田舎に眠る価値を未来へつなぐ――デザインの力で挑む”あたらしさと”の地域づくり

一般社団法人あたらしさと 代表理事 徳永 竜也氏

一般社団法人あたらしさとは、熊本県玉名市の石貫を拠点に、地域に残る自然や文化、歴史、農地などの価値を見つめ直し、次世代へつなぐ活動を行っている団体です。本記事では、東京でデザイナーとして培った経験を活かしながら、東京と熊本を行き来する二拠点生活を実践している代表の徳永竜也氏に、事業内容や活動を始めた背景、地域との関わり方、今後の展望などについて伺いました。

地域にある資源を活かした事業づくり

――現在の事業内容について教えてください。

当法人では、田舎暮らしに興味を持つ方を対象に、観光や移住・定住につながる体験プログラムやイベントを企画しています。実家の店舗や施設も活用し、コワーキングスペースとして貸し出すなど、地域との新たな接点づくりも進めています。

そのほか、地元食材を活かした食事の提供や商品開発にも着手しました。地域に残る自然や文化、歴史といった資源を見つめ直し、新たな価値を付加することで、持続可能な事業として育てていく考えです。

――具体的には、どのような取り組みを行っていますか。

ひとつは、両親が長年続けてきたグループでの米作りがあります。田んぼを持っていない方々と、耕作放棄地となった田んぼを地主の方から借り、自分たちで食べる無肥料無農薬の米を育てる活動を行っています。収穫した米の一部は米粉に加工し、姉がグルテンフリーのケーキを作るなど、付加価値を高めた商品開発にもつなげており、2025年からは、オンラインでの全国販売も始めました。

そのほか、子ども向けの自然体験プログラムや、生産・加工・販売を暮らしのなかで体験できる取り組みも進めています。近隣にある装飾古墳についても、管理保全と地域の魅力としてあらためて注目してもらえるよう、リブランディングに取り組んでいます。

デザインの経験を地域課題の解決へ

――これまでのご経歴を教えてください。

高校卒業まで熊本で暮らし、その後は東京の美術系専門学校へ進学、卒業後はデザイン事務所で働いたのち、日立製作所で約20年間、インハウスデザイナーとして勤務しました。医療装置や電車、エレベーター、公共施設の情報システムなど、業務や生活を支える製品やサービスのデザインに長く携わるなかでは、現場を訪れ、利用者を調査・分析し、一次情報から必要なものを考える姿勢を大切にしてきました。

――そのご経験は、現在の活動にどのように活かされていますか。

デザイナーとして培ってきた実態調査や課題解決の手法が、現在の地域づくりの基盤になっています。地域にどのような資源があり、どんな可能性を持っているのかを現場で調査し、関わる方々と価値を見いだしていく進め方は、これまでの経験そのものです。

「物のデザイン」から始めた私のキャリアは、次第に「事のデザイン」へと移り変わり、現在では「ローカルデザイン」と位置づけています。地域資源を活用するだけではなく、新しく地域を訪れた方が主体的に関われる環境を整え、その取り組みに伴走することが、自分の役割だと考えています。

東京と熊本を行き来する二拠点生活

――この活動を始めたきっかけを教えてください。

両親から地域での活動を引き継いだことが、この活動を始めた直接のきっかけです。しかし、東京で会社員として働いていたころから、いつかは故郷に関わる仕事へつなげたいという想いは持ち続けていました。

徳永家には家系に関する書物が残っており、江戸時代から長年、村長や庄屋を務めた家系であったことがわかっています。父も地域のまちづくりに携わっていたため、地域との関わりは身近なものでした。

両親の体調や年齢を一つの転機として、これまで培ってきた経験を地域で生かす決意を固め、数年前から実家の活動を引き継ぎました。2024年に個人事業として”あたらしさと”の活動をスタートし、2026年、一般社団法人として法人化しました。

――現在は、どのような働き方をされていますか。

現在は、生活時間の3分の1ほどを熊本、それ以外は東京で過ごす二拠点生活を送っています。月に1回ほど熊本を訪れ、現地で活動を進める一方、東京では企画や事務業務、そして都心部でのPR活動、企業とのコネクション作りなどを奔走しています。

また、家庭との両立も大切にしており、小学生の子ども3人の育児や家事にも日常的に携わっています。地域での活動と東京での生活を両立させながら、それぞれの拠点で役割を切り替えられることが、現在の働き方の特徴です。

地域と企業がともに価値を生み出す未来へ

――地域に関わる方とのコミュニケーションで大切にしていることは何でしょうか。

現在はWebサイトやSNSを活用し、お試し移住やプロジェクトの情報を発信しています。多くの方に知ってもらうためには、インターネットの活用が欠かせません。

一方で、メールやオンラインでの会話だけでは、その人の人柄や興味、想いまで理解することは難しいと感じています。実際に現地へ来ていただき、直接話をしながら一緒に活動することで、初めて分かり合える部分があるため、デジタルは出会いのきっかけとして活用し、その後の信頼関係は対話を重ねて築いていくことを大切にしています。

――最後に、今後挑戦したいことを教えてください。

今後は、企業と地域をつなぐ仕組みを広げ、地域資源を活用した新たな価値を創出していきたいと考えています。

現在は、福岡の企業と連携し、従業員の方々が1年間を通じて米作りをはじめとした地域活動に参加するプロジェクトを進めています。オンライン勤務が中心の企業を対象に、田植えなどの体験を通じて社内コミュニケーションやチームビルディング、従業員エンゲージメントの向上につながる取り組みとして実証を進めているところです。地域が主体となって企業との接点を広げ、活用されていない土地や地域資源を新たな価値へと転換できるモデルを築いていきたいと考えています。

また、私自身の活動だけで終わらせるのではなく、次の世代や新たに地域へ関わる方々が、それぞれの形で挑戦できる土台を残すことも大切にしています。これからも、企業と地域が継続的なパートナーとして支え合い、ともに価値を生み出せる仕組みを育てていきたいです。

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