株式会社葡萄畑 代表取締役 角田美穂氏
働く人々の健康を守ることは、企業の成長と地域社会の持続可能性に直結します。
産業医としての専門性と、経営者としての視点を兼ね備えた株式会社葡萄畑の角田氏は、仙台を拠点に中小企業の健康経営を支える活動を続けています。
本記事では、医療と経営の二つの立場から見える課題や可能性、そして未来への思いについて伺いました。
目次
地域社会と中小企業を支える産業保健サービスと「健康第一」の理念
――現在の事業内容と特徴について教えてください。
主な事業は産業衛生保健サービスです。従業員50人以上の企業に義務付けられている嘱託産業医業務のほか、私が理事を務めるNPO法人を通じて、50人未満の中小企業にも産業保健に関するアドバイスや情報提供を行っています。
仙台という土地柄もあり、特に地元の中小企業を支援したいという思いがあります。大企業では充実したサービスを受けられますが、中小企業ではリソースが限られているのが現状です。そうした企業に寄り添い、健康経営をサポートすることを目指しています。
企業理念は「働く人の健康を第一に考え、地域社会に貢献すること」です。産業保健は直接的な収益を生まないため、投資が難しい分野ですが、長期的に見れば従業員の健康が採用力や企業力を高めると考えています。
精神科医から産業医、そして経営者へ――挑戦を選んだ歩みの理由
――なぜ会社を立ち上げようと思ったのですか。
子供が1歳と3歳の時に夫が亡くなり、フルタイムで精神科医として勤務していました。子育てと仕事の両立に葛藤することが多く、働きすぎや子育てで燃え尽き症候群を経験しました。その経験から「働く人の健康の大切さ」を強く実感しました。
最初は個人事業主として産業医の委託を受けていましたが、本格的に取り組むには「会社」という形が必要だと思いました。自分の心構えのためにも、オファーしてくださる方にとっても、法人格があったほうが信頼につながると感じたのです。企業から雇用される安定した道を選ぶこともできましたが、あえて挑戦を選んだことは自分にとって大きな意味を持っています。
一人経営から描く理想の組織像と、未来の仲間への想い
――現在の組織運営や社員への考え方を教えてください。
現在は一人で事業を運営しています。営業から経理、実務まですべて自分で担っています。小回りが利き、顧客の要望に柔軟に応えられるのが強みです。
将来的に社員を雇うなら、その人に「この会社に入って良かった」と思ってもらえるようにしたいです。生活の糧を得るだけでなく、ライフワークとしてのやりがいも感じられる職場をつくりたいですね。
社員に求めたいのは特別なスキルよりも、一緒に働く楽しさや充実感を共有できる姿勢です。もし仲間が加わるなら、その人の成長ややりがいを真剣に考えたいと思います。
東北から広げる産業保健の可能性と健康と生産性を両立させる挑戦
――今後の展望について教えてください。
東北の産業保健をともに支える仲間たちとの横の連携を強化したいと考えています。志を同じくする産業医や専門家と協力することで、より多くの企業に質の高いサービスを届けたいです。
従業員50人以下の企業にもストレスチェックが義務化される流れがあり、産業保健の重要性はますます高まると思います。大切なのは健康と生産性を両立させることです。健康維持がひいては生産性向上につながる支援をしていきたいと考えています。
仕事を超えて大切にする価値観と人生を彩るリフレッシュ
――経営以外で大切にしていることはありますか。
経営以外で最も情熱を注いだのは子育てです。幼い子どもを一人で育ててきた経験は、私にとって「人生の一大プロジェクト」でした。その経験が、働く女性や子育てに悩む方々を支援したいという思いにつながっています。
趣味はゴルフやヨガ、トレッキングです。特に紅葉の栗駒山は神様に祝福されているような気分になれる場所で大好きです。オペラや舞台鑑賞からも刺激を得ています。気分転換を大切にすることが、仕事を続ける上でも不可欠だと思っています。
――最後に、今後の目標をお聞かせください。
高齢化や女性の社会進出といった新しい課題にも、産業保健の観点からしっかり取り組んでいきたいですね。東北を拠点に、健康経営を広げることで、働く人々が安心してキャリアを築ける未来をつくりたいと思います。