食を通じて地域を発信する――やまのわが描く地域発信のかたち
株式会社やまのわ 代表取締役 山田 豊佳氏
株式会社やまのわは、コッペパンやラスクなどを通じて山口県の食材や生産者の魅力を発信する企業です。単なるパンの製造・販売ではなく、「食を通じて地域を発信する」という考えのもと、独自の商品づくりを続けています。本記事では、医薬品卸業界で培ったマーケティング経験を活かしながら地域と人をつなぐ仕組みづくりに取り組む代表の山田豊佳氏に、創業の経緯や経営への想い、今後の展望などについて詳しく伺いました。
コッペパンを通じて地域の魅力を発信する
――現在、どのような事業を展開されていますか。
当社はコッペパンやラスクを製造・販売していますが、自分たちをパン屋だとは考えていません。地域の魅力を発信するための会社だと思っています。
山口県には、素晴らしい食材や生産者が数多くあります。当社では、それらをコッペパンやラスクという形にして届けることで、地域の価値やストーリーを発信しています。
商品そのものが主役ではなく、主役は地域の食材や生産者です。私たちは商品を通じて地域と消費者をつなぎ、新たな価値や関係性を生み出す役割を担っていると考えています。
――なぜコッペパンを地域発信のツールとして選ばれたのでしょうか。
地域の魅力を伝えるうえで、非常に優れたツールだからです。
コッペパンは惣菜系にもスイーツ系にも対応できるため、どんな食材でも主役にできます。あくまで主役は食材であり、コッペパンはその魅力を伝えるための器です。
また、子どもから高齢の方まで誰もが知っている食べ物であり、片手で食べられる手軽さもあります。当社では巻紙を付けて食材や生産者の情報も伝えており、味覚だけでなく情報も届けられる仕組みをつくっています。
――他社にはない強みはどのような点にありますか。
コッペパンを単なる商品ではなく、地域の魅力を発信するためのマーケティングツールとして活用している点です。私自身がこれまで販促やマーケティングに関わってきたこともあり、商品そのものを売るというよりも、「その商品を通じて何を伝えるか」を大切にしています。
また、地域食材を活用した商品開発の実績はもちろんですが、冷凍技術を活用することで遠方への展開が可能な点も特徴です。地域の食材や生産者の魅力を全国へ届けられる仕組みを持っていることは、当社ならではの強みだと思っています。
根底にあるのは「山口県の魅力を発信したい」という想い
――創業に至った経緯を教えてください。
大学卒業後は医薬品卸の会社に入社し、大阪や石川、東京、東北などで約20年間、販促やマーケティングの仕事に携わってきました。メーカーや小売店と連携しながら、商品の価値をどのように伝えるかを考える仕事です。
そうした経験を重ねるなかで、出身地である山口県には魅力的な食材や地域資源が数多くあるにもかかわらず、その価値が十分に発信されていないと感じるようになりました。
そこで、これまで培ってきたマーケティングの経験を地域のために活かしたいと考え、山口県へ移住し、地域発信を軸とした事業を立ち上げました。
――起業に向けて、どのような準備をされましたか。
山口県へ移住してすぐに事業を始めたわけではありません。まずは地域を知ることが必要だと考え、移住後の約1年間で農家、生産者、経営者、行政担当者など約5000人と面談しました。
その目的は、人脈づくりではなく、事業の検証です。地域の課題やニーズ、可能性について直接話を伺いながら、自分の考えるビジネスモデルが地域で求められるものなのかを見極めていきました。そこで得た知見やご縁が、現在の事業の基盤になっています。
――これまでの経験は現在の事業にどのように活かされていますか。
医薬品卸の仕事では、メーカーや小売店と連携しながら、商品の販促や売り場づくりに携わってきました。そこで培ったのは、商品そのものではなく、その価値をどのように伝えるかという視点です。
現在の事業でも、その考え方は変わりません。商品を開発する際には、味や品質だけでなく、その商品を通じて何を伝えるのかを重視しており、コッペパンやラスクも単なる食品ではなく、地域の魅力や生産者の想いを届けるためのツールとして位置づけています。
人とのご縁と「わ」が、事業を支える原動力
――社名である「やまのわ」に込めた想いを教えてください。
「わ」には、人とのつながりを表す「輪」と、調和を表す「和」の両方の意味があります。
地域の魅力を発信するためには、一企業だけでできることには限界があります。生産者の方々や企業、地域の皆さまとの連携があってこそ、新たな価値や取り組みが生まれると考えています。
そうした人と人とのつながりを広げながら、地域に新たな価値を生み出していきたい――その想いを「やまのわ」という社名に込めました。
――経営で大切にしている価値観は何ですか。
最も大切にしているのは「縁」です。山口県へ移住してからも、本当に多くの方々に支えていただきました。現在の事業も、そうしたご縁の積み重ねによって成り立っています。
そのため、目の前の出会いや関係性を大切にしながら、一つひとつ信頼を築いていくことを常に意識しています。
また、社名にも込めている「和」も、私にとって大切な価値観です。人とのつながりは新たな価値や可能性を生み出してくれる一方で、とても繊細なものでもあります。だからこそ、日々の言葉遣いや接し方を大切にしながら、よい関係を長く育んでいくことを心がけています。
原点を見失わず、次の挑戦へ
――社内コミュニケーションで意識していることはありますか。
相手の立場や考えを理解したうえで対話することです。
組織では、それぞれ役割や責任が異なるため、見えている景色も違います。その違いを理解しないまま進めてしまうと、認識のずれにつながりかねません。
そのため、日頃から率直に意見を交わせる関係づくりを意識しています。
――これまでの事業で印象に残っている転機を教えてください。
FC事業の変化やコロナ禍、店舗退去など、さまざまな出来事を経験しました。厳しい局面もありましたが、都度事業の方向性を見直すなかで、「食を通じて地域を発信する」という原点を再確認できました。
現在は新たな食品工場を拠点に、コッペパンとラスクの事業に特化しながら、地域発信という本来の価値をより強く打ち出せるようになっています。
――今後の展望をお聞かせください。
現在は山口市内の食品工場を拠点に、コッペパンやラスクの製造、OEM商品開発に取り組んでいます。また、高校生と地域企業が連携する『ハイスクールコッペプロジェクト』も今期で6年目を迎え、2026年には活動基盤としてNPO法人を設立しました。商品づくりだけでなく、人づくりや地域づくりにも取り組みながら、『食を通じて地域を発信する』という理念のもと、生産者や企業、学校、行政をつなぎ、山口県の魅力を全国へ届ける仕組みづくりを進めていきたいと考えています。