日揮パラレルテクノロジーズ株式会社 代表取締役 阿渡健太氏
日本社会でダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の重要性が高まるなか、障害者雇用は多くの企業にとって欠かせない経営課題となっています。
そうした流れの中で、日揮グループの特例子会社として設立された日揮パラレルテクノロジーズ株式会社は、「全ての人が対等に働ける社会の実現」を掲げ、独自の制度設計と事業モデルで注目を集めています。
代表取締役の阿渡氏に、会社の現状や経営への想い、そして未来への展望について伺いました。
目次
「全ての人が対等に働ける社会」を目指して
――現在の事業内容と特徴について教えてください。
弊社は日揮グループの特例子会社として設立され、主に日揮グループ各社からのIT/DX業務を受託しています。具体的には、機械学習の支援やデータ活用、Web・アプリ開発など幅広いソリューションを提供しています。
特徴的なのは、グループ内で「重要だが緊急ではない仕事」を引き受けている点です。納期が厳しくないため、社員は自分のペースで業務に取り組むことができ、精神的負担を軽減しながら高い品質を維持できます。精神・発達障害を持つ社員が多い弊社にとって、この環境が安定した働き方の実現に大きく寄与しています。理念として掲げているのは「全ての人が対等に働ける社会の実現」です。障害の有無に関わらず、一人ひとりが自分のスキルや特性を活かして活躍できる場を広げていくことが、私たちの使命だと考えています。
経営者となった原点と「運」を味方にした設立
――経営者になられた経緯についてお聞かせください。
きっかけは2019年の日揮グループの分社化でした。その際に一部のグループ会社で法定雇用率を満たせなくなり、私は採用担当として解決策を検討しました。そこで特例子会社を設立すれば障害者雇用率を通算できると考え、本社役員に提案しました。大企業で新規会社を立ち上げるのは高いハードルでしたが、時代背景やコンセプトが合致し、比較的スムーズに設立できたのは「運の良さ」が大きかったと思います。
設立当初は副社長を務め、その後、社長の退任を機に代表取締役に就任しました。私にとって会社を立ち上げたのは初めての経験であり、「運を味方につけること」の重要性を強く感じた出来事でした。
45名の精鋭が活躍する「一人一プロジェクト体制」
――組織運営や社員との関わりについて大切にしていることは何でしょうか。
現在、社員は45名おり、そのうち42名が障害者です。特に精神・発達障害を持つ社員が多いのですが、安定して働けているのは制度設計の工夫によるものです。
例えば、フルリモート・フルフレックスを導入し、場所や時間を問わず働ける環境を整えました。さらに、「一人一プロジェクト体制」を基本とし、社員が顧客とマンツーマンで業務を進めています。これにより、チーム内の人間関係の摩擦によるストレスを最小限に抑えることができています。
一方で、年に一度は全国から社員が集まり、研修や交流会を開催しています。普段は一人でプロジェクトを進めていますが、そうした場で仲間とつながりを感じられることが大きな励みになっています。
外部案件獲得とPM育成による次のステージへ
――今後の展望や挑戦について教えてください。
今後は日揮グループ外の案件、つまり外販を積極的に獲得していきたいと考えています。その実現のために欠かせないのがプロジェクトマネージャー(PM)の育成です。現在は本社から出向できている2名のPMが20件/人近いプロジェクトを兼任していますが、今後は社内からPMを育て、2~3年かけて体制を整えていきます。
また、将来的には障害を持つ社員自身がPMとして活躍できる組織を目指しています。さらに、日揮パラレルテクノロジーズで培った仕組みを本社や他企業に「逆輸入」し、社会全体に多様な働き方を広げていくことが目標です。究極的には、特例子会社が必要とされない社会を実現することを願っています。
経営者としての哲学とプライベートの挑戦
――経営において大切にしている価値観や、プライベートでのリフレッシュ方法について教えてください。
経営において大切にしているのは「全ての人が安心して能力を発揮できる環境をつくること」です。そのために社員との「対話」を通じて制度や仕組みを整え、社員が安心して働けるよう尽力しています。プライベートでは、週に一度サウナに行き、心身をリセットしています。私は身体障害者ですが、パラテコンドーの日本代表としても挑戦を続けています。経営者としてもアスリートとしても、常に前を向いてチャレンジしていきたいですね!