株式会社HINOE 代表取締役 矢本 洋介 氏
目に見えない個人の特性や価値観に焦点を当てる「認知型多様性(コグニティブダイバーシティ)」の普及によって従来のリーダーシップ像に一石を投じ、内向的な人々が持つ潜在能力を解放するーー。革新的な人材開発・組織開発を通じて日本の企業社会に新たな風を吹き込む矢本氏に、その事業の根幹にある哲学と、今後の挑戦について伺いました。
「目に見えない多様性」を解放して力に変える
――御社の事業内容について教えてください。
当社は人材開発と組織開発を主軸としたコンサルティング事業を展開しています。社名の「HINOE」は「丙=太陽」を意味するのですが、この社名の通り一人ひとりが自分ならではの輝きをもって、世の中に貢献していけるような社会を目指しています。
事業の核として私たちが着目するのは「認知型多様性(コグニティブダイバーシティ)」の包摂というテーマです。これは目に見える属性的な違いではなく、強みや価値観、信念といった目に見えない多様性をインクルージョンしていくことを意味しています。違いはコミュニケーションコストを伴うため、ともすれば「間違い(面倒くさいもの)」と捉えられがちですが、私たちはその違いにこそ企業の競争力を高める源泉があると考えています。
――「内向型リーダーシップ」に焦点を当てていると伺いました。
従来のリーダーシップ像は、外向的で社交性が高く、人の輪の中心にいるような「カリスマ」的人物が一般的でした。しかし、そうした人物像に必ずしも当てはまらない、静かで思慮深い人がリーダーシップを発揮できないのは大きな損失です。
人口の約半数は内向型だと言われています。彼らの持つ洞察力や専門知識は組織にとって不可欠であり、内向型には内向型ならではの資質を踏まえた組織貢献が可能なはずです。ですから「内向的な人はリーダーに向いていない」という社会的な認知を変え、彼らが臆することなくリーダーシップを発揮できるよう支援していくことには、強い意義を感じます。
本音で生きられない日本の実情
――創業の経緯を教えてください。
かつて外資系の医薬品メーカーに勤めていたのですが、そこでは常に自分から目立っていくことが求められ、優秀でも自分をアピールするのが得意でない社員が埋もれていくのを目の当たりにしていました。その次の伝統的な技術系企業では、エンジニアなど内向的な技術者が非常に多く、彼らは黙々と専門知識を深める一方でリーダーシップやマネジメントとは遠い場所にいるという印象がありました。こうした層への支援が圧倒的に足りていない、この偏りを是正したいという思いが次第に強くなり、それが起業の原動力となりました。
――キャリアの中で印象的だった出来事はありますか。
支援の中で、一見外交的で輝かしく見えるビジネスパーソンから「私も外向型のフリをしているんです」と打ち明けられた時です。実は私自身も同じ思いを持っており、本音で生きられない人がいかに多いかという日本の実情を痛感しました。
本物の自分ならではの強みで戦う
――仕事をする上で大切にしていることは何でしょうか。
「オーセンティック」であることです。これは単に「自分らしさ」に甘えるのではなく、「本物の自分ならではの強みで戦う」という姿勢を意味します。内向性という気質を「劣等感」ではなく「誇り」として受け入れ、その気質を生かした活躍の姿を考える。私自身がこの「オーセンティックな生き方」の体現者でありたいと考えています。
――それを掲げるに至ったきっかけはありますか。
これまでの私は、周囲の期待に応えるために自分を演出して生きる場面が多く、その裏で心がすり減る感覚があったんですね。仕事のときだけ別の顔を作る、無理をする、といった生き方はいつか必ず限界が来ます。事業が目指す世界観を私自身が体現するにも、自分が本来の姿であるよう意識しています。
アジアのリーダーシップを推進する立場に
――今後の展望について教えてください。
3年後には売上を6倍にスケールさせたいと考えています。そのために、このニッチなテーマで日本における第一人者としての認知と実績を確立することが目標です。
――ベンチマークしている存在はありますか。
内向型のビジネスパーソンに大きな影響力を持つ台湾のジル・チャン氏をベンチマークとしておいています。書籍の出版やメディア露出を通じて会社の認知度を向上させ、将来的にはアジア各国から声がかかり、グローバルなイベントで「アジアのリーダーシップ」を議論する立場として参画できるような影響力の獲得を目指しています。