株式会社就活3.0は、学生の人生経験を可視化し、企業と学生のマッチングをより本質的なものへと進化させる次世代型SaaSを提供しています。エントリーシート負担やミスマッチといった新卒採用の課題に向き合い、学生と企業が互いに理解し合える就活の形を目指しています。本記事では、辻翔太代表に現在の事業内容と、その裏側にある理念について伺いました。
目次
就活の負担を軽減し、“本質的なマッチング”を実現する次世代型プラットフォーム
現在展開されている事業内容と特徴について教えてください。
弊社「株式会社就活3.0」では、新卒採用に特化したSaaS「就活プロフィールシート」を提供しています。多くの企業が抱える、母集団形成・マッチング・フォロー・工数といった課題を一つの仕組みで解消できるよう設計したサービスです。学生は幼少期から現在までの経験、価値観、選択の理由を300項目以上の質問に沿って入力し、生い立ち・学び・行動背景を網羅的に可視化します。従来のエントリーシートでは見えづらかった“その人らしさ”を、企業が自然に理解できる点が大きな特徴です。
従来の就活と比べて、どのような価値がありますか。
これまで学生は、企業ごとに異なるエントリーシートを何十社分も書かなければならず、文字数や形式の違いから大きな負担を抱えていました。研究や学業、アルバイトとの両立が難しくなる学生も多く、本来向き合いたい“企業との対話時間”が削られていたのが実情です。「就活プロフィールシート」は、一度の入力で自身の歩みや価値観を整理でき、企業側も形式に左右されず学生の本質をつかむことができます。文章力ではなく経験や背景を丁寧に読み解く選考へ変えられる点が、学生・企業双方にとって大きな価値だと考えています。
学生からの反応はいかがでしょうか。
リリース直後ですが、テスト段階から「エントリーシート作成の不安が減った」「自分の軸が明確になった」といった声をいただいています。書類作業に追われる時間が減ることで、企業理解や自己分析に時間を使えるようになり、就活そのものが前向きに捉えられるという声もあります。
私たちは、就職活動を“作業の連続”から“対話のプロセス”へ転換することを目指し、このサービスを磨き続けています。
キャリアの歩みと、就活支援に向き合う覚悟
獣医系の大学から現在の事業につながる道のりを教えてください。
私はもともと獣医系の大学で研究をしており、修士課程では研究と就活を同時に進めていました。朝から夕方まで就活を行い、その後研究室に戻り夜中まで研究活動をする合間で選考準備を行う日々は負担が大きく、「学生が本来の力を発揮できないまま選考に挑んでいる」と痛感しました。卒業後は技術職に進みましたが、自分の可能性を広げたい思いから自ら手を挙げて営業職へ転身。その後、理工系特化の就活支援会社の社長と出会い、かつての自分が抱えていた“理系学生の就活課題”に向き合う仕事に強く惹かれて入社しました。学生支援に携わる中で、「これは自分の天職だ」と感じたことが、キャリアの大きな転機になりました。
起業を意識するようになったきっかけは何だったのでしょうか。
前職では執行役員としてサービス開発にも関わり、企業と学生双方の課題を俯瞰する立場になりました。その中で強く感じたのは「新卒採用の根本課題は10年以上ほとんど変わっていない」ということです。早期化、負担の増加、ミスマッチ──原因は仕組みが時代に追いついていないことでした。この状況を改善するには短期的な支援だけでなく、5年先・10年先の基盤づくりが必要だと考え、誰かが取り組むべき役割を自分が担いたいと決意しました。もともと起業志向が強かったわけではありませんが、「変わらない課題を放置したくない」という思いが独立の原動力になりました。
経営者になって感じた変化や学びはありますか。
0からのスタートは想像以上の挑戦で、まずは“知ってもらうこと”からの始まりでした。実績のない会社が価値を伝えるには、地道な積み重ねが欠かせません。一方で、代表という立場になったことでご縁が一気に広がり、多様な経営者の方から学べる機会が増えました。視野が広がり、課題の本質を捉える力が鍛えられたことは大きな学びです。今は、SNSからのご連絡やお問い合わせが増えてきましたが、少しでも関心を持っていただけることへ感謝の気持ちを大切にしています。その積み重ねこそが信頼となり、事業の成長を支えていると感じています。
組織づくりの軸は“誠実さ”。創業期だからこそ大切にする姿勢
経営者として、仕事のうえで最も大切にしている価値観を教えてください。
私が一番大切にしているのは「誠実さ」です。新卒領域は学生の“人生”を扱う場所であり、大人がビジネス都合で学生の人生選択を操作してしまうことは、表情に罪深い行為だと考えています。だからこそ、事業者として最優先するべきは「学生の人生に徹底的に向き合うこと」であり、それを守れている前提でビジネス成果を最大化させる姿勢を崩さないようにしています。そこには事業成長において遠回りとなる選択が含まれる場合がありますが、誠実であることが最終的に学生にも企業にも本質的な価値を生むと信じています。
現在の組織体制と、創業フェーズで意識していることを教えてください。
株式会社就活3.0は昨年10月に創業し、現在は外部のパートナーはいるものの社員はおらず、私ひとりで事業を進めています。前職を正式に離れたのが今年4月のため、実質的に集中できている期間はまだ半年ほどです。サービスも10月にリリースしたばかりで、まさにこれから動き出す段階です。だからこそ今は「土台づくり」を重視し、事業の思想や価値観を丁寧に言語化することを大切にしています。創業初期の軸がぶれると後から修正が難しくなるため、スピードと慎重さのバランスを意識しながら形を整えているところです。
創業初期の営業やネットワークづくりで大切にしていることはありますか。
立ち上げ時は知名度も実績もないところからのスタートです。だからこそ、どんな形でも弊社に興味を持ってくださった方には必ず向き合うようにしています。SNSでつながった方や問い合わせをくださった企業様など、一つひとつのご縁を丁寧に受け取り、先入観なく対話することを意識しています。すべてがビジネスに直結するわけではありませんが、その姿勢が本当に志の合う方とのつながりを生み、事業の広がりにつながると実感しています。

“就活のOSを変える”未来構想と、教育の在り方をアップデートする挑戦
今後、会社としてどのような未来を目指していきたいと考えていますか。
まず目指しているのは、「就活プロフィールシート」を新卒採用を行う企業の新しい標準にすることです。企業ごとに形式が異なるエントリーシートは、学生に大きな負担を生み、特に生成AIが普及している近年は企業側も本質的な人物像を捉えにくい課題がありました。プロフィールシートが浸透すれば、学生は書類作業から解放され、本来注力すべき企業研究や興味企業との対話に時間を使えるようになります。企業にとっても、多面的な情報から“その人らしさ”を理解しやすくなり、ミスマッチの軽減につながります。導入企業が増えるほど、学生全体の負担が減り、学業や研究に集中できる環境が整う。この循環をつくることが最初の大きな目標です。
その先に描く長期的なビジョンはありますか。
プロフィールシートが広がると、学生の経験や行動データが大きな蓄積となります。これを自社の利益だけに使うのではなく、教育・人材育成の公共財として社会に還元したいと考えています。幼少期の習い事、受けてきた教育プログラム、大学での学びと成長の関係性など、幼少期から学生時代のどういった経験がどういった成長や人格形成に繋がるかが解明されれば、教育そのものを科学的にアップデートできます。「育つ仕組み」が広がれば、社会全体で優秀層の母数が増える。結果として、一部の優秀人材の奪い合いではなく、各社が“自社に合う人材”を選べる健全な循環が生まれ、産業全体の底上げにつながると考えています。
そのビジョンに影響を与えた人物はいますか。
特定の一人というより、多くの方の姿勢から学んできましたが、中でも学生の学業データを採用選考に活用する仕組みを作った株式会社履修データセンターの代表取締役・辻 太一朗(つじ たいちろう)さんの姿勢には強く尊敬をしています。収集したデータを自社に閉じず公共財として開放し、同業他社も仲間として連携しながら市場全体のアップデートを目指す考え方は、私が進めたい未来と重なります。実はまだお会いしたこともないのですが、「新卒市場をよりよくしたい」という誠実で強い想いを勝手に私は受け取っており、私の目指すべき像とさせていただいています。
家族との時間が、前へ進む力になる
リフレッシュ方法や、仕事以外で大切にしている時間はありますか。
創業期ということもあり、今は朝から夜まで仕事が中心で、趣味と呼べるものはほとんどありません。ただその中でも「子どもと過ごす時間」は、私にとって大きな癒しであり、心を整える大切なひとときです。3歳の男の子と1歳の女の子がいますが、現在は在宅ワークが基本のため、成長の早いこの時期に近くに入れることを嬉しく思っています。長時間を割くことはできませんが、幼稚園のお迎えや寝る前の会話などで子どもと向き合えることが何よりのリフレッシュです。
家庭の時間は、仕事にどのような影響を与えていますか。
子どもとの時間は単なる息抜きではなく、「なぜ挑戦するのか」を思い出させてくれる時間でもあります。子どもの顔を見ると「この子達のためにももっと頑張らなければ」と自然に力が湧き、経営者として壁にぶつかり立ち止まりそうになった際にも活力を取り戻すことができます。また、小さい子供がいるにも関わらず挑戦をさせてくれた妻にも深く感謝をしています。妻も不安があるだろう中でそれを表に出すことなく支えてくれており、そうした家族の想いが伝わっているからこそ、私も息切れすることなく頑張り続けられています。

