株式会社古都乃和 代表取締役 村上 豊和氏
株式会社古都乃和は、奈良発のどら焼き専門ブランドとして、通販を中心に全国へとファンを広げています。『婦人画報 お取り寄せアワード』金賞受賞など数々の評価を受け、百貨店催事や法人ギフトでも注目を集めています。本記事では、代表の村上豊和氏に、創業のきっかけや経営への想い、今後の展望について伺いました。
目次
ふるさとの味を未来へ。創業の原点
――創業の経緯を教えてください。
食品メーカーの営業をしていた際に地方を回る中で、人口減少により“ふるさとの味”が少しずつ失われていく現状を感じました。特に地元・奈良もそうで、観光のイメージはあっても、食で思い浮かべてもらえるものが少ないと感じたんです。
その経験から「地方の味を残すには、全国に発信する仕組みが必要だ」と思い、食品通販を専門に行うコンサルティング会社へ転職しました。そこで全国の食品メーカーを支援する中で、地方の味が関東の方々にも強く求められていることを実感したんです。だったら、地元・奈良の味を自ら発信していこう。そう思って立ち上げたのが古都乃和です。
――どら焼き専門にされたのは、どのような理由からですか。
“奈良から全国へ”を掲げる以上、奈良らしさをどう表現するかを考えました。どら焼きは、誰にとっても親しみのあるお菓子でありながら、素材や形で個性を出せるお菓子です。小さくて食べやすく、女性の所作にも寄り添うサイズ感にするなど、新しい感覚で作っています。奈良の素材を使い、土地の文化や背景を感じてもらえる商品づくりを意識しています。
オンラインでつなぐ奈良
――事業の特徴や強みを教えてください。
店舗ではなく、通販を主軸にしていることです。地元に根付くことは大切ですが、奈良だけにとどまらず、全国の方に知ってもらうことを重視しています。通販の仕組みを整えることで、どこにいても奈良の味を届けられるようになりました。最近では法人ギフトや百貨店催事にも参加し、オンラインとオフラインを循環させる形で広げています。
夢中になれる仕事を自分でつくる経営者への道
――経営者になったきっかけを教えてください。
高校までずっと野球をしていたのですが、怪我で夢を断たれました。そこから、自分が夢中になれるものを探すようになったんです。夢を失った分、「今度は自分の手で夢をつくりたい」と思うようになり、働く中でその思いがどんどん強くなっていきました。29歳のときに「これだ」と決めたのが、地元・奈良を発信する事業でした。
――経営で大切にしている考え方はありますか。
お客さまが求めること、自分がやりたいこと、従業員がやりたいこと、この3つのバランスを大事にしています。どれか一つでも欠けると続かないと思っています。お客さまの満足を優先しすぎると自分たちの想いが薄くなるし、逆に自分の理想だけを追うと独りよがりになる。3つの真ん中を探し続けることが経営の軸です。
夢中が主体性を育てる――人が成長する職場づくり
――組織づくりで意識していることを教えてください。
“主体性”を育てることです。仕事に夢中になれなければ、主体性は生まれません。従業員一人ひとりの夢や目標を聞いて、それを実現するために今の仕事がどうつながるかを一緒に考えるようにしています。社内の雰囲気は明るく、みんな仲が良いです。採用のときも、「この人と一緒にご飯を食べたいと思えるか」を基準にしています。結局、人間関係の良さが職場の空気をつくると思います。
通販を核に、次の挑戦へ
――今後の事業展開についてお聞かせください。
まずは通販事業をさらに伸ばしていきたいと考えています。その上で、5年以内に東京と大阪の百貨店で1店舗ずつ出店を目標にしています。出店そのものが目的ではなく、都心での接点を増やして通販の認知を広げるための“広告塔”としての位置づけとしてです。
また、ギフト需要だけでなく、自宅で気軽に楽しめる和菓子やジャムなど、日常に取り入れやすい商品の開発も進めています。
――現在感じている課題と、その対策を教えてください。
一番の課題は生産効率です。どら焼きは1個200〜500円ほどの商品が多く、製造には手間がかかります。同じ労力でも、1個1,000円の商品を作れば売上は大きく変わります。だからこそ、ブランド価値を高めて“高単価でも欲しいと思ってもらえるどら焼き”を作ることが必要だと感じています。これからは品質と付加価値を両立させた新商品づくりを進めていきます。
仕事が人生そのもの。情熱を注ぐ日々
――プライベートの過ごし方を教えてください。
ほとんど仕事ですが、スタッフと食事に行く時間が一番のリフレッシュになっています。食事の場では自然と本音で話ができるので、モチベーションにもつながります。今はとにかく目の前のことに集中していますが、会社がもっと安定したら、野球など好きなことにももう一度関われたらと思っています。
ブランドとしての夢「奈良の名を世界に」
――将来的なビジョンをお聞かせください。
「奈良といえば古都乃和」と言ってもらえるような存在になりたいです。東京に行けば東京ばな奈、北海道は白い恋人、がありますよね。奈良に来たら古都乃和のどら焼き、そんな立ち位置を目指しています。観光土産という枠にとどまらず、日常にも贈り物にも選ばれるブランドをつくっていきたいです。

