株式会社といーと 代表取締役 酒井佑佳氏
食物アレルギーで「食べたいのに食べられない」子どもたちがいます。株式会社といーとは、そんな制限を「食べる喜び」に変えるため、卵・乳・小麦など7大アレルゲンを使わない米粉パンの開発・販売を展開しています。
単なる製造販売にとどまらず、パン教室や講師育成、イベント企画など多角的に事業を広げ、全国にコミュニティを育んでいます。
本記事では、同社代表に事業の特徴や理念、キャリアの原点、組織づくり、そして未来への挑戦について伺いました。
制限を超える米粉パン事業と広がる活動
――はじめに、現在の事業内容とその特徴についてお聞かせください。
現在は、アレルギーを持つお子様でも安心して食べられる米粉パンの教室運営を主軸に、パンの製造販売、オンラインサロンの運営、イベントの企画、そして講師の育成まで幅広く手掛けています。
私たちが何よりも大切にしているのは、特定原材料7品目を一切使わないという点です。最近では米粉パンも増えてきましたが、卵や乳製品は使用しているケースも少なくありません。私たちは創業以来、それらを一切使用しない方針を貫いています。これは、アレルギーを持つお子様とそのご家族に、安心して「選ぶ楽しみ」と「食べる喜び」をお届けしたいという強い想いがあるからです。
また、単にパンを作って売る、教えるだけではなく、SNSでの情報発信やオンラインサロンでのクッキングライブ配信、様々な企業とのコラボイベントなどを通じて、より多くの方に米粉の魅力を伝えています。
母の入院が原点 管理栄養士から経営者へ
――経営者になられた経緯についてお聞かせください。
大きな転機は、約9年前に母が糖尿病で入院したことです。厳しい食事制限を課せられた母が「食事の時間が一番辛い」と漏らす姿を見て、管理栄養士としてだけでなく、家族として強い葛藤を覚えました。この経験から「制限があっても心からおいしいと思える食を届けたい」と決意し、起業に至りました。
最初は個人事業からスタートしましたが、5年ほど経って法人化しました。これは「米粉パンが当たり前に買える世の中を作る」という目標に対して、より大きな責任を背負うための選択でした。
「褒めて伸ばす」指導で人の主体性を引き出す
――講師育成において意識されていることはありますか?
常に意識しているのは「ネガティブな言葉を使わず、まず褒めること」です。必ず良い点を伝えてから改善点を伝えることで、相手の自己肯定感を高め、楽しく学んでいただけるようにしています。特に対象は子育て中のママさんが多いため、「自分を認めてもらえた」という体験は大きな励みになります。
また、感謝をすぐに伝えることも大切にしています。レッスン後は必ずその日のうちにお礼を伝える。こうした積み重ねが信頼関係を築き、学びの継続に繋がっているのです。
カフェ事業と市場拡大 米粉を「当たり前」に
――今後の展望についてお聞かせください。
現在は愛知県長久手市で、地域と人をつなぐカフェ事業の立ち上げを計画しています。地元農家の野菜を使ったメニューや大学生との産学連携など、地域に根ざした活動を構想しています。
さらに、海外展開も視野に入れています。米を主食とするアジア地域とは親和性が高く、米粉パンは受け入れられる余地が大きいと感じています。将来的には「日本発のアレルギー対応食」として世界へ広めていきたいと考えています。
市場全体が拡大すれば生産コストも下がり、本当に必要とする人により手頃な価格で届けられるはずです。そのためにも品質や差別化を追求し、常に進化を続けていきます。
努力と家族から学んだ生き方
――経営や人生における信条を教えてください。
「努力だけは誰にも負けない」。これは高校時代の恩師からもらった言葉が原点です。私は決して器用ではありませんが、人一倍コツコツ努力することで道を切り拓いてきました。
また、父の姿勢にも影響を受けています。体調が悪くても愚痴をこぼさず、仕事を淡々と続ける姿は尊敬に値します。経営者である今も、その継続力を見習いたいと思っています。
プライベートではパン作り以外にもミシンやレジンでの小物づくりに没頭し、子どもの喜ぶ顔が大きな癒しとなっています。
――最後に、この記事を読んでいる皆さまへメッセージをお願いします。
株式会社といーとの活動を通じて、食に制限を持つ方やそのご家族に、少しでも多くの「食の喜び」と「笑顔」を届けていきたいと思っています。私たちのパンや教室が、皆さまの食卓をより豊かにする一助となれば、それ以上に嬉しいことはありません。これからも研究と挑戦を重ね、「食のバリアフリー」を広げてまいります。