INTERP合同会社 代表 吉田佑輔氏
技術通訳という専門領域で、日本企業の海外進出を支えるINTERP合同会社。電力・製鉄・エネルギーといった産業分野で高い専門性を発揮し、言葉の壁を超えてビジネスを円滑に進める「伴走者」として評価を得ています。
今回は、代表の吉田氏に、事業の現状と経営者としての思い、そして今後の展望を伺いました。
技術通訳を核に据えた独自の強み
――御社の事業内容と特徴について教えてください。
弊社の中心事業は技術分野に特化した通訳です。特に電力、製鉄、エネルギーといった分野に強みを持ち、クライアントの約8割がこれらの企業です。単に言葉を訳すだけではなく、プロジェクトを円滑に進めるための伴走者としてサポートすることを大切にしています。そのため、打ち合わせの趣旨や市場の背景を深く理解し、目的達成に向けたコミュニケーション支援を重視しています。
また、通訳以外にも人材育成と国際イベントのサポートを行っています。大阪万博や東京オリンピック、ラグビーワールドカップなど大規模プロジェクトでは、技術通訳者やバイリンガル人材の手配も担当してきました。こうした取り組みを通じて、単なる通訳会社ではなく「海外ビジネスを円滑に進めるためのパートナー」として評価をいただいています。
フリーランスから経営者へ 組織をつくる転機
――経営者になられたきっかけを教えてください。
もともとはフリーランスの通訳者でしたが、案件が増えるにつれて翻訳や海外ビジネスサポートなど依頼の幅が広がり、一人では対応しきれなくなったことがきっかけです。特に大きな転機は東京オリンピックでの経験でした。スポンサー企業の通訳統括を任され、70人以上の通訳者を選定し、契約やサポートまで一貫して担当しました。この経験から、通訳者として現場で働くだけでなく、管理する側の視点を持つ必要性を痛感し、会社設立に踏み切りました。
――経営者として大切にしていることは何ですか。
一つは通訳者の雇用環境改善です。単価は高いものの安定的な仕事を得にくいのが実情で、多くの通訳者が生計に苦労しています。そこで弊社では、通訳スキルに加えて契約や料金交渉などビジネス力を養う講座を実施しています。もう一つは、日本人のグローバル化推進です。文化や商習慣の違いを理解せずに誤解や摩擦が生じる場面を数多く見てきました。だからこそ、日本人がより広い視点を持てるよう、グローバル人材育成や留学支援にも注力しています。
主体性を育む組織運営と通訳者支援
――社員や通訳者との関わりで意識されていることはありますか。
通訳者は職人気質で、一匹狼のように活動する方も少なくありません。だからこそ、自律したビジネスパーソンとして成長できるよう、主体性を尊重しつつビジネス意識を育てることを大切にしています。単なるスキルアップに留まらず、自ら考え、行動できる力を養うことを目指しています。
また、クライアントの目標達成には現場での最適な判断が欠かせません。そのため、案件の背景や意図をチーム全体で共有し、情報交換やフィードバックの機会を設けています。社員に求めるのは語学力だけでなく「グローバルな視点」と「問題解決能力」です。文化の違いを認識し、解決策を実行できる人材こそが、この仕事に必要だと考えています。
人材育成とグローバル視点の普及を次の柱に
――今後挑戦したいことを教えてください。
特に力を入れたいのは人材育成事業です。昨年から本格的に始めた取り組みですが、通訳者だけでなく広くグローバル人材を育成し、語学力に加えてビジネス力や国際的な視野を養えるようにしていきたいと考えています。通訳サービスの提供は続けつつ、次世代の人材育成に会社の未来を重ねることで、日本の国際競争力向上に貢献したいと思っています。今後は、より多様な人材が国際舞台で活躍できる環境づくりを推進していく予定です。
人生を豊かにする多様な働き方
――お仕事以外で大切にされていることはありますか。
現在はマルタに在住し、リモートで会社を経営しています。移住を決めたのは、家族との時間を大切にしたかったからです。リモートワークによって家族と過ごす時間が増え、大きなリフレッシュにつながっています。
趣味は「パデル」や太極拳、瞑想です。体を動かすことで心身を整え、瞑想は集中力を高めてくれます。パソコンに向かう時間が長いからこそ、外に出て体を動かす時間を意識的に取るようにしています。
――今後の経営者に向けて伝えたいことはありますか。
私は「多様なライフスタイル、ワークスタイル」を提唱しています。日本の会社を経営しながら海外に住む私のような形も、もっと広く受け入れられて良いと思います。仕事だけでなく、プライベートの価値観を大切にすることは非常に重要です。業務の質が伴っていれば不便はなく、むしろ新しい発想や創造性が生まれます。
仕事一辺倒ではなく、多様な環境や人との関わりから刺激を得ること。それこそが、日本人にとって必要な視野の広がりにつながると考えています。