NPO法人Re-each 代表 亀尾 勇志氏
発達障害への理解は少しずつ広がっているものの、まだ多くの壁が残されています。そうした中で、発達障害のある子どもとそのご家族が安心して暮らせる社会をつくることを目指し、2024年12月に設立されたのがNPO法人「Re-each」です。
本記事では、代表・亀尾氏に、設立の背景や現在の取り組み、そして未来への展望を伺いました。
目次
自閉スペクトラム症の理解を深める講習と活動の広がり
――現在の事業内容とその特徴を教えてください。
私たちは主に、自閉スペクトラム症のある子どもたちのリアルな感覚を、保護者や支援者に伝える講習を中心に活動しています。放課後等デイサービスや児童発達支援事業所向けに実施しており、設立から半年で2件の講習を行いました。アンケート調査では受講者の理解度が大幅に向上し、高い評価をいただいています。
設立から日が浅いからこそ柔軟に動ける点が強みです。正会員には特別支援学校や小学校の教員、児童養護施設の職員など、子どもと日常的に関わる専門家が多数在籍しており、現場の多様な声を反映させながら活動を進めています。
教育現場での経験からNPO法人設立へ 「正直さ」を貫く信念
――法人を立ち上げた経緯を教えてください。
大学では教育学部で特別支援教育を学び、卒業後も様々な立場で子どもたちと関わってきました。その中で、一企業に属しているだけでは自分が解決したい問題に対して柔軟に取り組めないと感じるようになり、NPO法人という形を選びました。社会に働きかける上で最も信頼し、安心していただけるのが、この形だと思ったからです。
自閉スペクトラム症に関心を持ち、以前から動画配信を通じて当事者の声を届ける活動もしてきました。彼らの感覚を理解することは簡単ではありませんが、最も分かりにくい部分にこそ向き合うべきだと考えています。
――大切にしている価値観を教えてください。
私の信条は「正直さ」です。短期的に損をするように見える場面でも、信念を曲げず正直であり続けることが、長期的に見れば強さにつながると信じています。
当事者の声と感動の瞬間 活動の原点となった経験
――これまでのキャリアで特に印象的だった出来事はありますか?
大きな影響を受けたのは、重度の自閉スペクトラム症の当事者である東田直樹さんの著書との出会いです。言葉での表現が難しい中で、自分の感覚を言葉にしたその本に触れ、当事者の声を真摯に受け止めることの大切さを再認識しました。
また、放課後等デイサービスで働いていた時、ある自閉スペクトラム症の子どもと深い意思疎通ができたと感じる瞬間がありました。自分の対応が伝わり、子どもの要求と考えが一致した時の感動は、今の活動の大きな原動力になっています。
現場の声を尊重する組織運営と仲間との協働
――社員や会員の主体性を引き出すために意識していることはありますか?
会員は16名で、ほとんどが教育や福祉の現場で働く専門家です。私自身が中心となって動きますが、現場の声を聴くことは特に意識しています。皆さんの経験や知見を尊重し、それぞれが得意分野で力を発揮できるような形をつくっています。
また、定期的な活動報告も大切にしています。会費を納めていただいているからこそ、透明性の高い報告を行い、「共に活動している」という実感を持ってもらうようにしています。最近では会員自身が勤務先の施設に講習を誘致してくれたこともあり、活動の意義を共有できていると強く感じています。
地域から全国へ 広がる挑戦と未来への展望
――今後の展開について教えてください。
設立して間もないため、まずは基盤を固めていきます。現在は埼玉を中心に活動していますが、今後は全国へ広げ、多くの子どもとそのご家族の力になりたいと思っています。また、地域と企業をつなぐ役割をNPOとして担い、これまで届きにくかった領域にもアプローチしていきたいです。
営業面ではまだ課題がありますが、学び続ける姿勢で挑戦しています。断られることも多いですが、それを経験として蓄積し、前進していきたいと思っています。
――最後に、経営以外で情熱を注いでいることを教えてください。
法人の活動以外でも、家庭教師や放課後等デイサービスの現場で子どもたちと関わる時間を大切にしています。どんな立場であっても、子どもたちと向き合い、成長を支えたい。その想いが、これからも活動の原動力であり続けます。