株式会社PITTAN 代表取締役 辻本 和也氏
「最後の瞬間まで“いい人生だった”と思える社会をつくりたい」――そう語るのは、株式会社PITTAN代表取締役CEOの辻本氏。極微量の汗から体の状態を可視化するマシンを開発し、ヘルスケアを“治療”から“日常のケア”へと進化させようとしています。技術を暮らしに溶け込ませる発想と、未来を見据えた展望について伺いました。
技術で描く新しいヘルスケア
――現在の事業内容と理念について教えてください。
弊社は「Lifelong Positivity」、つまり生涯にわたり前向きに生きられる社会の実現を理念に掲げています。人には必ず「理想の自分」と「現実の自分」とのギャップがあります。その差を埋める手助けをすることで、誰もが日々をポジティブに過ごせるようにしたいと考えています。
具体的な事業としては、皮膚からにじみ出るごく微量の汗を採取・分析するマシンを開発しています。このマシンを使うことで、血液検査のように大がかりな手間をかけず、即座に体の状態を可視化することができます。すでに百貨店のコスメカウンターやフィットネスジムで導入が始まっており、美容・健康・スポーツと幅広い領域で活用が期待されています。
起業を決断した理由とこれまでの歩み
――起業に至った経緯を教えてください。
大学では半導体技術を応用したセンサーの研究をしていました。その後、メーカー、コンサルティング会社、ベンチャーキャピタルなどで経験を積みましたが、技術が社会に届かず埋もれてしまう場面を何度も目にしました。「自分が動かなければ変わらない」と感じたことが、起業の大きなきっかけです。
創業当初は研究者中心の組織でスタートしましたが、事業化の段階で大きな壁に直面しました。経営の方向転換を余儀なくされ、経営陣の離脱という困難も経験しました。しかしその中でビジネスモデルを再構築し、技術を「生活者の体験」に変える方針を明確にしたことで、現在の成長につながっています。困難を経たからこそ、「社会に必ず届ける」という思いは揺るぎないものになりました。
人材が育つ組織づくり
――組織づくりで意識していることは何でしょうか。
現在は社員とフルコミットの業務委託を合わせて16~17名ほどの体制で、来年には30名規模を目指しています。特に意識しているのは「成長できる仕組みをどうつくるか」です。創業初期のように仲間意識だけでは成り立たないため、人事評価制度や働き方の柔軟性を整備し始めています。
また、採用では可能な限り「お試し期間」を設けています。数ヶ月間業務委託で一緒に働き、お互いの相性を確かめた上で正社員として迎える仕組みです。結婚前の同棲のように、実際に一緒に過ごすことで相互理解が深まり、長期的な信頼関係につながると考えています。こうした工夫は、急成長する組織に欠かせない基盤になると実感しています。
経営者の素顔と日常のリフレッシュ
――プライベートでの趣味やリフレッシュ方法を教えてください。
健康に関わる事業をしていることもあり、普段から筋トレやファスティングを生活に取り入れています。アルコールも控えめにしており、体を整えることで仕事の集中力も高まります。自分自身で実感しているからこそ、健康習慣の大切さを社会にも広めたいと考えています。
また、仲間や家族と過ごす時間の中で新しい発想が生まれることもあり、事業と生活は互いに影響し合っていると感じます。将来的には、自分のライフスタイルそのものを通じて「ウェルビーイングの実践者」として周囲に示し続けたいです。
世界に広がるビジョンと挑戦
――今後の事業展開についてお聞かせください。
直近では、2026年春に数百台規模のマシンを量産し、国内だけでなくタイ、シンガポール、香港などアジア市場への展開を見据えています。日本では規制の壁が大きい分、海外での実証やサービス拡大にチャンスがあると考えています。
さらに、3年後には売上を現在の数十倍規模に伸ばし、5年以内のIPOも視野に入れています。私たちは「Technical Pop」という理念を掲げ、最先端の技術を生活者が親しみを持って楽しめる体験へと変えていきます。世界中の人々が「健康の不安」ではなく「理想の自分」に目を向けられる社会を実現することが、私たちの挑戦です。

