NPO法人 環境ボランティアサークル亀の子隊 代表理事 鈴木吉春氏
愛知県田原市の西の浜を拠点に活動するNPO法人「環境ボランティアサークル亀の子隊」。子どもたちの純粋な思いから始まった小さなごみ拾い活動は、地域を巻き込み、今や全国から注目される環境保全活動へと広がっています。活動をはじめて28年、NPO法人設立から3年、代表の鈴木吉春氏に、活動の理念やこれまでの歩み、そして未来への展望について伺いました。
海を守る4つの柱
――亀の子隊の活動内容について教えてください。
私たちの活動は大きく4つに分かれます。まずは「クリーンアップ活動」。西の浜を中心に定期的にごみ拾いを行い、漂着ごみの現状を体感してもらいます。次に「海の体験活動」。子どもたちに磯遊びや塩づくり体験を通じて、海の豊かさと大切さを学んでもらいます。
三つ目は「広報活動」です。地域の方だけでなく、より多くの人に現状を知ってもらうため、イベント参加やサークル通信「亀の子クラブ」の発行、SNSでの情報発信を続けています。そして四つ目が「エコツアー」。バスツアーを組み、遠方からでも現地に来て体験していただくプログラムです。実際に浜に立ち、目で見て触れることで、環境問題を自分ごととして捉えていただけるのではと考えています。
子どもたちの思いから始まった活動
――活動を立ち上げたきっかけを教えてください。
私はもともと教員でした。総合学習の時間に子どもたちと西の浜を訪れた際、あまりのごみの多さに「最終処分場よりひどい」と驚いた子どもたちが、自発的にごみ拾いを始めたのです。その姿に心を打たれ、日曜日や夏休みを利用して一緒に活動を続けました。
当初は学校の学習活動として始めましたが、校長交代などの事情で学校としての継続は難しくなりました。そこで「続けたい」という子どもたちの声を受け、地域のサークルとして立ち上げたのが始まりです。その後も「法人化すれば信頼度が増し、補助金や助成金を受けやすい」と考え、3年前にNPO法人化しました。根底にあるのは、子どもたちの純粋な思いを絶やさないという強い気持ちです。
支え合うコミュニティと組織運営
――組織運営や関わる人々との関係について教えてください。
現在は私が代表を務めていますが、活動を支えるのは多くのボランティアの方々です。正会員として参加する子どもたちを「隊員」、その保護者を「親亀さん」と呼び、共に活動しています。年に一度は企業のCSR活動として150名ほどが参加し、一度の清掃で数百キロものごみを回収します。終わった後に浜を振り返ると、人工物の色が消え、自然の美しさがよみがえる。その達成感を共有できることが、活動の大きな原動力です。
一方で課題は「人」と「資金」です。現在はスタッフが1人のみで、ほとんどを私が担っています。継続するためには、あと2人ほど常勤スタッフを増やし、役割を分担できる体制を整えたい。そのための資金確保が今後の大きな課題です。
ゴミ拾いが不要になる未来を目指して
――今後の展望や目標をお聞かせください。
最終的な理想は「ゴミ拾いが必要ない社会を実現すること」です。ただ現実には難しい面も多く、だからこそ「続けられる仕組みづくり」が重要だと考えています。
今は補助金や助成金に頼る部分も大きいですが、将来的には事業収入による自立を目指しています。たとえば企業向けの研修や講演活動など、環境問題をテーマとしたプログラムを提供し、自前で収益を生み出す形にシフトしたいと考えています。SDGsへの関心が高まるなか、企業研修や学校教育と連動した取り組みには可能性を感じています。
続ける理由と支えとなる価値観
――長年活動を続けてこられた理由や大切にしている価値観を教えてください。
一番大きいのは、最初に活動を始めた子どもたちの思いです。「続けたい」という声を受けた以上、自分の都合でやめることはできない。その気持ちが根底にあります。
また、活動を始めた当初は批判も多く「教員が子どもを使って売名している」とまで言われました。けれども続けるうちに、地域や企業が理解を示し、協力者が増えていった。結果として「本当に意味がある活動だ」と証明できたことが、支えになっています。
私が心がけているのは、ごまかさず、ありのままを伝えることです。ごみの量もデータで示し、現実を正直に語る。その積み重ねが信頼につながり、活動を広げてきたのだと思います。これからも子どもたちの思いを受け継ぎ、美しい海を未来へ残すために、活動を続けていきたいと考えています。

