株式会社Psychoro 代表取締役 谷口 敏淳 氏
精神医療と地域社会の間にある「さまざまなギャップ」を埋めることを使命に活動する株式会社Psychoro。企業のメンタルヘルス支援から精神障がい者への就労支援(就労移行支援)、さらにはスクールカウンセリングや啓発活動まで幅広く取り組んでいます。今回は谷口代表に、設立の背景や事業への思い、今後の展望を伺いました。
精神医療と地域をつなぐ事業内容
――御社の事業内容について教えてください。
私たちは「精神医療と地域をつなぐ」ことをテーマに活動しています。現在は主に企業に向けたメンタルヘルス支援に取り組んでおり、従業員のカウンセリングや人事担当者へのアドバイス、研修やストレスチェックの実施などを行っています。
現在、精神障害を持ちながら働く人と一緒に働く可能性が高まっています。メンタルヘルス不調による休職者数も増えている上、障害者雇用においても、精神障害の休職者数が著しく増加していることが示されています。そのような状況にも関わらず、精神疾患に対して社内での「判断と対応」がわからない現状です。そこで精神医療現場での支援の経験と知見を生かし、専門的な視点から企業と従業員双方を支援しています。
また、障害のある方々の就労支援(就労移行支援)にも取り組んでおり、企業と当事者の双方をサポートしながらマッチングの仕組みを作っていくことを目指しています。そのほか、地域の学校へのスクールカウンセリングや、地域ラジオでの情報発信などの普及啓発活動など、多方面から、学校でのカウンセリングや行政との啓発活動、地域ラジオでの情報発信など、多方面から精神医療と社会をつなぐ活動を展開しています。
病院から地域へ ― 起業のきっかけ
――起業のきっかけについて教えてください。
もともと心理職として病院で働いていましたが、「病院で待っているだけでは遅すぎる」と強く感じるようになりました。しんどくなってから来院するのではなく、もっと早期にアプローチできれば多くの人が苦しまずにすむはずです。
精神科での勤務経験の後、大学教員として研究や教育にも携わりましたが、地域にアプローチすることで社会が変わる可能性を実感しました。そこで2016年に一般社団法人Psychoroを立ち上げ、のちに株式会社へ移行しました。精神医療現場の知見や価値観を地域に伝えることで、メンタルヘルスの問題で困る人を少しでも減らしたい、というのが独立の大きな動機です。
印象的だったのは、地域に出て初めて「早めの支援がどれほど効果的か」を実感できたことです。また、企業の人々が思った以上に「助けたい」という気持ちを持っていることも発見でした。偏見ではなく、どう対応すればいいかわからないだけ。そのギャップを埋める役割を担いたいと考えています。
小さな組織だからこそ実現できる
――組織の運営方針や課題について教えてください。
現在は7名体制で活動しています。まだ小規模ですが、専門資格を持ったスタッフを中心に、企業向けコンサルティングやカウンセリングを担っています。
課題はリソース不足です。今は口コミや紹介で依頼をいただいていますが、ニーズは確実に増えており、今後対応しきれなくなる懸念があります。教育や採用にはコストがかかるため、資金調達や人材育成を同時並行で進める必要があります。
営業については、これまでは積極的に行ってきませんでしたが、東京や大阪など大都市圏への進出を見据え、発信や連携を強化し始めています。
全国展開と新しい社会モデルの構築へ
――今後の展望についてお聞かせください。
まずは鳥取を拠点としつつ、関西や関東へ活動を広げたいと考えています。東京ビッグサイトでの講演や企業コミュニティとのつながりも始まっており、オンラインを通じて遠隔支援が可能になってきています。
また、2024年度から、障害者雇用に取り組もうとする企業に対して、認定企業が採用前から支援する障害者雇用相談援助事業が始まっています。弊社はその認定企業にもなっており、この公的制度を活用しながら企業と当事者を結びつける仕組みの構築も計画しています。精神医療と地域の間にある「溝」を、全国規模で持続可能なモデルをつくっていきたいです。
経営者としての素顔
――プライベートでのリフレッシュ方法を教えてください。
小学生と就学前の子どもが2人おり、休みの日に一緒に遊ぶ時間が大きなリフレッシュになっています。また、夜にランニングをするのも習慣です。走ることで心身を整えながら考えを整理する時間にしています。
――最後に、これから起業したい方や経営者の皆さまへメッセージをお願いします。
私は「自分の思いをどんどん話すこと」が大切だと考えています。孤独は精神衛生上良くないだけでなく、研究でも死亡率に関係するほどリスクが高い状態だとされています。だからこそ、信頼できる人や利害関係のない人に思いを話し、アウトプットすることを恐れないでほしいのです。
私自身も、経営者仲間や専門外の人と対話する中で気づきを得てきました。共感や支援は必ず存在します。孤独を抱え込まず、発信できる場を持つことが、事業を続ける上で大きな力になると信じています。

