株式会社ホームドライフ 代表取締役 河津伸也氏
「薬剤師の可能性は無限です」そう語るのは、株式会社ホームドライフを率いる河津社長です。
医療業界の既成概念にとらわれず、常に新たな価値創造に挑み続けるその姿勢は、まさに「経営の道」を切り拓く開拓者といえます。
今回は、薬剤師としてのキャリアから経営者へと転身した河津社長の原動力、そして未来を見据えるビジョンについてお話を伺いました。
医療と暮らしをつなぐ新しい薬局のかたち
――現在の事業内容や理念について教えてください。
当社はもともと私がサラリーマン時代にはじめた不動産事業からスタートしましたが、現在は薬局事業(東北初の零売薬局)も展開し、医療と暮らしを融合させた新しい形のサービスを提供しています。
大きな特徴は、薬剤師の視点で「衣(医)・食・住」を支えるという点です。
一般的な薬局のように処方箋通りに薬をお渡しするだけではなく、生活のパートナーとして寄り添うことを目指しています。
当社、ホームドライフの頭文字であるHMDLには次の思いが隠されています。
L(Life:生活、命)の維持には、H(Home:住宅、家)、M(Medical:医療、Medicine、Medication:薬)、D(Drug:薬)が重要であることを表しています。
人の生活に『衣・食・住』が重要なように、生活を支えるための『医(医療)・食(口から取り入れる栄養・薬)・住(住居)』を薬剤師の視点で行う会社として起業しました。
たとえば、当社が手がけた日本初の「賃貸物件向けお薬LINE無料相談」はその一例です。
また現在では、仙台発祥のリライブシャツの正規代理店として「衣」についての提案も強化しており、「株式会社りらいぶ」とともに仙台から日本全国の方のカラダのお悩み解決に新たな提案をしています。
薬剤師から経営者へ ― 転機となった出会いと挑戦心
――経営者になられた経緯や目標を教えてください。
多くの薬剤師は、調剤薬局で働き処方箋による調剤(保険調剤)を行うか、ドラックストアで働き一般用医薬品(OTC)を扱うか、また病院の薬剤部などで調剤を行うことくらいしかありませんでした。これは現在でも変わりません。
10年以上薬剤師の転職相談を受けてきた中で、薬剤師として何か新しい働きの提案ができないか、これがすべてのスタートでした。
多くの薬局は門前薬局としてマンツーマンで目の前にある病院の処方箋を受け付けます。そのため、病院が閉院すると目の前にある薬局も閉局するということが起こっています。
「患者さん」のため「薬剤師の職能発揮」のために、薬剤師として医療機関に依存しない働きを考える必要を考えたのが経営者となるきっかけになりました。
また、私が東北初となる処方箋なしで病院の薬が買える「零売(れいばい)薬局」であるカミツレ薬局を立ち上げたのも、コロナ禍で患者さんが薬の入手が困難になったことがきっかけです。
当社は、薬局オープンから約半年で県外から多くのお問い合わせを頂きました。
法律上、医療用医薬品の郵送販売はできませんが、多くの方から当薬局にご相談を頂き、当社ホームページには半年で約200万件のアクセスをいただきました。
今後の目標は、多くの方のご相談・悩みに対応すること、また「自分(当社)にしかできないこと」を追及することです。
経営者としてのキャリアに最も影響があったのは薬剤師であり恩師の「大河原先生」の存在でした。
安定志向の薬剤師が多い中で、医療機関や医薬品メーカーに対しても「間違っている」ものは「間違っている」という自身の考えをしっかり伝える大河原先生(当時の専務)の姿勢や考えは、大手GMS出身の私にとっては衝撃的でした。
経営において私が大切にしているのは、揺るぎない思いとそれを貫く勇気。どんな困難があっても信念を持ち続けることが、挑戦を続ける力になっています。
私の考えの基礎には、大河原先生との出会いがあったことが非常に大きかったと考えています。
信頼と挑戦が育むオープンな組織文化
――社員との関わり方や組織運営について教えてください。
当社は大手とは違い小さい企業だからこそ代表である私に対しても意見をしやすい環境作りを心がけています。
また、当社の従業員は医療従事者などの業界経験者が少ないのが特徴です。
薬局や病院などでは経験者じゃないと働けないのではないかと心配される方も多いのですが、当社はより患者さんに近い視点を持った方を採用しています。
また、一般用医薬品の販売が可能な「登録販売者」の資格取得支援も行っており、ドラックストアのみではなく新しい登録販売者の働きの場所として当社を選んでいただけるように現在、働きやすい環境整備を心がけております。
登録販売者の働く場所は薬剤師以上に限られており、資格を活かしきれていない方が多い印象です。そのため、当社としては薬剤師だけではなく登録販売者の今後の働きを従業員とともに一緒に考えていきたいと考えています。
ITと個別化医療の融合で未来を切り拓く
――今後の展望と課題について教えてください。
今後は 「セルフメデュケーションのためのEC事業」を加速させたいと考えています。
当社が得意としているところは、インターネットの活用です。
現在、医療業界でのIT施策は大手企業しか実施ができておらず、中小企業の参入障壁が高いのが現状です。
当社は、20年近くのIT活用実績があり、EC事業においてはSEO(オーガニック)のみで3か月で売り上げ1000%アップの実績があります。
これは、患者さんの悩みを対面で聞き、悩みに対応した提案をできたからこそだと考えています。
大手にはできない現場から始まる「薬剤師×IT」をこれからも行っていければと考えています。
最大の課題はマンパワー不足ですが、今後はビジョンを共有できる人材の育成と外部専門家との連携を強化し、組織全体の底上げを図っていきます。
学び続ける挑戦者として
――経営以外で大切にしていることや、影響を受けた人物についてお聞かせください。
経営において大切にしているのは 「誠実さ」 です。
・・・と答える経営者は多いかもしれません。
ただ、私は医療従事者としては「誠実」であるのが当たり前であり、数字で測れない「誠実さ」という言葉には正直興味がありません。
私が意識していることは、まずは「困っている方」や「目の前の方」の悩みに答えること、「結果」が重要だと考えています。
日曜日に薬がもらえず困っている方がいるなら「日曜日に営業をする」
コロナ禍で病院が対応してくれないなら「当薬局が対応する」
非常にシンプルに考えています。
その行動こそが結果となって「誠実」という言葉で評価されていくのであれば、それは非常にうれしいことだと考えています。
まずは、今の現状に満足するのではなく、常識にとらわれず新しいことにチャレンジすることが私が大切としていることです。
そういった意味では、薬剤師としては「大河原先生」が師であり、経営者としては東京日商エステムの「澤社長」の影響を受けていると思います。
――最後に一言お願いします。
今後も常に学び続け、挑戦し続けることで、悩んでいる患者さんや医療業界に新たな価値を提供し、社会に貢献していきたいと考えています。