114年続く地元の味を未来へ――内野海産株式会社が守り続ける“あみ漬”と人のつながり
内野海産株式会社 代表 内野 喜實男氏(インタビュアー:専務取締役 内野 勇次郎氏)
熊本県玉名郡長洲町で創業の大正元年より114年にわたり水産加工品を手がけてきた内野海産株式会社。地元の特産品である「あみ漬」をはじめ、塩辛などの水産加工品を製造・販売し、長年地域の食文化を支えてきました。近年は時代の変化に合わせてインターネット販売にも力を入れ、全国へ“地元の味”を届けています。今回は、専務取締役の内野勇次郎氏に、代々受け継がれてきた事業への想いや、これからの展望について伺いました。
目次
地元で受け継がれてきた「あみ漬」の味
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
当社は水産加工品の製造販売を行っています。中でも地元の特産品である「あみ漬」を代々作り続けてきました。
あみ漬は、地元では昔から親しまれている食品ですが、地域外ではまだ知らない方も多いと思います。もう100年近く作り続けている商品で、うちの看板商品の一つです。ほかにも、北海道から仕入れた原料を使ったイカの塩辛を、熊本ならではの味付けで加工しています。
創業は大正元年で、今年で114年目になります。現在は3代目で、私が継げば4代目になります。地元でもかなり古い会社で、この地域では一番古い会社じゃないかと思います。
――長く続けてこられた理由はどこにあるのでしょうか。
やはり「人とのつながり」を大切にしてきたことだと思います。売上や利益ももちろん大事ですが、それ以上に取引先との関係や、ご縁を大事にしてきました。
昔は地元のスーパーや百貨店にも多く出店していました。うまくいかなかったこともありますし、損をした経験もあります。それでも、長年やってこられたのは、人とのつながりを大切にしてきたからだと思っています。
時代の変化を見据えて始めたインターネット販売
――インターネット販売を始められたきっかけを教えてください。
昔は地元のスーパーがたくさんあり取引の面でお世話になっていましたが、大型商業施設が増える中で、徐々に地元のスーパーが厳しくなっていきました。このままではいけないと思い、約15〜16年前から楽天やAmazonでの販売を始めました。
当時はまだスマートフォンも普及しておらず、周囲からはかなり反対されました。会社からも「お金は出せない」と言われたので、自分で定期預金を崩して準備したんです。パソコンも必要でしたし、出店準備にも費用がかかりました。
ただ、今振り返ると私自身の仕事と会社の転換期になっていて本当にやってよかったと思っています。もし始めていなかったら、現在はかなり厳しかったんじゃないかと思いますね。
――現在はネット販売が主流になっているのでしょうか。
はい。今はインターネット販売が売上の中心です。
地元のお客様だけでなく、熊本から関東方面へ行かれた方が「懐かしい味を食べたい」と注文してくださることも多いです。地元を離れた方が、故郷の味を求めて注文してくださるのは本当にありがたいですね。
年配のお客様でもインターネットを見てくださる方が多くて、あみ漬もまだ忘れられていないんだなと感じています。
幼い頃から自然と身近にあった家業
――小さい頃から家業を継ぐ意識はあったのでしょうか。
昔は会社の2階が住居になっていて、1階が工場でした。工場のにおいが2階まで上がってくるような環境で育ったんです。
子どもの頃から、配達の人の車にのせてもらって原料の仕入れについて行ったりしていました。だから自然と、この仕事が身近にあったんですよね。
大学進学で東京へ行き、そのまま就職もしました。7〜8年ほど東京で働いていましたが、30歳手前で地元に戻ってきました。特別なきっかけがあったというより、「そろそろ帰る時期かな」という感覚だった気がします。
戻ってきてからは、水産業界や流通の変化も経験しました。その中で、自分なりに会社へ貢献できたと思っています。
“家族のような会社”を支える人間関係
――社内で大切にしていることを教えてください。
うちは社員を細かく管理するような会社ではありません。働いている方も近所の人が多く、みんな自然体なんです。
残業もほとんどありませんし、できるだけ無理なく働いてもらいたいと思っています。長く勤めてくださっている方も本当に多くて、私が小学生の頃から働いている方もいます。
東京から戻ってきた時、「まだいてくれたんだ」と思う方もたくさんいました。本当に家族みたいな感覚ですね。
――採用の際に重視していることはありますか。
やっぱり人間性です。
仕事のスキルは、やっていけば覚えられます。でも人間性は簡単には変わりません。一生懸命やってくれる人なら、多少ミスがあってもやり直せばいいと思っています。
真面目に取り組んでくれること、それが一番大事ですね。
これからは“風通しの良い会社”へ
――今後の展望について教えてください。
今は新しい挑戦というより、守るべき部分も多い時代だと感じています。その中でも、これからは会社の情報をもっとオープンにしていきたいと思っています。
一族経営だと、どうしても上の人間だけが情報を持ってしまいがちです。でも、それでは働いている人たちに伝わらない部分もある。だから、もっと風通しの良い会社にしていきたいですね。
また、熊本県の補助金を活用して、自社ホームページの制作も進める予定です。これまでは楽天などのモール販売が中心でしたが、自社ホームページと連携しながら、もっと多くの方に知っていただければと思っています。
家族との時間が何よりのリフレッシュ
――休日の過ごし方やリフレッシュ方法を教えてください。
小学生の息子と一緒にゲームをしたり、映画を観に行ったりしています。もともと私自身、パソコンやゲームが好きだったんです。インターネット販売を始めた頃も、そういう分野に興味があったからこそ、自然と取り組めた部分がありました。
ネット販売を立ち上げた時には、友人たちもかなり協力してくれました。今でも会社に残っている看板は、友人が作ってくれたものなんです。長く使っているので愛着がありますし、簡単には変えられません。
昔からのつながりや思い出を大切にしながら、これからも地元の味を守っていきたいと思っています。