客室清掃から、日本の観光を底上げする──Livzes・坂本捷が描く「ホテル清掃部」という未来

大手不動産業界での経験を経て、ホテル運営の現場が抱える課題に向き合うため、客室清掃という領域に飛び込んだ株式会社Livzesの代表・坂本捷氏。インバウンド回復を見据え、「外注」ではなく「ホテルの清掃部」として並走する姿勢を大切にしながら、日本一の客室清掃会社を目指しています。本記事では、坂本氏が経営者となった背景や、組織づくりへの考え方、そして清掃を通じて日本の観光と経済を底上げしていきたいという想いについて、詳しく伺いました。

不動産の視点から見えたホテル運営の課題──Livzesの現在地

まず、現在の事業内容と、立ち上げの背景について教えてください。

私はもともと不動産業界で、海外の不動産開発を中心とした仕事をしてきました。その経験から、日本でこれから事業を行う上で「観光」という切り口は欠かせないと感じていました。インバウンド需要は一時的に落ち込む局面もありましたが、長期的に見れば日本の大きな強みであり、今後も確実に伸びていく分野だと捉えていたからです。


不動産と観光を掛け合わせて考える中で、自然とホテル運営に目が向きました。しかし現場を見ていくと、建物や客室といったハードは整っているにもかかわらず、人手不足によって十分に稼働できていないホテルが多いことに気づきました。客室数は足りているのに、清掃が追いつかず、本来活用できるはずの部屋を使い切れていない。これはホテル側にとっても、非常にもったいない状況だと感じました。

そこで「清掃」に着目されたのですね。

はい。清掃はホテル運営の根幹を支える仕事でありながら、当時は十分に整備されていない印象がありました。業界を見渡すと、経験者が少なかったり、別事業の延長として取り組まれていたりと、品質や姿勢にばらつきがあるケースも少なくありません。実際に関わる中で、「客室清掃を本業として、気持ちを込めて取り組んでいる会社」は決して多くないと感じるようになりました。

だからこそ、私たちは清掃を単なる作業ではなく、ホテルの価値を支える重要な仕事として位置づけています。ホテルが本来持つポテンシャルを最大限に引き出し、安定した運営につなげる。その一端を担う存在でありたいと考えています。

「自分で決める人生」──影響を受けた思想と学びの原点

経営者になろうと考えたきっかけを教えてください。

正直に言うと、起業した理由に、明確で立派な答えがあったわけではありません。「やりたい」という気持ちと、「やれるだろうな」という感覚が自然と重なった。それが一番正直なところです。漠然とですが、自分で意思決定をし、その結果に責任を持って物事を進めていきたいという思いは、ずっと心の中にありました。

今でも、肩書きがなくなったらどうなるのか、立場を失ったら何が残るのかという不安はあります。それでも前に進もうと思えたのは、会社員時代の経験が大きかったと思います。

会社員時代の経験は、どのような影響を与えましたか。

私はサラリーマンも経験しています。不動産は扱う金額や社会への影響も大きい業界でしたが、その分組織の意思決定に関わる人も多く、自分が貢献していると感じる部分は少なかったです。判断も結果も、すべて自分で引き受けたい。うまくいっても失敗しても、自分の責任にできる環境のほうが性に合っていると感じたんです。

価値観に影響を与えた人物や出来事はありますか。

大きな影響を受けたのは、渋沢栄一を描いた「青天を衝け」という大河ドラマです。映像を通して、「何かを成すには、これほどの熱量が必要なのか」と強く感じました。今生きている誰か一人を目標にしているというよりも、そうした思想や姿勢そのものに惹かれています。

実務面では身近な経営者からの学びも大きいです。現在役員を務めている会社の関係で出会った経営者から、組織づくりや現実的な経営の考え方を学んでいます。理想だけでなく、現実と向き合う。その積み重ねが、今の私の経営の軸になっています。

国籍や立場を越えたチームづくり──現場に根づくLivzesの組織観

組織づくりや、スタッフとの関係性で大切にしていることを教えてください。

私が組織運営で意識しているのは、「ここで働いてよかった」と思ってもらえる環境をつくることです。その結果として、海外の方を中心に口コミで人が集まるようになり、「この現場は働きやすい」「連携が取りやすい」といった声が広がっていきました。働き手が自然と集まることは、会社としての大きな強みですし、日本で働くこと自体を前向きに捉えてもらえる存在でありたいと考えています。

チームとして、どのような姿勢を求めていますか。

個人に細かく役割を限定するよりも、「自分の仕事はここまで」と線を引かない姿勢を大切にしています。清掃はチームプレーで成り立つ仕事です。誰かが忙しければ、周囲が自然とフォローに回る。そうした協力関係がなければ、現場はうまく回りません。だからこそ、助け合う意識を持つことを、日頃から伝えています。

そのために、私自身も現場に入ります。手が空いたときや人手が足りないときには、私も一緒に作業をします。上から指示を出すだけではなく、同じ立場で動くことで、チームとしての一体感が生まれると思っています。「やれ」と言う前に、「一緒にやる」。その姿勢は、これまで一貫して大切にしてきました。

現在の組織体制について教えてください。

現在は、私を含めた社員が5名、業務委託のスタッフが約15名、合計20名ほどで現場を支えています。業務委託の方は海外出身者が中心ですが、社員にもベトナム出身のメンバーが在籍しています。国籍で線を引くことはなく、「同じ現場を支える仲間」という意識で接しています。採用も多くが紹介によるもので、信頼関係が次のつながりを生み、今のチームが形づくられています。

「外注」ではなく「清掃部」として──業界価値を底上げするための挑戦

今後、特に力を入れていきたい取り組みは何でしょうか。

これから一番大切にしていきたいのは、徹底して「ホテルさん目線」に立ち続けることです。これまで多くのホテルを見てきましたが、施設ごとに客室のつくりや動線はまったく異なり、求められる清掃の形もさまざまです。清掃は毎日行うものですが、宿泊される方によって部屋の使われ方も変わるため、同じ作業の繰り返しではありません。私は客室を、生き物のような存在だと捉えています。

清掃会社はどうしても「外注」という立場で見られがちです。早く終わればいい、一定の水準を満たしていればいい、と思われている側面もあります。しかし私たちは、ホテルと一緒に施設全体を良くしていく存在でありたい。契約上は外部でも、意識としては「ホテルの清掃部」。その考え方を、私自身もスタッフにも共有しています。

業界全体に対して、感じている課題はありますか。

清掃やサービス業は、働く人の価値がまだ十分に評価されていない業界だと感じています。頑張りが見えにくい仕事だからこそ、報われにくい側面がある。だからこそ将来的には、清掃の質を高め、その価値を正しく評価し、還元できる会社にしていきたいと考えています。

その先に、どんな未来を描いていますか。

私が目指しているのは、日本一の清掃会社です。清掃の質が上がれば、ホテルの価値が高まり、業界も活性化していく。「日本はまだこれから良くなる」。その思いを胸に、清掃という仕事を通じて、日本の観光と経済を支えていきたいと考えています。

「まだ途中だからこそ面白い」──淡々と積み重ねる現在地

お仕事以外でのリフレッシュや、個人的な時間について教えてください。

正直なところ、特別な趣味やリフレッシュ方法があるかと言われると、あまり思い浮かばないですね。何か気分転換をするというよりも、日々の仕事に没頭している、という感覚に近いです。無理にオンとオフを切り替えようとしているわけでもなく、目の前のことに向き合っているうちに一日が終わる、そんな毎日です。

ただ、その中でも一つ言えるのは、「一緒に働いてくれる人に喜んでもらいたい」という気持ちは、常にあります。スタッフであっても、取引先であっても、「関われてよかった」と思ってもらえる関係性をつくれたら、それだけで十分だと感じています。

人との出会いから、刺激を受けることはありますか。

ありますね。こうして経営者の方々とお話しする機会があると、本当に皆さんすごいなと思います。経営に対する考え方や、これまでやってきたこと、背景にあるストーリーを聞いていると、素直に尊敬しますし、刺激も受けます

一方で、自分自身はまだまだだとも感じています。長く語れるようなエピソードがあるわけでもなく、「これが自分の成功体験です」と胸を張って言える段階でもない。だからこそ、今は全部が“きっかけ”の途中なんだと思っています。

これからについて、どのように考えていますか。

今は、何かを成し遂げたという感覚はまったくありません。「これから」という言葉が一番しっくりきます。焦る気持ちがないわけではありませんが、無理に背伸びをするよりも、目の前の現場を一つひとつ積み重ねていく。その先に、ようやく語れるものが生まれるのだと思っています。

まだ何者でもないからこそ、面白い。そう思いながら、これからも淡々と、自分なりのペースで前に進んでいきたいですね。

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