合同会社アラハラスヤッホ 代表 吉田 泰志氏
伊豆の山林を拠点に、林業地ではない森林の持続的な経営に挑む合同会社アラハラスヤッホ。代表の吉田氏は、森を守るだけでなく「森を使う」という視点で事業を展開し、林業の新しい在り方を模索しています。補助事業に頼らず自立したモデルを目指しながら、森の恵みを活かしたノンアルコールドリンク開発など、新たな挑戦にも取り組んでいます。今回は、吉田氏のこれまでの歩みと経営に込める想い、そして未来への展望について伺いました。
目次
森林を守りながら活かす ― 会社の理念と事業の現状
――現在の事業内容や理念について教えてください。
林業地ではない森林の管理がメイン事業です。県の補助を活用しながら間伐や環境整備を行い、災害を防ぐ役割を果たす森を維持しています。さらに、ロープワークによる特殊伐採や森林の管理契約など、暮らしに身近な山を守る取り組みも行っています。
伊豆地域は、戦後の拡大造林政策で針葉樹が大量に植えられました。しかし木材価格が下落した昭和後期以降、整備が滞り、40年以上放置されてきた山林が数多く存在します。地域にとっては「手つかずのまま危険が増す森」が大きな課題となっており、私たちはその受け皿となる役割を担っているのです。
大切にしているのは「森を守る」だけでなく「森を使う」こと。森林がレジャーや文化の舞台にもなりうることを示し、地域社会が森に親しみ、経済的にも循環できる仕組みをつくることを目指しています。
多彩なキャリアを経てたどり着いた林業 ― 経営者としての原点
――経営者になられた経緯や、これまでのキャリアについてお聞かせください。
学生時代は音楽や造園など多彩な分野に挑戦しました。ホームページ制作やカメラマンなども経験し、「やりたいと思ったことをまずやってみる」という姿勢でキャリアを積み重ねてきました。
自分の学び方は「現場に飛び込んでから考える」スタイルです。最初から体系的に学ぶのではなく、必要に迫られたら調べ、仲間や専門家に助言をもらいながら身につけてきました。だからこそ、どの分野においても「できることから動き、続けるうちに形になる」という感覚を大切にしています。
伊豆に移住後、地域おこし協力隊を経て独立。最初は仲間と立ち上げた団体で林業を行いましたが、価値観の違いから「小さな会社は自分自身が意思を持って進めるべきだ」と実感しました。その学びが、現在の経営スタイルの土台になっています。
成果報酬型と焚き火の時間 ― 社員との関係づくり
――従業員との関係で意識していることは何でしょうか。
正社員雇用ではなく、成果報酬型に近い働き方を採用しています。決められた作業を終えれば昼に帰ってもよい。短時間勤務も尊重し、個人の自由な時間を大切にしています。
また、仕事の前に焚き火を囲んで話すなど、何も目的のない時間を共有することを重視しています。林業は危険を伴う仕事だからこそ、ノルマを低く設定し、安全第一で取り組む。こうした姿勢が、安心して働ける雰囲気につながっています。
小さな会社だからこそ、一人ひとりの存在が欠かせません。伐採の技術や体力といった目に見える力だけでなく、雰囲気づくりや人をつなぐ力も大切な価値として尊重しています。それぞれが強みを持ち寄り補い合う関係が、事業の持続性を高めています。
ノンアルコールドリンク開発 ― 森から生まれる新しい価値
――今後の事業展開について教えてください。
森林資源を活用したノンアルコールドリンクの開発に挑戦しています。杉など香りのある植物を蒸留し、山から人力で運び出して商品化する予定です。甘くないノンアル飲料は国内でもまだ珍しく、地域発の新しい選択肢を提供できると考えています。
今後は飲料だけでなく、森で採れる植物や木材を活用した製品づくりにも挑戦したいと思っています。家具や日用品にまで広げれば、山から生まれる多様な可能性を示せるはずです。「森を守ること」と「森を使うこと」を一体にした取り組みを広げることで、地域ブランドとしても発展させたい。伊豆だけでなく、各地で同じようなモデルが生まれる未来を目指しています。
200年後を見据えて ― 経営に込める哲学とプライベート
――大切にしている価値観や、プライベートの過ごし方を教えてください。
「200年後に少しでも影響を与えられることをやる」。短期的な成果にとらわれず、純度の高い活動を積み重ねることを心がけています。そのために無理をせず、自分が良い状態でいられることを重視しています。
プライベートではテントサウナやロードバイク、写真、料理など多くの趣味を楽しんでいます。趣味と仕事の境界は自然に重なり、発想の源にもなっています。森と向き合いながらも、自分の時間を大切にすることで、これからも新しい挑戦を形にしていきたいと思います。

