株式会社office双葉 代表取締役 比嘉 計氏
人の生と死の間にある“想い”をつなぐ仕事があります。
沖縄を拠点に遺品整理と貿易を手がける株式会社office双葉の比嘉計代表は、誠実さを軸に「ホワイトな遺品整理業」を追求しています。
本記事では、葬祭業での経験を経て独立し、安心して任せられる社会の仕組みづくりへの想いを伺いました。
目次
亡き人の想いを次へつなぐ、遺品整理と貿易の融合
――現在の事業内容と理念を教えてください。
当社は、故人の遺品整理や片付け、そして貿易事業を手掛けています。具体的には、住まわれていた方が亡くなられた物件を整理・清掃し、必要に応じて売却や賃貸のサポートまで行っています。
遺品整理の現場で出た品のうち、まだ使えるものは海外へ輸出しています。年に3回ほどフィリピンを訪れ、現地でのオークションやドネーション(寄付活動)も行っており、廃棄ではなく「再び誰かの手に渡る循環」を大切にしています。
理念として掲げているのは、「安心して任せられる、ホワイトな遺品整理業」。この業界はまだグレーな部分も多く、残念ながら不法投棄などが後を絶ちません。だからこそ、私たちは誠実さと透明性を軸に、行政や地域に信頼される存在でありたいと考えています。
警察委託業務から見えた“死”と向き合う覚悟
――起業のきっかけや、経営者としての歩みを教えてください。
20歳の頃から葬儀業界に携わり、当時は警察の業務委託を受けて、事件や事故の現場対応を行っていました。自殺や殺人などの現場にも立ち会う日々で、命の終わりと向き合う仕事を通じて、「故人の最期を支える」ことの尊さを感じるようになりました。
その後、警察の委託制度が減少することをきっかけに、「亡くなった後の片付け」に軸足を移しました。最初は一人で始めた片付け業でしたが、やるからには本気で信頼される仕事をしたいと考え、個人事業から法人化へ。業界でも珍しく、行政と正式に取引できる体制を整えたのが5年前です。
印象に残っているのは、末期がんの女性との出会いです。生前整理のご依頼をいただき、契約の数日後にその方は自ら亡くなりました。部屋中に「双葉さんにお願いしてよかった」「作業スタッフの方はこれを飲んでね」と書かれたメモが残されていて、その想いに涙が止まりませんでした。あの経験が今も自分の原点です。
学歴も経歴も関係ない、“素直さ”が力になる現場
――組織づくりで意識されていることを教えてください。
現在は7名の正社員を中心に、パートナー企業を含め約15名体制で動いています。うちの特徴は、学歴や経歴を問わず採用していること。高校を中退したり、過去に生きづらさを感じてきた人でも、努力次第で現場を任せられる環境をつくっています。
たとえば22歳の若手社員は、高校に通わず塗装業を経験した後に入社しました。今では主任としてチームをまとめ、同世代よりも高い給与を得ています。「過去がどうであれ、今をどう生きるか」が大事。そうしたチャンスを提供できる会社でありたいと思っています。
社内では上下関係をあまり強調せず、「社長」と呼ぶのも禁止です。立場よりも人としての信頼で動く――そんなフラットな関係性が、現場での連携や判断力につながっていると感じます。
沖縄から全国へ。“社会的弱者”とともに働く未来へ
――今後の展望や挑戦について教えてください。
これまで培った経験を活かし、今後は就労支援の分野にも踏み込みたいと考えています。遺品整理やハウスクリーニング、分別作業といった業務は、障がいを持つ方々でも携われる領域が多くあります。社会的弱者の方々や、過去に非行歴を持つ若者など、「働きたくても働く場がない人」にチャンスを広げたい。
現在は沖縄県の官民連携企業の一社として認定を受けており、行政との協働体制も進んでいます。今後は宮古島や石垣島など離島への拠点展開を視野に入れながら、地域に根ざしたモデルを全国へと発信していきたいです。
音楽とフィリピン支援で心を整える
――プライベートのリフレッシュ方法を教えてください。
昔から音楽が大好きで、仕事の合間にライブやフェスに行くのが楽しみです。ロックでもポップスでもジャンルを問わず聴きますし、会社のBGMもほとんど私の趣味です。
また、年に数回フィリピンを訪れ、スラム街の子どもたちや、孤児院の子どもたちへのドネーション活動も行っています。現地での物資支援や奨学金制度づくりなど、少しずつですが自分なりの社会貢献を続けています。現場で得たものを「誰かの役に立つ形で還元したい」という思いは、仕事にも通じていると思います。
これからも、沖縄から誠実な遺品整理のあり方を発信し、人と人、想いと想いをつなぐ架け橋であり続けたいです。