそ、「競技なんて自分には関係ない」と思っている方にも、ぜひ一度体験していただきたいですね。プレーしてみると、思っていたよりも気軽で、何より楽しい。勝敗よりも“挑戦する喜び”を味わえる場になっています。
少しでも興味を持っていただけた方は、ぜひご連絡ください。一緒に、新しいゴルフ文化をつくっていければと思います。

