「駄菓子屋」を令和のハブへ。アバターとAIが繋ぐ、誰もが輝ける「居場所」の実験
株式会社ALiEN 代表取締役 中村 暢孝氏
かつてどこの街角にもあった、子供たちの笑い声が絶えない駄菓子屋。その風景が失われつつある現代において、最先端の「アバター技術」と「セルフカフェ」という形態を掛け合わせ、駄菓子屋を令和版の「地域のハブ」として再生させようとしているのが株式会社ALiENの中村暢孝氏です。中村氏は、日本最大級の介護フランチャイズを展開した元経営者という異色の経歴を持ちます。高齢者が社会で活躍する仕組みを構築してきた彼が、なぜ今「駄菓子屋」という業態を選び、アバターという「匿名性の接客」にたどり着いたのか。「既存の社会の仕組みでは活躍しきれなかった人たちが、もう一度プライドを持って働ける場所を作りたい」。その純粋な情熱と、AIを駆使した最小ユニットでの経営スタイル。ビジネスの収益性と社会貢献を高い次元で融合させようとする中村氏の、挑戦の裏側に迫ります。
目次
駄菓子食べ放題とアバター店員。令和に「子供の居場所」を再定義する
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
一番わかりやすい事業としては、駄菓子が食べ放題のセルフカフェを運営しています。最大の特徴は、店舗に常駐するスタッフがおらず、モニターの中の「アバター」が店員として接客を行っている点です。
店内は駄菓子が時間無制限で食べ放題なだけでなく、テレビゲームやダーツ、カードゲームなども置いてあります。主な客層は小中学生で、その次に保護者の方々。子供たちが子供たちだけで安心して遊べる場所、かつ大人が安心して子供を預けて買い物に行けるような、現代の「地域の茶の間」のような空間を目指しています。
――なぜ「アバター」という形態を採用されたのでしょうか。
ここには「働く側」の価値貢献という側面が強くあります。実は、アバターの中の人(店員)は、主に就労継続支援B型事業所に通う障害者の方々にお願いしています。
通常、重度の障害を持つ方にとって、対面での接客業はハードルが非常に高いものです。しかし、アバターという「一枚の壁」を通すことで、彼らは「接客」という社会参加が可能になります。働き手にとっては新しい挑戦の場になり、子供たちにとっては珍しいアバターと触れ合える楽しい体験になる。この両輪が回る仕組みが、この事業の核です。
介護業界のトップから、一人きりの「実験的事業」へ。転換のきっかけ
――経営者になられた経緯を教えてください。
介護の世界で、「高齢者が施設内で仕事をしてお金を稼ぎ、それで利用料を払う」というモデルを作ったことが大きな転換点でした。当初は従業員も家族も、何なら本人さえも「そんなことできるわけがない」と言っていました。でも、3年かけてそれを実現した時、認知症のおじいちゃんおばあちゃんがもう一度社会で輝く姿を見て、猛烈に感動したんです。
「切り口を変えれば、今の社会の仕組みでは活躍できない人たちも、必ず輝ける場所を作れる」。そう確信しました。高齢者だけでなく、障害者やシングルマザー、あるいは心に不調を抱えている人。もっと広い意味で「活躍の場」を創出することに、これからの人生を捧げたいと思ったんです。
駄菓子屋は今、ニーズはあるのにビジネス構造上、利益が出にくいために淘汰されようとしています。でも、地域の中での「ハブ」としての機能は極めて高い。この「ビジネスとして成り立ちにくいが、社会に必要な場所」を、アバターやセルフカフェという形に変えて再構築する。これが私の「実験」なんです。だから、去年あえて大きな会社の代表を降りて、一人でこの会社を立ち上げました。
――実際に働き手の方に起きた「変化」で、印象的だったことはありますか。
テレビメディアの取材が入った時のことですが、普段は内職のような静かな仕事が中心だった障害者の方が、アバターを通じて接客をし、それが全国放送で流れたんです。それを見たご家族が喜んでくれた。
その方は自分の仕事にものすごいプライドを持つようになり、今では新しく入ってきた利用者に「接客ってのはこうやるんだよ」と場を引っ張ってくれるようにまでなりました。自分の仕事が誰かに喜ばれ、社会と繋がっているという実感が、これほどまでに人の自信を変えるのかと。それは本当に嬉しかったですね。
社員ゼロ、AIとプロジェクトベースで回す「最小にして最強」の組織運営
――組織運営で意識していることを教えてください。
基本的には私一人です。今の時代、これだけ生成AIが進歩していますから、ほとんどのことはAIと僕だけで回せてしまいます。事務的な作業はもちろん、企画や分析もAIが相棒です。
常駐の社員を雇うのではなく、必要な時に必要なプロジェクトベースで、他社さんと協力しながら進める。この「部分的な連携」という形が、今の私には一番合っていますね。固定費を極限まで抑え、テクノロジーを最大限に活用する。これが今の「最小ユニット」の経営スタイルです。
――コミュニケーションにおいて、大切にされていることはありますか。
人とお会いして、面白いアイデアが出たら「じゃあ、やってみようよ!」とすぐに動く瞬発力ですね。今、同時並行で15くらいのプロジェクトが動いていますが、そのほとんどがそんな雑談から生まれたものです。私自身、お金を貯め込むことには興味がなくて、やりたいプロジェクトを実現するための資金があればいい。だからこそ、損得勘定抜きで面白い人たちとフラットに繋がることができる。この「軽やかさ」が、私の組織運営の軸になっています。
フランチャイズ化と「Vチューバー」という新たな可能性
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
私はもともとフランチャイズ本部の出身ですから、パッケージ化して広げていくことが得意分野です。まずは単店舗でしっかり利益が出るモデルを確立し、それを「地域の子供たちのために場所を作りたい」という思いを持つ方々に渡していきたい。私が子供だった頃のように、日本中のあちこちに駄菓子屋がある風景を取り戻したいんです。
――収益化という面での新しい取り組みはありますか。
来月から夜の営業として「Vチューバー・バー」のような展開を始めます。実はアバター店員のモデルを深掘りする中で、Vチューバーとして活動している方にはシングルマザーの方や、外に出るのが難しい事情を抱えた方が非常に多いと知りました。
彼女たちの集客力と、うちにあるアバター用のインフラを掛け合わせる。インターネットを介せばどこにいても仕事ができるこのモデルは、今の世の中にすごくフィットしている。障害者の方の支援に加え、Vチューバーという新しい働き方の支援も同時に行い、収益の柱を作っていく。これも私にとっての新しい挑戦です。
「情熱」と、これからビジネスを始める人へのメッセージ
――仕事以外で情熱を注いでいることはありますか。
正直、仕事が楽しすぎて仕事しかしていないような感覚ですが、強いて言えば最近はソロキャンプにハマっています。自分のやりたいことを実現するために動き続けること。それが私の最大の熱源です。
――読者の方へメッセージをお願いします。
この記事を読んでくださった方、もし「中村、面白いことやってるな」と少しでも思っていただけたら、ぜひ気軽に声をかけてください。