ヒストリーからストーリーを描く――不動産に新たな価値を生み出すアトランテ株式会社の挑戦

アトランテ株式会社 代表取締役 田中 扶美男氏

不動産には、その土地が歩んできた歴史や文化、産業があります。アトランテ株式会社は、土地の背景を読み解き、未来へつながる物語を描くことで、新たな価値を生み出しています。代表の田中氏が掲げるのは、「HistoryからStoryを創造し、持続可能な生きた不動産をプロデュースする」という考え方。単に建物をつくるのではなく、その場所ならではの魅力を引き出し、人が集まり、長く愛される不動産へ育てています。今回は、同社の強みや竹下通りでのプロジェクト、今後の展望について伺いました。

土地の歴史や文化を未来へつなぐ「HistoryからStoryへ」の発想

――現在の事業の特徴や強みについて教えてください。

当社では、不動産権利調整、不動産再生、不動産開発、管理運営までをワンストップで手掛けています。一つひとつを別々に進めるのではなく、完成といったゴールから逆算して、最初の企画に着手し、時間管理、原価管理を完成後まで一貫してプロデュース出来ることが強みです。

中でも大切にしているのが、「HistoryからStoryを創造する」という発想です。

人に人生があるように、不動産にも歴史があります。その土地に根付いた文化や産業、地域特有の背景を丁寧に読み解き、未来へどうつなげるかを考える。それが私の考える不動産プロデュースです。

土地のヒストリーを生かして新しいストーリーを描くことで、その場所にしかない価値が生まれます。そこが当社ならではの特徴だと思っています。

竹下通りの小さな土地から生まれた大きな価値

――考え方を形にした事例を教えてください。

印象的な事例が、竹下通りにある間口約6m、土地面積約83㎡で行った商業ビル開発です。

「行列が出来る、無上位な商業ビルをつくりたい」というご相談を受け、開発コンセプトの策定、空間演出、設計や施工に関わる会社の選定、スケジュールやコスト管理、リーシング、内装監理、完成後の管理運営体制の構築まで携わりました。また、十数名の社員をデベロッパースキル育成向上のための指導も本件開発にあたり担いました。

まず着目したのは、竹下通りという東京ディズニーランドと同等の集客力のある場所であること、屋上から東郷神社本殿を望めること、周辺にオリンピック関連施設が多いことです。そうした立地の特徴を整理し、「この場所だから生まれる体験とは何か」をテーマやヒントを与え社員参加型で考えさせ、事業推進を行いました。

――具体的には、どのような工夫をされたのでしょうか。

各階のテナントを回遊してもらうために、屋上を目的地にした体験型の空間をつくりました。ただし、何も仕掛けがなければ、わざわざ屋上まで上がってもらえません。そこで、建物全体に一つの物語を持たせたのです。

屋上の五色のゲートは、東郷神社の鳥居をデフォルメしつつ、周辺のオリンピック施設を踏まえて五輪カラーを取り入れました。また、入口や館内には「ご縁」を象徴するご祝儀袋の水引やあわじ結びをデザインし、日本の高貴な伝統色「緋色」をキーカラーに、人と人との縁を結ぶ場所になるよう工夫しています。

屋上への誘導として、水引を連想させる赤いラインを入口から屋上へ続く階段に、白いラインをエレベーター側に配置しました。恋人同士が別々のルートを歩み進み、屋上で再び出会い、一緒に鐘を鳴らして願い事をする。そんなストーリーを空間と「お触書」サインで表現しています。

一つひとつのデザインに意味を持たせることで、建物全体が物語として機能する空間になりました。

――どのような成果につながりましたか。

建物コンセプトに共感したテナントが入居し、周辺相場を大きく上回る期待通りの賃料で契約できました。

一社に全館を貸すのではなく、建物の世界観に共感する異なるテナントに入居していただいたことも特徴です。仮に一店舗が退去しても、新たにコンセプトへ共感するテナントが入れば、建物の価値は維持できます。

テナントが変わっても物語が残り、不動産そのものが長く価値を持ち続ける。それが私の考える「持続可能な活きた不動産」です。

日本の食文化を守るため、不動産でできること

――今後取り組んでいきたい挑戦について教えてください。

商業ビルの事業を本格的に考えたきっかけは、新型コロナウイルスの流行でした。

当時、長年通っていた六本木のお店が次々と閉店しました。安くておいしい料理を提供する個人店や、オーナーシェフのお店が姿を消していくことが、本当に残念だったのです。

私は、日本の食文化を支えているのは大手チェーンだけではなく、地域に根差した個人店や街の飲食店だと思っています。そうしたお店を、不動産の仕事を通して守れないかと考えました。

そこで、立地の良い小さな場所に商業ビルをつくり、魅力ある飲食店へつなげる取り組みを始めました。オーナーには安定した収益が生まれ、テナントには挑戦出来る場所を提供します。そして利用する人には、おいしい料理や店との出会いが生まれます。そんな循環を実現したいと思っています。

「場所」と「物語」が不動産の価値を変える

――商業ビルに力を入れる理由を教えてください。

これまでマンション、オフィス、ホテルなど、さまざまな不動産開発に携わってきました。その中でも、企画によって価値が大きく変わるのが商業ビルです。

住宅では、工夫によって賃料が何倍にもなるケースは多くありません。一方、商業ビルは、コンセプトや物語によって周辺とは異なる価値を生み出せます。竹下通りの事例でも、ストーリーに共感したテナントが集まり、高い賃料につながりました。

大切なのは、「なぜこの場所なのか」「誰に来てほしいのか」「どのような体験を届けるのか」まで考えることです。

私の役割は、オーナーに長く喜んでいただける不動産を創ること。その土地だから実現できる企画を形にし、高い価値を維持できる場所へ育てていきたいと考えています。

建物ではなく、未来まで続く価値をつくる

――今後の展望をお聞かせください。

これからも、小規模な商業ビルを中心に、人が集まり、喜んでもらえる場所を増やしていきたいです。

第一弾として浅草橋でプロジェクトを実現し、その後の取り組みが竹下通りの事例へつながりました。今後もオーナーにはより高い収益を、街にはより潤いを与えられる開発を継続していきたいと考えています。

商業ビルだけに限定するつもりはありません。マンションやオフィス、ホテルでも、その土地の特性を見極め、最も価値を発揮できる企画を考える姿勢は同じです。

建物の用途を決めるだけでなく、誰に使ってもらい、どのような価値を提供するのかまで踏み込み、一つのストーリーとして形にする。その積み重ねが、不動産の未来を変えると思っています。

土地には必ず歴史があります。その歴史を未来へ受け継ぎ、人が集まり、長く愛される場所へ育てることが私の使命です。

「HistoryからStoryを創造する」という考え方を大切に、これからも土地の魅力を引き出し、不動産に新たな価値を生み出していきたいと思っています。

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