東横材料応用合同会社 代表 松井 真備人 氏
日本の大手自動車会社に長年務めた後、中国の製造業に身を投じた松井氏。中国の高品質なセラミックヒータを日本市場に展開するため「東横材料応用合同会社」を設立しました。単なる安さではなく日本のモノづくり品質基準とスピード感を武器に、グローバルな技術共有を目指す同氏に、事業の独自性、挑戦への経緯、そして未来へのビジョンを伺いました。
高品質セラミックヒータで市場にスピード感を提供
――御社の事業内容について教えてください。
当社は中国に拠点を置き、電気電子部品に属するセラミックヒータの開発製造販売を行っています。セラミックヒータとは、陶磁器の中にタングステンなどの発熱体回路を閉じ込め、電気を通して急速に熱を発生させる熱源部品です。電子タバコやウォシュレットの温水瞬間生成、電気ポット、測定機器など、皆さんの目に触れないところで幅広く使われています。
――事業の特徴はどのような点にありますか。
最大の特徴は「開発のスピード感」「コストメリット」「少量試作・開発支援」にあります。スピードでいうと、日本企業では施策に半年かかるところを我々は2ヶ月ごとに試作品を提供し、お客様と段階的に完成度を高めていくような迅速な開発プロセスを提供しています。またコストは日本の同等製品と比較してお値打ち感のある価格で提供可能です。更に試作(量産以降も)段階の1個、2個といった少量生産にも対応し、お客様の要望に基づいた熱源設計や仕様検討といった開発のお手伝いも積極的に行っています。
中国に依存しない販売ルートを確立するために
――元々は日本の自動車会社で働かれていたと伺いました。
私は長年日本の大手自動車会社で生産技術に携わっていたのですが、定年間際に現場の仕事が少なくなる中で、知人繋がりで巡りあった中国の製造会社が「日本のモノづくり、品質管理の考え方を学びたい」というので、そちらへ転職する運びとなりました。その後、現地の企業を数社経て現在の会社に至ります。
――その後どのような経緯で日本での会社設立に至ったのでしょうか。
中国と他国の地政学的な問題が顕在化する中、中国に依存しない販売ルートを確立するため、また、日本のモノづくり品質基準による製品を日本市場で展開するため、一昨年、私が代表として日本法人を設立しました。現在は日本市場でこのビジネスが成立するかどうかを模索する段階で、私一人が代表兼実務を担っています。
ベストセラーよりもロングセラーを目指す
――仕事をする上で大切にされている価値観は何ですか。
「ベストセラーよりもロングセラーを」という信念を持っています。一過性のブームではなく、お客様の信頼と商品に対する愛情が続くことで、100年続く愛される企業になれる。我々の技術がどれだけ多くの人々の暮らしを豊かなものに出来るのか、という点を常にブレずに持つことが重要だと考えています。
――今後のビジョンについてお聞かせください。
私は技術というものは「世界で共有すべきものである」と思っています。特定の国や企業が独占するのではなく、グローバルで共有し、人々の暮らしや生活を豊かにするためのお手伝いをするために使うものであると。新たに日本市場に参入したばかりで認知度は低いのですが、そのためにも、様々な実験工房、大学や企業の実験室、あるいはこれまで熱源とは疎遠だったニッチな業界との協業に取り組み、「技術の共有」を推し進めていきたいと考えています。
「自分がこの世界で何をしたいのか」を明確にする
――経営において重要なことは何だと考えますか。
経営においては「何をしたいか」というところを明確にすべきだというのが私の考えです。自社の製品や技術が「どうお客様に役に立つのか」「何を訴求したいのか」という点が、お金儲けよりも一番に来なければならないと私は考えます。
――これから起業する人に伝えたいことは何ですか。
起業するのであれば、「自分がこの世界で何をしたいのか」を明確にすべきでしょう。もしそれがお金に結びつかないのであれば、ボランティアのような別の道を選ぶべきかもしれません。しかしビジネスという形をとるのであれば、「お客様にどう貢献し、どう満足していただけるのか」「それによってどれだけ皆さんがハッピーになれるのか」というところをしっかりと固めることが重要です。そして、その良さを理解してくれる仲間を増やすこと。良いものは、最終的には周りが認めてくれます。私自身も、そのようにして皆さんの信頼や思い入れ、愛情を集める100年、200年と続いていく企業を目指したいと思っています。

