NPO法人木の子 代表 菊地ユミ氏
長野県の里山を拠点に、乳幼児から高齢者まで「0歳から100歳まで学び合える場」を掲げる全世代型フリースクールを運営する菊地氏。都会でのキャリアから移住を経て、地域社会と自然を活かした新しい学びの場をつくり上げてきました。その取り組みの原点や組織運営の工夫、そして未来に向けた展望を伺いました。
里山に根ざした全世代型フリースクール
――現在の事業と特徴について教えてください。
一番大きな事業は「里山スクール木の子」というフリースクールです。一般的な不登校支援や親子の居場所とは異なり、乳幼児から高齢者までを対象にしている点が特徴です。親子参加型の乳幼児クラス、不登校児童を受け入れる学びの場、そして地域の高齢者が活躍できる交流の場を一体化しました。
自然に恵まれた環境で、川遊びや山登り、農作業などを通して「生きる力」を育むのも強みです。さらに地域には昔ながらの知恵や技術を持つ高齢者が多く、子どもたちが世代を超えて学び合える環境が整っています。こうした“全世代型”のモデルは全国的にも珍しく、地域資源と人材資源を最大限に活かした取り組みになっています。
都会から里山へ――移住と起業の原点
――フリースクール設立に至ったきっかけをお聞かせください。
出身は千葉で、結婚後は横浜に住み、人材育成系のコンサルティング会社で働いていました。都会の生活は便利でしたが、満員電車や人の多さに疲れを感じ、「もっと人間らしい暮らしをしたい」と思うようになったんです。ヨガが趣味だったこともあり、心身を整えられる暮らしを求め、7年前に家族とともに長野県へ移住しました。
移住後、地域で子育てをする中で「親だけが子を育てる」のではなく「地域みんなで子を育てる」安心感に出会いました。ヨガの活動を続けるうちに、子ども時代の経験が大人の心身に大きな影響を与えることを痛感し、「子どもも大人も共に育つ場」をつくりたいと考え、まずは居場所としてNPOを立ち上げました。
活動を続けるうちに、不登校の子どもたちと出会い、「学びの要素を取り入れる必要がある」と感じ、フリースクールへ発展させていきました。
理念を共有する組織づくり
――組織運営において意識していることは何ですか。
現在、理事として関わるメンバーは8名です。立ち上げ時の仲間が中心で、今もほぼボランティアに近い形で支えてくれています。だからこそ、理念を共有することを大切にしています。
月1回の研修を実施し、コミュニケーションスキルや人との関わり方を学ぶ場を設けています。さらに、活動で得られた子どもたちの成長や保護者の反応を共有することで、メンバーがやりがいを実感できるようにしています。
前職で学んだ「企業文化のつくり方」や「経営の仕組みづくり」は今の運営に大いに役立っています。理念や文化をどう組織に根付かせるかが、持続的に活動を続けるうえでの基盤になっています。
自然とともにリフレッシュする暮らし
――プライベートの趣味やリフレッシュ方法を教えてください。
ヨガは今も続けていますし、畑や田んぼで野菜や米を育てることも楽しみです。薪割りや自然の中での暮らしそのものがストレス解消になっています。
何よりも子どもと一緒に遊ぶ時間が一番のリフレッシュです。事業そのものが自分の喜びにつながっているので、趣味と仕事が一体化している感覚です。
オルタナティブスクールへの進化を目指して
――今後の展望についてお聞かせください。
現状は不登校の子どもたちが多く通っていますが、将来的には「オルタナティブスクール」へ発展させたいと考えています。これは、公立や私立に次ぐ“第3の学校”として、家庭が自ら選択できる学びの場です。週5日の開校を目指し、より体系的なカリキュラムを整える予定です。
課題は「仕組み化」と「学びの体系化」です。自由度を残しつつも、子どもたちが1年目に何を学び、どのように成長していくのかを明確に示す必要があります。2028年の本格開校を目標に、来年度から試験的なクラスを始める計画です。
営業・資金面の課題も大きいですが、行政や教育委員会との連携、SNSやNPO向け広告サービスの活用など、プロモーションを強化していきます。まだ先の話ではありますが、いずれは地域資源を活かした「山村留学」やホームステイ型の受け入れも視野に入れており、全国から子どもたちが集まる場にしていきたいです。