食べた後、体がふっと楽になる。食事で心と体を整える「おがわのじかん」の歩み
株式会社おがわのじかん 代表取締役 小川 洋平 氏
食事は、空腹を満たすためだけのものではありません。心と体の状態によって、食べられるもの、心地よく感じるものは変わります。「おがわのじかん」は、疲れた人が無理なく受け取れる食事を届けることを大切に、飲食店の営業、冷凍食品の製造・発送、オンラインサロンの運営に取り組んでいます。自身が食事に救われた経験を原点に、食べる人の状態から考える食事を形にしてきた小川氏の取り組みや理念、今後の展望について伺いました。
目次
心と体の状態に合わせて、食事を届ける
——現在の事業内容について教えてください。
現在は、飲食店の営業に加えて、オンラインサロン運営、冷凍食品製造業を行っています。この事業に進んだ経緯としては、もともとは、心と体の状態に合わせた食事を提案したいという考えがありました。
横軸に体調、縦軸に心の状態を置いて、お客様のコンディションに合わせた食事を考えるという発想です。体もきつく、メンタルも疲れている時には、スープのように受け取りやすいものが助けになることがあります。一方で、体調も良く元気な時には、運動後のビールがおいしく感じるようなこともあります。
つまり、食材や調理法だけでなく、心と体が何を求めているかも、おいしく感じる条件になるのではないかと考えています。一般的な外食は、元気な方に向けて作られることが多いと思います。しかし、自分自身の経験から、疲れている方に向けた食事があってもいいのではないかと思い、お店を始めました。
自分自身が食事に助けられた経験が原点
——経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
もともとはサラリーマンでした。大学では土木を学び、建設コンサルタントとして働いていました。洪水対策やダムの設計に関わりたいと思い、東京の大学を出た後、街と自然のバランスが良いと感じていた札幌で、そうした仕事ができる会社を探して就職し、15年ほど勤めました。
建設コンサルタントとして働いていた頃は、時代的にもハードワークが多く、20代から30代にかけてかなりきつい時期がありました。その時、妻が作ってくれたスープやご飯に助けられました。妻は管理栄養士の資格を持ち、病院で勤務していた経験もあります。自分にとって危なかった時期を、なんとか食事でつなぎ止めてもらったような感覚がありました。
その後、「どうしてあの時、乗り越えられたのだろう」と考えた時に、食事で整えられるものがあるのではないかと感じたのです。そこから、疲れた人に向けた食事を届けたいという思いが生まれました。
——冷凍食品やサロンなどはどのように始まったのでしょうか。
コロナ禍でお客様がお店に来られなくなった時に、冷凍食品製造業の営業許可を取得しました。疲れている方のためにやっているのに、疲れている時にお店まで来なければならないという物理的な制約があります。また、営業時間という時間的な制約もあります。それを取り払うために、冷凍食品を始めました。
基本的には、調理をしなくてもいいように、湯煎や電子レンジでおいしく食べられるものを作っています。「おがわのじかんからの定期便」という形で、毎月料理が届くサブスクスタイルにしました。お客様が選ぶのではなく、こちらがお客様のニーズを聞いて提案する形です。たとえば、お弁当のおかずにしたい、夜に子どもに食べさせる晩ご飯をもう一品足したいといったニーズを伺い、それに合わせて提案しています。
オンラインサロンは3年前に始めました。きっかけは、お客様から「献立がマンネリ化する」という相談を受けたことです。そこで、自分たちが普段食べている作り置きの献立を公開することにしました。妻が長年手帳に記録していた我が家の献立があったので、それをもとに配信を始めました。
思想に共感できる人と、同じ方向を向いて働く
——組織運営や、今後一緒に働く人に求めることを教えてください。
現在は妻と2人で運営しています。以前はパートスタッフを雇っていた時期もありましたが、コロナ禍などを経て、今は2人でやっています。
今後、人を増やすことになった時には、やはり思想ベースで入ってもらうことが大事です。待遇はもちろん必要ですが、賃金だけで続くものではない部分もあります。特に社員として関わってもらう場合には、どのような考え方で食事に向き合っているのかを理解してもらうことが先にあると思います。
そのためにも、今の段階から発信の仕方を意識しているところです。どのような考え方でやっているのか、何を大事にしているのかという思想の部分を発信していく。その先に、同じように共感してくれる人が来てくれるのではないかと考えています。
飲食店でありながら、飲食店だけではない形へ
——今後の展望や、挑戦していきたいことを教えてください。
お店で体験していただいたことを、日常の食生活として定着させるところまで関わりたい。そのために、今後はオンラインサロンの役割をより大きくしていきたいと考えています。 まだ人数は多くありませんが、そこにつながるように事業を組み立てていきたいです。
飲食店だけで考えると、どうしても日々の来客に左右されます。パンデミックや地震のような出来事がまた起こる可能性もあります。そうした時にも続けられる構造を作っていかなければなりません。その意味でも、3年間続けてきたサロンを改めて定義し、お客様にサービスとして提供していくことが大切だと考えています。
お店は、サロンの入り口であり、体験の場でもあります。まずは、食べた後に体がふっと楽になる感覚を体験していただく。そして、その感覚を特別な外食の時だけでなく、日常の食卓でも再現できるよう伴走するのがオンラインサロンです。
私たちは飲食店を続けたいのではなく、食事によって心と体の状態が整い、自分らしい毎日を送れる人を増やしたいと考えています。そのために、店舗・冷凍食品・オンラインサロンを一つの事業として育てていきたいと思っています。
朝の光を浴び、意図せず前向きになれる状態をつくる
——大事にしている考え方について教えてください。
最近よく考えているのは、短期的な施策と長期的な施策の両方を持つことです。
経営をしていると、目の前の売上や集客と向き合うことは欠かせません。一方で、それだけを追い続けると、どうしても苦しくなってしまいます。
私たちのお店は、今日告知したから明日すぐに結果が出るような業態ではありません。むしろ、「いつか行ってみたい」と思っていただくための積み重ねが大切だと感じています。
そのため、目の前の課題に向き合うと同時に「種を蒔き続けること」を意識しています。
発信もその一つです。今すぐ結果につながらなくても、自分たちが大切にしている考え方や、なぜこの仕事をしているのかを伝え続ける。その積み重ねが、いつか必要としてくださる方との出会いにつながるのではないかと思っています。
経営者としては、短期と長期の両方を見ながら、一歩ずつ進んでいくことを大切にしています。
——リフレッシュ方法について教えてください。
リフレッシュについては、今は休む余裕があまりない状態ではあります。ただ、リフレッシュは大事だと思っています。オンラインサロンのメンバーと名前をつけて始めたものに、「セロ活」があります。太陽の光を浴びてセロトニンを出そうという意味です。
サロンの中には、心や体について自分で試す「人心体実験 」のような考え方があります。筋トレやトレーニングもそうですが、自分の体とメンタルで試してみる。その中で、セロ活には大きな効果があると感じています。
朝に15分から20分でも散歩をして太陽の光を浴びると、思考が脊髄反射でポジティブになります。経営者は孤独になりやすく、うまくいかない時には気持ちも沈みがちです。自分で楽観的になろうとしても、簡単ではありません。
だからこそ、意図せずに前向きになれる状態を作ることが大事だと思っています。