株式会社スリーハイ 代表取締役 男澤 誠 氏
横浜市都筑区に本社を構える株式会社スリーハイは、産業用電気ヒーターの専門メーカーとして、多様な業界の“温める”ニーズを支えてきました。ドライヤーや温風機に使われる電熱線を産業用途に転用し、ETCゲートの融雪設備から食品工場の温度管理まで、幅広い分野に貢献しています。同社を率いるのは2代目の男澤誠氏。理念経営を軸に、「人を温める会社であり続ける」ことを掲げ、技術と人の力を融合させたものづくりを続けています。
産業用ヒーターに特化し、オーダーメイドで価値を提供
──現在、どのような事業をされていますか?
スリーハイが手がけるのは、工業設備向けの電気ヒーター。使用環境に応じた完全オーダーメイドで設計・製造を行い、顧客の課題解決に寄り添うのが弊社の強みです。
たとえば、冬季の高速道路ETCゲートでは、雪の付着による通信障害を防ぐため、あらかじめ融雪用ヒーターを設置するケースがあります。また、食品工場ではチョコレートを一定温度で保つための装置など、品質を支える裏方として欠かせない存在なのです。
私たちは電気ヒーターを通じて、“もの”ではなく“人”を温めることを使命としています。単なる製造業ではなく、取引先、仕入れ先、地域社会まで含めた“人”を中心に据える経営が弊社の根幹にあります。
病を機に継いだ家業
──創業に至った理由を教えてください。
創業者である父が病に倒れたことを機に、システムエンジニアとして働いていた私は家業に戻りました。当初は「ものづくりは自分には向かない」と感じていましたが、父の努力と従業員の想いを受け継ぎ、経営の道へと踏み出しました。
入社直後に主要取引先の倒産に直面。売上の7割を失い、資金繰りにも苦労しました。カードローンを駆使して従業員の給与を支払った時期もありました。その危機を転機に変えたのが、前職で培ったITの知見でした。ホームページを刷新し、1社依存から多数取引への転換を図ることでリスク分散を実現。現在では年間500社ペースで新規取引が増加するなど、経営基盤を安定させました。
「人が育つ会社」づくりの鍵は、地域とのつながり
──チームづくりで大切にしていることはありますか?
現在、スリーハイには43名の社員が在籍。人の成長が会社の価値をつくると考え、社員が社会との接点を持てる場を意図的に設けています。その象徴が地域貢献活動です。近隣の小学校と連携し、工場見学ツアー「こどもまち探検」を実施。社員が講師として自社製品や仕事の意義を説明しています。
小学生に自分の仕事をわかりやすく説明するのは難しい。でも、その経験が社会で通じる“伝える力”につながると思っています。CSR活動を通じた社員教育は、弊社の独自性となり、若手人材の採用にも好影響をもたらしていると考えます。
北海道進出と事業拡大、そして理念の深化へ
──今後の展望をお聞かせください。
今後は、寒冷地での需要増を見据えて、2024年に設立した北海道(札幌)営業所での展開や、海外市場へのアプローチにも力を入れていきいます。すでに地域特性を踏まえた製品開発も進行中で、農業や建設現場など、厳しい寒冷環境下でのヒーター需要に応える取り組みを進めています。
札幌は、当社の技術を最も活かせるエリアの一つです。寒さが厳しい分だけ、ヒーターの価値を肌で感じてもらえる。現地の企業や自治体と連携しながら、“地域密着型の技術支援”を行っていきたいと考えています。
一方で、国内に留まらず、アジアやヨーロッパなど海外市場への展開も始めています。自動車・医療・半導体といった産業用途における「精密温度制御」へのニーズは高まっており、日本発の高品質なヒーター技術が求められている分野です。
ヒーターは人の暮らしや産業を“陰で支える”製品です。だからこそ、技術だけでなく、人の思いを込めたものづくりが大切。これからも“人を温める経営”を通じて、社会をより豊かにしていきたいと思っています。

