一般社団法人balanceshift 代表理事 山下 和矢氏
2025年に設立された一般社団法人balanceshiftは、制度の外に取り残される「グレーゾーン」の人々に寄り添い、仕組みづくりを通じて支援の枠を広げていくことを目指しています。代表理事・山下氏に、団体の理念や活動内容、そして今後の展望について伺いました。
「グレーゾーン」とは何か
——まず、一般社団法人balanceshiftの事業内容について教えてください。
私たちは「制度の外にいる方」を支援する活動をしています。
具体的には、診断がつかない、あるいは制度の対象外となっているけれども、生きづらさや辛さを抱えている方々です。
私たちはその方々を「グレーゾーン」と定義しています。
たとえば、
・中間管理職で弱さを見せにくい方
・起業して孤独に悩む方
・診断名はつかないけれども生活に支障が出ている方など。
制度内で守られる人がいる一方で、そうでない人が静かに限界を迎えてしまう現状があります。
そこに光を当て、仕組みとしてサポートしていくのが私たちの役割です。
制度の隙間に落ちる人を救いたい
「これまで10年以上にわたり高齢者福祉の介護現場に携わってきました。現在は障害者福祉事業に従事し、ケアハウスの施設長として制度内で支援できる方々を支えています。
しかしその一方で、“制度に入れず苦しむ人”が多く存在する現実にも直面しました。そして振り返ると、私自身もかつて『辛い』と言えずに心身ともに限界を迎え、仕事での挫折や離婚、人間関係の問題を経て、生活の基盤を一度すべて失った経験があります。」
社会から取り残されたような孤独を味わい、“自分にはもう居場所がないのではないか”と感じた時期もありました。
しかし、そうした事から多くの気づきを経て、自らの挫折の経験があったからこそ、『人はどん底からでもやり直せる』と確信できました。
そして“仕組みを変えることで救える人がいる”と信じ、2025年にbalanceshiftを立ち上げました。
今振り返れば、あの経験があったからこそ、同じように生きづらさを抱える人に届ける活動へとつながっているのだと思います。」
少数精鋭と当事者視点
——現在の組織体制についてはいかがでしょうか。
現在は私と社員1名の少数体制です。フラットな関係性で運営しており、その社員も当事者の子どもを持つ親として経験があるため、支援の現場での理解が深いのが強みです。
制度の外にある声は、表面化しにくい。だからこそ「実体験を持つ人とともに」活動を続けています。
講座づくりと地方創生へ
——今後の展望についてお聞かせください。
今後は「グレーゾーン」に特化した講座を体系的に開発し、広く社会に届けていきたいと考えています。
すでに商標登録の申請も進めており、単なる啓発活動にとどまらず、学びや研修として活用できる実践的な形に整える予定です。
たとえば、企業の研修プログラムや大学での教育カリキュラムに導入できるような設計を意識し、現場で本当に役立つ知識とスキルを提供することを目指しています。
講座を通じて、グレーゾーンを理解し支援できる人材が一人でも増えれば、それが社会全体の受け皿を広げることにつながると考えています。 また、地方創生への関わりも大きなテーマです。少子高齢化や過疎化が進む地域において、グレーゾーン支援は避けて通れない課題です。
私は行政や企業、そして地域の住民と連携しながら、福祉と地方創生を掛け合わせた新しい仕組みづくりを一歩ずつ進めていきたいと考えています。
介護・福祉での10年以上の経験
——ご自身にとって、現場経験はどのような意味を持っていますか
これまで精神障害のある方や、重度の方々と関わる中で「人は少しずつでも回復していける」と実感してきました。
たとえば、入居当初はご家族との関係も悪く、就労(就労Aや就労Bなどの就労が困難な人の為に雇用の機会を提供して能力向上のための訓練を行う制度)で働く事は到底難しいと思われた方がいました。
しかし支援を重ねる中で在宅ワークから就労支援へと少しずつステップを進め、その後は軽度の利用者向けの施設へ転居し週4日働けるまでに変わりました。
今では施設を退去し自宅へ戻られ家族のサポートを受けながら就労へ通われています。
こうした姿を間近で見てきた経験が、バランスシフトの活動の土台になっています。
安心して相談できる環境づくりをこれからも
——最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。
「辛い」と言えない方が多い社会で、静かに限界を迎えてしまう人が少なくありません。
私はそうした状況を変えたいと思っています。
ほんの少し勇気を出して声をあげられる場が身近にあれば、抱え込まずに済む人は必ず増えるはずです。
だからこそ、安心して相談できる居場所をもっと増やしていきたいと思っています。

