研究を“社会で役立つ形”へ──まなび・組織DX合同会社が描く教育支援
まなび・組織DX合同会社 代表 渡部 芳栄 氏
教育現場では今、業務負担の増加やDX化の遅れが課題となっています。そんな中、大学教員として教育研究に携わりながら、教育現場のDX化支援に取り組んでいるのが、まなび・組織DX合同会社の渡部芳栄氏です。研究成果を社会に還元したいという想いから会社を立ち上げた渡部氏に、起業の背景や今後の展望について伺いました。
目次
教育現場に“本当に必要な時間”を取り戻したい
――現在の事業内容について教えてください。
本業では大学教員をしており、教育学を専門にしています。その中で強く感じてきたのが、教育現場のDX化がまだ十分に進んでいないということでした。
もちろん、先生方も「子ども(園児から大学院生まで)と向き合う時間を増やしたい」という想いは持っていると思うんです。ただ、学校現場が抱える業務が多すぎて、どうしても日々の対応に追われてしまう。結果として、教育そのものにも影響が出ているように感じていました。
そこで立ち上げたのが、まなび・組織DX合同会社です。学校教育だけではなく、塾などの私教育、さらには社会教育も含め、「教育」と名のつくさまざまな領域で、効率化できる部分を支援したいと考えています。
大学の中では、学生の成長を可視化したり、強みを分析したりといった業務にも関わってきました。そうした経験を活かしながら、「本来もっと時間を使うべきところ」に集中できる環境を作っていきたいんです。
最近では、企業組織のDX支援にも関心があります。社員の成長や組織づくりも、広い意味では“教育”だと思っているからです。現場の話を聞いていると、「ここを少し変えるだけで良くなるのに」というポイントが本当に多い。そうした改善のヒントを、形にしていきたいと考えています。
“論文だけでは届かない”──社会に還元するための起業
――会社を立ち上げた背景について教えてください。
会社を立ち上げたのは去年の末です。まだ始まったばかりで、本当にこれからという段階ですね。
大学の中で「起業してもいい」という制度が整ってきたこともあり、研究成果をもっと社会に活かせないかと考えるようになりました。研究論文はもちろん大切ですし、学会の中では読まれます。ただ、それだけでは社会に広がっていかない部分もあるんですよね。
現場では「ここを変えればもっと良くなる」と見えていることがあるのに、それを学術的な表現にまとめただけで終わってしまう。その状況に、もどかしさを感じていました。
それなら、自分で動いて社会に届けた方がいいんじゃないか。そう思ったのが起業のきっかけです。
もともと情報系の専門家だったわけではありません。DX支援に必要な知識も、かなり独学で学んできました。最初は地域マップづくりから始まりましたね。
例えば、小学校で作る危険マップにも疑問があったんです。「危ないから行かないで」という発想だけでいいのかな、と。本当は子どもたちが地域に出て、体験しながら学ぶことも大事だと思っていました。
そこで、地域の情報をWeb上で可視化する仕組みを少しずつ作り始めました。その後には、陸前高田の中心街マップにも取り組みました。津波被害から復興していく街やお店の様子を、学生たちが取材し、インタビューの内容を地図上でお店の場所とともに発信できるようにしたんです。
技術そのものより、「地域や教育をどう良くするか」という視点から始まった取り組みでした。
一人だからこそ、“自分で試す”を徹底する組織運営
――組織づくりや働き方で大切にしていることを教えてください。
現在は一人で運営しているので、いわゆる「組織」という規模ではまだありません。ただ、だからこそ、自分の会社こそDX化しなければいけないという意識は強く持っています。
会社名にもDXと入れている以上、自分自身が実践できていなければ説得力がないと思っているんです。
実際、経理業務などはかなり自動化していますし、システム開発でもAIを活用しています。今は複数の開発を同時並行で進めていますが、AIを活用することで、一人でも形にできる部分が増えてきました。
ただ、今後サービスが広がっていけば、一人では難しくなるとも感じています。システム保守や運営体制など、考えなければいけないことは多いですね。
本業で大学教員も続けているので、経営だけに全てを振り切れる状況ではありません。それでも、「まずやってみる」という姿勢は大切にしたいと思っています。
大きな組織を急激に作りたいというよりは、本当に必要な形を見極めながら進めていきたいですね。
岩手県の教育を変える“きっかけ”をつくりたい
――今後実現したい未来について教えてください。
根底にあるのは、「岩手県の教育に貢献したい」という想いです。
全国学力調査を見ると、岩手県は厳しい状況が続いています。もちろん、岩手県そのものが悪いわけではありません。良いところもたくさんありますし、先生方との関係が悪いわけでもないんです。
ただ、学校が抱え込んでいるものが多すぎる気がしています。面倒見が良いという見方もできますが、その分、外部との接点や情報が入りにくくなっている面もあるのではないかと感じています。
学者としてだけではなく、親としても、「この状況をなんとかしたい」という気持ちがあります。
だからこそ、「なぜ今の状況になっているのか」を考えるきっかけを作れる会社になりたいんです。他県では当たり前に行われていることを知るだけでも、見え方は変わるかもしれません。
会社経営についても、以前はとてつもなくハードルが高いものだと思っていました。でも、実際にやってみると、「まず始める」こと自体は決して不可能ではなかった。
本業を持ちながらでも、小さく挑戦することはできます。私自身、本業だけでは届かなかった領域に踏み込みたいと思って会社を作りました。
「このままでいいのかな」と感じている人がいるなら、一歩動いてみるのもいいんじゃないでしょうか。そんな風に思っています。
野球も音楽も、“夢中になる時間”が原点
――趣味やリフレッシュ方法について教えてください。
最近はかなり仕事中心になっていますが、もともとは趣味が多い方なんです。
スキー、野球、水泳など体を動かすことも好きでしたし、ギターやピアノもずっと好きでした。昔は路上で歌っていたこともありますし、曲作りもしていました。自分なりの表現をすることや,自分で作るということが好きだったのだと思います。プログラミングもそうかもしれません。
野球もよく見ていました。福島県出身なので、当時はテレビをつけると巨人戦ばかりだったんです。自然と巨人ファンになりました。
好きだった選手は原辰徳さんですね。あとは清原さんや吉村さん、松本さんあたりも印象に残っています。80年代から90年代にかけてのプロ野球は、本当に華がありました。
趣味で始めたプログラミングを仕事にして、仕事と趣味の境界がなくなってきましたが、そういう時間も含めて、自分らしさなのかもしれません。
これからも、自分が本当に面白いと思えることを大切にしながら、新しい挑戦を続けていきたいですね。