ProClaim合同会社 代表 花村 憲太郎氏
ProClaim合同会社は、クレームやカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)への組織的対策、顧客満足度の向上、ブランディングまでワンストップで支援するコンサルティング会社です。代表の花村憲太郎氏は、コールセンターの品質管理チームマネージャーとして長年顧客対応の仕組み作りをして来た中小企業診断士(経済産業省登録)であり、具体的な経験と論理に裏付けられた専門性の高いサービスが特徴です。
今回は、花村氏が一度起業後にリブランディングを行った背景と、事業の状況、カスハラ対策に対する展望などを伺いました。
目次
クレーム/カスハラへの対策とブランディングとの関係
――現在の事業内容について教えてください。
当社は「クレームやカスハラへの組織的対策」「顧客満足度向上」「ブランディング」の3つの事業を柱としており、特に、「クレームやカスハラへの組織的対策」については、実践的なノウハウをご評価いただいております。
これらは一見すると別々の領域に見えるかもしれませんが、実は密接につながっています。例えば、クレームやカスハラを今すぐ無くすような特効薬はありません。しかし、自社の強みを明確に打ち出し、それを好んでくれる顧客に届けられれば、自然とクレームやカスハラは減って行き、顧客満足度も高くなって行きます。この「自社の強みを明確に打ち出す」ことと、「好んでくれる顧客に届ける」ことを、当社ではブランディングと呼んでいます。
一方、現に今も継続的にクレームやカスハラが起き続けている場合は、ブランディングの前にまずオペレーションの改善が必要です。企業全体としての判断基準や対応手順を設計し、誰もが同じように対応できるように、アセスメント(実態調査)に基づいた明確なガイドラインの制定や対応マニュアルの作成、相談体制の構築、従業員への研修などを支援することが重要です。
これらの企業活動について、当社では、お客様企業とワンチームとなって対策を構築することで、当社の持っている専門的なノウハウをお客様企業に移植し、お客様企業が自立的にクレームやカスハラを減らし顧客満足度を高めて行けるように支援をしております。
コールセンターの品質管理チームマネージャーからカスハラ対策コンサルタントへ
――花村さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
私は、長年コールセンターで品質管理チームマネージャーを務めてきました。センター全体としてより良い応対品質を実現し、顧客満足度を高めるのが仕事でしたが、クレームへの対策も担当業務であり、最大で、800名いたオペレーターが受けるクレームの三次対応や四次対応を行い、再発防止策を講じておりました。部下の分も合わせると、延べ3,000件以上のクレームに対応してきたと思います。
コールセンターと言うと「電話だけ」と思われる方もいらっしゃいますが、クレーム対応なので、必要な場合には直接顧客のもとに赴いて謝罪や次善策などの提案を行うこともありました。毎回、非常に大きなプレッシャーでしたし、怖い目や危険な目に遭ったこともありましたが、今にして振り返ると、非常に貴重な経験だったと思っています。その後、経営コンサルティングに関する国家資格である中小企業診断士資格を取得しました。
――元々、独立志向はあったのでしょうか。
独立開業については、最初はあまり考えていませんでした。
しかし、中小企業診断士資格を取得後に、実務補習で実際に企業のコンサルティングをしたり、その後も仲間の中小企業診断士から声をかけてもらっていくつかのプロジェクトに参加をしたりといった経験を通じて、次第に、もっとストレートに顧客に価値を提供するために独立開業したいと考えるようになりました。
しかし、ちょうどその頃、社内で広報PRを新たに立ち上げる際に実務全般を任せて貰えたことや、社外でも、ある社会問題を解決するための任意団体で広報PR・ロビイングチームのリーダーとして与野党の国会議員との折衝という大きな役割を担っていたことから、修業期間と考えて5~6年近く独立を見合わせていました。独立には少し時間がかかりましたが、その分、非常に濃密な経験を積むことができたと思います。
3,000件以上のクレーム対応から学んだこと
――最初からクレームやカスハラに専門特化していたのでしょうか。
実は、独立開業した当初は、今の様に明確には自社のブランディングを考えておりませんでした。
今になっては全く甘過ぎる見通しだったと分かりますが、難関と言われている国家資格である中小企業診断士資格を取得し、企業に勤めながらも一定の社外コンサルティングに参加し、お客様企業からもご評価されたりしていたことで、無資格のコンサルティングではないのだから、独立してフルタイムを使えるようになれば十分な仕事が得られるだろうと考えていました。そのため、事業計画書上では初年度から2,000万円以上の売上を見込んでいましたが、今考えると汗顔ものです。しかし、実際に独立開業してみると、そんな甘い見通しはすぐに霧散し、事業計画書の1/10の売上も難しいんじゃないかという事態に追い詰められました。独立前は、中小企業診断士を持っていれば無資格のコンサルタントに比べ優位に立てるだろうという程度に考えていたのですが、独立後は、中小企業診断士どうしで仕事の取り合いに勝つことの難しさを心底痛感させられました。
――クレームやカスハラに専門特化したきっかけを教えてください。
独立直後は、中身など全く選べず下請け仕事を片っ端からやっていました。しかし、単価は安いうえ時間は取られ、独立の時に思い描いていたイメージとも余りに違い過ぎたので、何のために独立したのかと後悔ばかりしていました。
そんな時、ある大手メーカー様から、補助金のお客様がクレームになったので担当していたコンサルタントが手を引いてしまい、代わりに対応してくれるコンサルタントを探しているとの話しを聞きました。誰も引き受けたがらず困っているとのことで、私も気が進んだ訳ではなかったのですが、仕事を選べる状況では無かったので立候補し、全力で取り組みました。その結果、クレームを無事に治めることができたうえ、補助金も採択され、お客様からそのメーカー様に対しお褒めの言葉をいただきました。そうしたところ、そのお客様がそのメーカーのある支店長が担当している重要なお客様だったことで、支店長から「クレームへの対応能力が高い」「お客様の満足度が非常に高い」と気に入っていただき、以来、その支店のお客様を紹介してくれるようになったことが、ブランディングを考える大きな転機となりました。
――コールセンターでの品質管理の経験はどのように活きたと思いますか。
それまで私は、コールセンターでのクレーム対応は、飽くまでもそのコールセンターに限定して有効なスキルだと思っていました。しかし、3,000件以上のクレームに対応し再発防止策を講じて来た経験があったからこそ、お客様のクレームを治め、それ以降にご紹介いただいたお客様からもクレームを起こさず高い満足を実現できたのであり、非常にユニークな経験だったことに気付きました。中小企業診断士の勉強会などでも、類似の経験を持っている人には出会ったことがありませんでした。そのような中で、カスハラが社会問題として報じられるようになったのを目にして、自分の経験やスキルを活かすことでもっと多くの企業の役に立てる思い、クレーム/カスハラへの組織的対策について、専門特化しようと決意しました。
――スキルと経験の棚卸が奏功したリブランディングの好事例だと思いますが、どうやってビジネスとして育てたのでしょうか。
3,000件以上のクレームに対応して来たと言っても、それらはやはり、一つ一つの事例に過ぎません。そこで、それらの事例を、「“今すぐ来い!”と言われた時は、具体的にどういったステップで対応するのが良いか」「コールセンターではなくサービス業全般に置き換えたらどうか」「どんなツールとルールを用意し、アクションをすれば良いか」、などと一つ一つ一般化・具体化し、コンテンツにして行きました。
また、上記と並行して、研修会社に研修サービスとして提案したり、士業仲間などにも情報発信したりすることで、自社のコンテンツの有効性を検証して行きました。その結果、次第に、研修会社から声がかかったり中小企業診断士の所属協会でも独立している方向けの『プロコン向けステップアップ研修』として採用されたりするようになりました。ご支援したお客様企業喜んで下さり、特に、B to B領域のカスハラ対策、ISO10002(苦情対応)に準拠したマネジメントシステムの構築、抜本的な顧客満足度の向上などをご支援したお客様企業からは、当社の専門性を高くご評価いただきました。
カスハラ対策を成功させるためのポイントの解説
――ProClaimさんが特に気を付けていることを教えてください。
大きく3つのことに気を付けています。
1つ目は、カスハラはクレームの延長ではなく、セクハラやパワハラと同じハラスメントの一種である、という点です。そのため、令和7年6月に公布された労働施策総合推進法の改正においても、事業者の責務を明確化することが定められました。当社でも、従業員の皆さんが安心・安全に働けるように、組織的な対策の構築を支援しております。
2つ目は、目の前のカスハラを排撃するだけでなく、根本原因を除去し再発防止策を構築することです。このプロセスが無いと、最悪の場合、人によって排撃できるか大炎上になるかが変ってしまうことになり、それではリスクそのものです。
3つ目は、カスハラを排撃するだけでなく、必ず、顧客満足度の向上と一体として考えることです。組織にとってお客様は、自社に売上を与えてくれる唯一人の存在です。しかし、「カスハラ撃退」ばかりが目的になってしまうと、表面的にカスハラは減ってもそれ以上に顧客満足度まで低下し、お客様の離反を招くことになりかねません。
――ProClaimさんのカスハラ対策支援の、他社に比べた特徴を教えてください。
やはり、私自身がクレームやカスハラの第一線で対応し、組織的な対策を講じて来た豊富な経験を有することだと思います。
クレームやカスハラへの対応は、皆が好んでやりたがる仕事ではないうえ、大きなストレスがかかります。ですから、単に「カスハラには毅然とした対応を」といったスローガンを掲げたり、マニュアルを作ったりしただけでは、時給いくらのアルバイトさんに真摯に対応してもらうことは困難です。一方、だからといって上司にエスカレーションばかりしていたら、上司本来の仕事が滞ってしまいますし、上司もストレスで潰れかねません。ですから、個々の会社のオペレーション、企業文化、スキルや経験といった要素を丁寧に確認しながら、ルールや対応フローを整備して行く必要があります。上記のような対応は、実際に経験しなければ机上の空論になりますが、当社は、豊富な経験に基づいた実践的なノウハウを提供可能です。また、今年からは経験則だけでなく、国際的な標準規格であるISO10002(苦情対応マネジメントシステム)に基づいた体制構築や監査の支援も開始しました。これにより再現性の高い成果を生み出せると考えています。
――中小企業診断士であることは、カスハラ対策にどう影響していますか。
経営コンサルティングの国家資格である中小企業診断士の保有者であるという点も、当社の大きな特徴です。カスハラ対策や顧客満足度の向上策は、一つ一つの施策も重要ですが、企業全体としてどこに向かうかを明確にしたうえで、全ての活動をそこに整合させることが最も重要です。経営方針や経営目標と具体的な施策の平仄が合わなければ、対応が行き当たりばったりになり、色々頑張ったけれど結局何を達成したか分かないということになりかねません。その点、中小企業診断士としての論理的背景に基づき、経営面からも助言できる点は、当社の大きな強みだと思います。
クレーム対応は一見ネガティブに見られがちですが、実際は顧客との信頼を深め、競合との差別化にもつながる戦略的な取り組みです。私は「クレームを減らす」だけでなく「企業を強くする」視点で更に支援を広げていきたいと思います。
法改正を見据えて、今後の事業の見通し
――今後の経営環境と、その変化にどう対応して行くかを教えてください。
近年、カスハラに対する社会的な認知が高まっています。令和7年4月には東京都で所謂カスハラ対策条例が施行され、当社のある埼玉県でも県議会で独自の条例案が検討され、6月にはパブコメが募集されました。また、令和7年6月には労働施策総合推進法が改正されたことで、今後は全ての企業にカスハラ対策が義務化される見通しです。こういった動きにより、理不尽なカスハラにはちゃんと「NO!」と言い、それでも聞き入れてくれない相手は組織的に排撃していく仕組みを作ることは、従業員が安心・安全に働くためにも極めて重要だと思います。
一方、顧客対応の現場にとっては、ネガティブな出来事があった時に、色々と反省するよりも相手をカスハラとして排撃してしまう方が、反省も改善も不要なので実は一番楽です。しかし、途中で伝えた通り、企業にとって顧客は、自社に売上を与えてくれる唯一人の存在です。その存在を軽視することは、中長期的に間違いなく企業を衰退させるはずです。
そのため企業は、単に社会的にホットな話題だからとカスハラ対策をするのではなく、これを機に、自社の存在意義や、そのための在るべき顧客対応の姿をしっかり考えることが不可欠になったと思います。それを具体的な形にして行くことこそが、経営環境の変化に対応し、カスハラ対策と顧客満足度の向上を実現に繋がると考えています。
仕事と趣味の境界線は子ども達の笑顔
――仕事以外の趣味やリラックス方法について教えてください。
以前は趣味と言えばラーメンと読書でしたが、仕事と趣味の境目がほとんどなく、仕事の合間にラーメンを食べ、専門書を読むのが趣味という状況でした。ですが、今は子どもが小さいので、全てが子ども優先になっています。ありふれた言い方ですが、子どもは本当に好奇心旺盛で発送が柔軟なので、飽きないですね。
今は、ある程度休みを取りながら、「子の子どもが大人になった時にどうなって欲しいか」といったことを考える方が、良い提案・良い仕事に繋がっているように思います。
――読者に向けてメッセージをお願いします。
労働力人口の減少が予想され、様々な職業がAIにとって代わると予想されている中で、直接的な顧客接点では、AIやシステムには提供できない温もりのあるサービスを提供することで、機械には提供できない高い顧客満足度を提供することが求められます。また、そのような優れたオペレーションや高い接客技術を身に付けるためには、従業員が安心・安全に働ける環境を作ることが不可欠です。
前述の通り、クレームやカスハラへの対応は、それ自体は誰もが好んでやりたがる仕事ではありません。しかし、目の前のカスハラの解消ではなく、それが起き難い仕組みを作り、より多くのお客様に喜んでもらうための活動だと考えれば、未来の世代に向けた非常にやりがいのある仕事でもあると思います。お客様のため、従業員のため、そして、子供たちに残す未来のために、より良いサービスと従業員満足度の提供に貢献できれば幸いです。