株式会社富士山白糸ファーム 代表取締役 渡邉亜子氏
静岡県富士宮市・白糸地区でお米の生産と販売を手がける株式会社富士山白糸ファーム。富士山の雪解け水や寒暖差に恵まれた地域で、農薬節減米や無農薬米を中心に栽培しています。創業者である父の思いを継ぎ、農業経験ゼロから挑戦を始めたのが渡邉亜子さんです。おにぎり専門店の運営やオーナー制、移住事業など、多角的な取り組みを進めながら、地域の田んぼを未来へつなぐことを目指しています。本記事では、その歩みとこれからの展望について伺いました。
地域の田んぼを守り、美味しい米を届ける
――まず、会社の事業内容について教えてください。
当社は静岡県富士宮市・白糸地区でお米を栽培しています。主にコシヒカリを生産しており、農薬を必要最低限に抑えた「農薬節減米」と、農薬を一切使わない「無農薬米」に取り組んでいます。富士山の雪解け水が常に流れる水源と、朝晩の寒暖差という恵まれた環境があるため、美味しさには自信を持って提供できるのが強みです。
また、農業だけでなく、おにぎり専門店を2店舗運営し、地域の食材を生かした商品を提供しています。さらに、お米のオーナー制度なども導入し、農業の持続可能な仕組みづくりを模索しています。理念は「白糸の田んぼを未来につなげる」こと。その思いを胸に活動を続けています。
父の思いを受け継ぎゼロから始めた農業
――経営者になられた経緯や印象的な出来事を伺えますか。
もともとは美容業を営んでいましたが、父が70歳で法人を立ち上げた翌年に病で倒れ、農業の後継者が不在になってしまいました。弟も家族を支える立場で農業は難しく、他に担い手はいませんでした。私は農業経験ゼロでしたが、父の「この地域の田んぼを守りたい」という思いを途絶えさせたくないと感じ、事業を継ぐ決意をしました。
実際に始めてみると、収入の少なさに愕然としました。継ぐだけでは意味がなく、次の世代に渡せる形にしなければと強く感じました。そこから農業に加えておにぎり屋を始めるなど、多角的な取り組みを試みるようになりました。印象に残っているのは、その「覚悟」が芽生えた最初の瞬間です。経営者になったのは必然ではなく、父の思いと地域を守りたい気持ちが背中を押した結果でした。
スタッフが気持ちよく働ける場を
――組織運営や社員との関わりで大切にしていることは何ですか。
農業は重労働で危険を伴う仕事も多いため、スタッフが気持ちよく働けることを何より大切にしています。その人の得意を生かし、やりたいことを任せるよう心がけています。もちろん注意すべき点はしっかり伝えますが、日々の仕事は楽しみながら取り組んでほしいと思っています。
現在は農業を担う2名を中心に、おにぎり店や草刈りなどをサポートするスタッフを含めて10名以上が関わっています。少人数だからこそ一人ひとりをよく見て、適材適所で力を発揮してもらえるよう意識しています。
次世代に残すための多角化と展望
――今後の展望について教えてください。
目指しているのは、私ひとりに依存する経営ではなく、部署ごとに自立した形をつくることです。生産から加工、販売までを一貫して行い、さらにオーナー制や移住アカデミーなどを整備することで、農業を軸に多角化した事業を進めていきたいと考えています。
海外展開にも可能性を感じています。タイなどでは年間3回米が収穫でき、日本食人気も高まっているため、日本米やおにぎりを届けられるチャンスがあると考えています。農業の現状は厳しいですが、地域の田んぼを守り、未来に繋げるために新しい挑戦を続けたいと思います。
歌う時間が心を整える
――プライベートでのリフレッシュ方法を教えてください。
歌うことが大好きで、農繁期には1日8時間ほどトラクターに乗りながら音楽を聴き、大声で歌っています。キャビン付きのトラクターなので外に音が漏れず、思いきり歌えるのが最高のストレス発散になります。月に1回はボイストレーニングにも通い、カラオケや友人とのおしゃべりでも気分転換しています。
自然の中で働き、歌いながら過ごす時間が心を整えてくれる大切なひとときです。これからも自分らしく楽しみながら農業を続け、次世代へつなぐ仕組みづくりに挑戦していきたいと思っています。

