小さな町工場から宇宙へ――「好き」を原動力に、人を想う経営を貫く

愛知県にある有限会社杉浦発条は、社員10名ほどの小さな町工場ながら、製造した部品が“宇宙”へと羽ばたいた企業です。三代目代表・杉浦弘則氏が掲げるのは、「好きなことをとことんやっていい」という独自の経営方針。社員一人ひとりの個性を尊重し、人生を豊かにすることを第一に考える姿勢は、今の時代に新しい“働く”のかたちを示しています。本記事では、杉浦氏の経営哲学と、未来に向けた想いについて伺いました。

“好き”を原動力に――宇宙へ挑む小さな町工場の哲学

まず、御社の事業内容と特徴について教えてください。

当社は愛知県にある小規模なバネ製造会社です。自動車部品にはほとんど関わらず、ガス機器や工場設備など、身近なメーカー様向けにスプリングを製造しています。特別なことはしていませんが、実は当社の部品が“宇宙”へ行ったこともあるんです。社員10名ほどの町工場が宇宙開発に携われたのは、本当に誇らしい出来事でした。

宇宙と町工場。まさに夢のある挑戦ですね。

ありがとうございます。うちの一番の特徴は「社員が好きなことをやっていい」というスタンスです。電子工作が得意な社員は独自の試験機を開発し、ハンドメイド動画を作りたいという主婦の方にはリモートでYouTube動画をお願いしました。やりたいことを会社とどう結びつけるかを一緒に考えながら、自然と新しい仕事が生まれています。宇宙との関わりも、そんな“好き”の延長線上にありました。

社員の自主性を尊重する経営スタイルですね。

はい。まず「個人の人生が豊かになること」を最優先にしています。それが結果として会社の成長に繋がれば嬉しい、という考えです。私自身も人と話すのが好きで、先日は某ロケットの関係者の方と3時間ほどお茶をしました。それがすぐに仕事に直結しなくても、自分の人生の栄養になる。そうした“人生の栄養”の積み重ねが、結果的に会社を育てていくのだと思っています。

その考え方に至った背景を教えてください。

4~5年前、会社が厳しい状況にあり「もう潰れるかもしれない」と思った時期がありました。そこから、自分や社員の生き方を見つめ直すようになったんです。困っている人に手を差し伸べたり、人の話を聞いたりと、そんな姿勢を仕事にも広げていくうちに宇宙関連の仲間や友人が増えました。6年前まではただの“町工場の三代目”でしたが、人生をオープンにすることで世界が広がったと感じています。

「家を守り、魂を継ぐ」――三代目としての覚悟と経営者としての成長

大学卒業後のキャリアと、家業に戻られた経緯を教えてください。

大学を卒業してから約10年間は東京で働き、いくつかのIT関連企業に携わりました。専門的なプログラマーというよりは、サービスなどの顧客の対応に関わるような立場でした。自由で刺激的な環境で楽しさはありましたが、他に「自分の居場所は別にあるのでは」という感覚もありました。

そんな折、父から「そろそろどうするんだ」と声をかけられたんです。三兄弟の長男である私以外、どこか「定まっていない」感覚でした。このまま誰も戻らなければ会社を畳むのかな」と思う雰囲気があり、その言葉をきっかけに地元へ戻る決心をしました。自分が戻ることで会社が続くなら――その責任を引き受けようと思いました。

実際に経営を継ぐ中で、どんな想いを抱かれましたか。

私の中には「家が続いていくこと、墓が続いていって欲しいな」という気持ちはずっとありました。経営者として会社を残すことが、一族を守ることでもあり、地域に貢献することにも繋がると思ったんです。ただ、血のつながりだけを継ぐのではなく、「想い」や「魂」を受け継いでいくことこそ本質だと感じています。

たとえ将来、この仕事の形が変わったとしても、杉浦発条に流れる「誠実にものづくりと向き合う精神」だけは残していきたい。経営とは、“形ではなく想いを継ぐ”こと。そこに自分の使命を見出しました。

実際に経営を担うようになって感じた変化や学びを教えてください。

最初の数年は手探りの連続でした。2023年時点では10人未満の小さな会社でして、就業規則の作り方すらわからず、何もかも自分で調べながら進めていました。数字にも弱く、銀行や取引先との交渉では、どうやって信頼を得るか悩みましたね。

それでも、経営を続ける中で「自分で考え、提案し、動かす」ことの大切さを学びました。現場に立ち、社員と向き合いながら、少しずつ会社の形を作っていく日々。振り返れば苦労ばかりですが、それ以上に得たものも大きかった。

経営者になって実感したのは、自由と責任が表裏一体であるということ。自分の判断がすべて結果に繋がるからこそ、緊張感と同時に大きなやりがいを感じます。好きなことを追求しながら、会社という“生き物”を育てていくことが、今の私にとって経営の醍醐味です。

「人の心に寄り添う経営」――社員とともに育つ小さな組織づくり

経営の中で、ご自身が特に大切にされていることは何ですか。

関わった人が「スギウラに出会えてよかった」と思ってもらえるように出来たらと、常々思っています。それが価格や品質の面かもしれませんし、単純に「楽しい時間だった」と感じてもらえることかもしれません。どんな形であれ、相手の人生の中で少しでもプラスになれる存在でありたい。仕事を通して人生の栄養をお互いにお土産として得られる事が、私の願いです。

人との関わりをとても大切にされているのですね。

はい。私は「相手の心に寄り添いたい」という思いが強いです。もちろんビジネスとしての取引もありますが、それ以上に“人としてどう関われるか”を重視しています。お金のやり取りよりも、信頼や温かさを残すような関係づくりが理想です。

社員の方とのコミュニケーションについても教えてください。

会社が少しずつ大きくなる中で、組織づくりの難しさを実感しています。ですがやはり一番大切なのは「よく見ること、知ること」だと思っています。工場の現場を任せている右腕的な社員にもできる限り声をかけ、状況を見に行くようにしています。某自動車メーカーの副社長さんが「社員と一緒に風呂に入り、同じ現場で働く」と話していたのを聞いたことがありますが、まさにそれに近い感覚ですね。

現場の空気を感じながら、社員の表情や声から“今”を知る。それが小さな会社における最大のマネジメントだと感じています。電話一本でも、会話一つでも、相手に“気づく”ことを大事にしています。

「みんなで生きる」――人を想う経営が描く未来

今後、会社としてどのようなビジョンを描かれているのでしょうか。

正直に言えば、今はまだ足元の課題をしっかり整える段階です。現在、社員やパートを合わせて十数名ほどの規模ですが、人件費の負担が大きく、まずはそのバランスを立て直す必要があります。
以前、収支改善の為に1人1人を呼び出して、組織編成に関しての意見交換をした時がありました。そのとき社員全員が「みんなで生きよう」と言ってくれたんです。
私はその姿勢に胸を打たれました。そこから自分及び会社に対しての新体制を敷き、全員で会社を支え合ってきました。

社員の方々との強い信頼関係が伝わってきます。

はい。効率や数字だけで判断するのではなく、「誰と生きていくか」を大事にしています。
たとえば、68歳の方が突然来社されて「新しくここで、これから10年働きたい」と言ってくれたことがありました。普通なら採用を迷うかもしれませんが、私は「いいですよ」と即答してしまったんです。社員には驚かれましたが、「うちで働きたい」と言ってくれる人を大切にしたいという気持ちが勝りました。

今後、どのような会社を目指していきたいと考えていますか。

現時点では、まず“今いる仲間と生き抜く”ことが最優先です。その上で、働く人が「ここにいてよかった」と思える場所をつくりたい。宇宙事業のような新しい挑戦にも関わりながら、小さくても温かい組織を守り続けていくことが、今の私のビジョンです。人が人を支える経営――それが有限会社杉浦発条の目指す未来です。

「生きることが経営」――人とつながり、人生を楽しむということ

経営以外で、何か没頭されている趣味やリフレッシュの方法はありますか。

ちょっと大げさですが今は生きてること自体が楽しくて、「生きて生活している」こと自体が仕事であり、趣味であり、リフレッシュです。気の持ちようや姿勢一つで商談も「リフレッシュ」です。商談した後に元気は増えています。バネが売れなければ、バネ以外のことをやればいい。それと、今は”人をつなぐ”ことを、まさに趣味のように楽しんで取り組んでいます。業種を超えて人を繋げたりしております。気まぐれなものでありビジネスではありませんが、結果的に誰かの役に立てるならそれでいいと思っています。

人とのつながりが、仕事にも人生にもつながっているのですね。

そうですね。人と会って話すことが一番の楽しみです。音楽も好きなので、時間があるときは楽器を弾くこともあります。でも結局のところ、仕事もプライベートも境目がなくなってきていて、どちらも“生きていることの一部”なんです。

そうやって毎日を積み重ねていくことが、今の自分にとっての最高のリフレッシュです。

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