旭川冷機工業株式会社 代表取締役 上野 純弥氏
北海道・旭川市を拠点に業務用冷凍冷蔵設備の施工・修理を手がける旭川冷機工業株式会社。大手スーパーや食品工場を顧客に持ち、地域の「食」を支える存在です。2019年、26歳で社長に就任した上野代表に、事業の特徴や経営の歩み、そして未来への思いを伺いました。
地域の食を支える冷凍冷蔵設備事業
――御社の事業内容と特徴について教えてください。
業務用の冷凍冷蔵ショーケースや厨房機器の設置工事、メンテナンス、修理が中心です。イオンやローソンといった小売チェーンの設備をメーカーから依頼され、工事を担うケースが多いですね。また、当社の特色として「レンタルショーケース」を100台ほど保有し、スーパーのお中元・お歳暮コーナーや学校祭、地域イベントなどで貸し出しています。道内の業界内でも数が少なく、珍しいサービスだと思います。
――経営の理念やビジョンをお聞かせください。
私たちの理念は「便利を追求し、幸せにする」ことです。冷凍冷蔵設備は食品産業にとって欠かせないインフラであり、止まれば地域の生活そのものに直結します。そのため、確かな技術と誠実な対応で安心を届けることが、私たちの最も大切な使命です。
同時に、人口減少が進む旭川において、一つの事業だけに依存することは会社の存続に大きなリスクを伴います。だからこそ、私たちは挑戦を続け、電気設備や新しい事業領域にも取り組み、持続的に成長できる体制を築こうとしています。その挑戦の先にあるのは、社員や取引先、地域社会の幸せです。インフラを守りながら、新しい価値を生み出し続けることが、私たちが目指す姿です。
26歳で社長就任、逆境から学んだ経営の原点
――若くして社長に就任された経緯を教えてください。
大学卒業後は一度別の会社で働きましたが、2019年に父の急逝をきっかけに事業を継ぎました。就任当時は26歳で、翌年からコロナ禍が始まりました。ちょうど経営者として最初に経験したのが、コロナによる売上減少だったのです。2022年度は1億2000万円まで落ち込み、営業利益では赤字を出しました。そのときに「一つの事業に依存する怖さ」を痛感しましたね。
――経営において大事にしていることは何でしょうか。
まず「人に必要とされる会社」であることです。そしてもう一つは「事業リスクの分散」です。冷凍冷蔵の分野は安定しているように見えても、顧客の投資姿勢次第で変動します。父の代からの蓄積もありますが、自分の代では時代に合わせて新たな仕組みづくりに挑戦しなければならないと考えています。
信頼で築く組織運営と地域とのつながり
――社員や組織運営において大切にしていることはありますか。
地域密着で事業を展開しており、特に信頼関係を重視しています。札幌や函館の同業者ともつながりがあり、むやみに競合せず「共存」を大切にしています。社員にとっても地域社会にとっても安心できる存在であることが、結果的に仕事の質や雰囲気につながると考えています。
――社員の姿勢を引き出すために意識している点はありますか。
「何か起きたことはすべて自分が責任を取る」という気持ちで臨み、心理的安全性を大切にしています。頭ごなしに否定せず、安心して意見を言える環境づくりを心がけています。就任後に導入した朝礼では、毎朝担当現場を確認し合い、必要に応じて注意喚起や相談を行っています。わずか数分の場ですが、一体感を生む効果があります。
――採用や人材に求める資質については。
「最初からできなくていい。真面目に取り組む姿勢」を重視しています。スキルよりも辞めた理由・入社した理由に一貫性があるか、正直に話せるかを見ています。年齢で待遇を変えることはせず、経験や家庭環境に応じた現実的な給与設定をしています。
電気設備・M&A・新規事業への挑戦
――これから挑戦していきたいことを教えてください。
まずは電気設備分野への進出を検討しています。現在は外注が多いため、内製化により効率と利益率の向上を狙います。また、また、今後はM&Aによる事業拡大にも意欲的で、現在とある案件が進行中です。新しい人材の採用や研修参加を通じて社内に刺激を取り入れ、変化を受け入れる風土を育みたいと考えています。業界は従来のやり方に固執しやすいため、外部の知見や新しい価値観を積極的に取り込み、組織全体を成長させていきたいと思います。
二人の時間が生む豊かな暮らし
――趣味やリフレッシュ方法を教えてください。
実は小学生のような趣味ばかりで(笑)、妻と一緒にアニメを観ながら食事をするのが日課です。食後は一緒にゲームを楽しみ、ときには「遊戯王」の大会に夫婦で出場することもあります。家事も分担し、二人で過ごす時間を大切にしており、趣味を共有することで自然と仕事の疲れも癒やされています。
――最後に、この記事を読む経営者や若い世代に向けてメッセージをお願いします。
私は26歳で突然社長となり、コロナ禍で赤字も経験しましたが、挑戦を重ねて今があります。経営に正解はありませんが、「必要とされる存在になること」「リスクを分散して持続すること」は普遍的な考え方です。読者の皆さまも、自分を支える“本当に大事なもの”を見つけ、一歩を踏み出してほしいと思います。

