考えたら実行する――変わりゆく武道具業界で、行動を積み重ねてきた45年
株式会社福田武道具 代表取締役 福田 一成氏
少子化や流通構造の変化により、厳しさを増す武道具業界。その中で剣道に特化し、販売だけでなく、特許取得のサポーターやバッグの開発、さらには不動産事業にも取り組みながら、事業を続けてきたのが株式会社福田武道具です。「考えたら実行する」「失敗を恐れない」という姿勢を軸に、社員との距離感を大切にした組織づくりや、次の世代への事業承継にも向き合ってきました。本記事では、代表の福田一成氏に、会社の現在地、これまでの歩み、そしてこれからの展望について伺いました。
目次
行動を重ねながら、武道具の価値を届け続ける現在地
――現在、御社が取り組まれている事業内容について教えてください。
弊社は、武道具の販売を行っています。少子化の影響もあり、現在は特に剣道に特化した事業を展開しています。柔道具なども取り扱っていますが、部活動そのものを縮小していこうという流れが進む中で、武道具業界全体としては、小規模な事業者から厳しくなっていく状況だと感じています。
そのような中で、当社では海外の工場で製造した武道具を輸入し、販売する形を取っています。また、「ふくだ企画」という別事業も展開しており、こちらでは特許を取得したサポーターや、剣道に特化したバッグなどを取り扱っています。これらの商品は、全国のメーカーさんへ卸しています。さらに、ふくだ企画ではアパート経営にも取り組んでおり、事業の柱は複数あります
――販路や取引先についても教えてください。
武道具の販路としては、警察関係が多いですね。警視庁をはじめ、各県警に販売しています。そのほかにも、中学校・高校・大学、道場などが取引先です。営業が直接現場を回るケースもありますし、実店舗・通販での販売も行っています。
武道具業界は決して大きな市場ではありませんが、その分つながりも強く、長年続けてきたことで、名前はある程度知られているのではないかと思います。
――経営において大切にしている考え方はどのようなものですか。
理念というほど大げさなものではありませんが、「考えたら実行すること」を何より大切にしています。実行なくして成功はないですし、失敗を恐れてはいけないと思っています。実際に、業界の中でも早い段階で中古防具を扱ったり、特許を取った防具を作ったりしてきました。
考えたことを行動に移すことで、その結果が社員一人ひとりの利益にもつながっていく。去年と同じことを続けていては成長はありません。だからこそ、常にアイデアを出し、行動する姿勢を大切にしています。
警察官から経営者へ――失敗を糧に歩んできた道のり
――警察官から経営の道へ進まれた背景を教えてください。
もともとは警察官でした。ただ、腰を痛めてしまって、もう剣道ができない状態になったんです。剣道ができないなら警察にいても仕方がないと思い、「それなら商売をやろうかな」と考えました。
最初は無店舗販売で、車1台からのスタートでした。朝早くから夜遅くまで、1人でずっと営業していましたね。売り上げが伸びてきたタイミングで、営業経験のある弟が手伝ってくれるようになり、本格的に事業が広がっていきました。その後テナントを借り、平成11年に現在の地に社屋を建てました。
――経営者としての転機や、考え方が変わった出来事はありましたか。
警察官だったので、商売のことは本当に何も分からなかったんです。そこで営業や経営に関する本を読んだり、セミナーに足を運んだりしました。その中で、「商売とは何か」ということが少しずつ分かってきました。
特に印象に残っているのは、利益の中にはサービスも含まれているという考え方です。安心・安全、そして信頼を得られなければ、お客様は来ないし、リピーターにもなってもらえない。どんな客商売でも、そこが大事だと感じました。
――これまでの経験から、大切にしている価値観を教えてください。
失敗は宝だと思っています。実際、クレームをもらったこともありますし、評価が低かったこともあります。でも、それがあったからこそ考えることができた。つまずいて壁にぶつかったとき、そこで止まってしまったら成長はないですよね。
失敗があるからこそ改善ができるし、人は伸びていく。成功ばかりではなく、失敗をどう活かすかが大事だと思っています。
友達のような距離感が生む、長く働ける組織
――社員の皆さんが主体的に動ける組織づくりとして、意識されていることはありますか。
私は社員とは、友達みたいな感覚で会話をしています。だからでしょうか、うちは社員の出入りがほとんどありません。入社してすぐ辞めてしまう、というケースもあまり聞かないですね。
同業他社では、2〜3年で辞めてしまう話もよくありますが、うちの場合は短くても10年、長い人だと20年以上勤めてくれています。特別な制度があるわけではありませんが、やはり一番大事なのは、日々のコミュニケーションだと思っています。
――社内の雰囲気について教えてください。
うちの会社には、いわゆるハラスメントという言葉はありません。女性社員も男性社員も、冗談を言い合える関係です。私が何か言うと、女性社員からは3倍くらい返ってくることもあります(笑)。
社長が上から目線で構えてしまうと、会社の空気は一気に肩苦しくなってしまう。そういう雰囲気は良くないと思っています。だからこそ、できるだけフラットな関係を意識し、わきあいあいとした空気感を大切にしています。結果的に、アットホームな職場になっているのではないでしょうか。
――採用や育成の面で、「一緒に働きたい」と感じるのはどんな方でしょうか。
運のいい人ですね。それと、人当たりのいい人です。ここでいう「運がいい」というのは、生まれつきの話ではなく、物事をどう捉えるかという姿勢のことです。失敗を「運が悪かった」と考える人よりも、「ここまで来られたのは運が良かった」と前向きに捉えられる人のほうが、結果的に成長していく。
ネガティブに構えるのではなく、物事をプラスに考えられる人と、一緒に仕事をしていきたいと思っています。
変わりゆく業界の中で、次の世代へ何を残すか
――今後の業界の流れについて、代表はどのように見ていますか。
これからは、小売店はどんどんなくなっていくと思います。メーカーが直接小売りを始める時代ですからね。メーカーさんも厳しい状況なので、楽天やAmazonに出したり、直販店舗を作ったりしていく。
そうなると、従来の小売と同じ土俵で競争しても勝てない。だから、うちは海外の工場から直接仕入れる形を取っています。そうすれば価格では負けない。今は流通がかなり乱れていて、昔はご夫婦2人でやっていたような武道具店も多かったけれど、正直もう難しいと思います。
――そうした環境の中で、会社の将来像はどのように考えていますか。
45年この仕事をやってきて、年齢的にも事業承継を考える時期になりました。かなり悩みましたが、会社は社員に継がせようと考えています。
ただ、株の問題など課題はまだ山ほどあります。私はもう営業に出られませんし、今できるのは金銭管理くらい。現場は若い社員たちがしっかり支えてくれています。
――ご自身として、これから挑戦してみたいことはありますか。
本当は、剣道に特化するだけでなく、もう一つ何かやりたい気持ちはあります。ただ、若ければすぐ動いていたと思いますが、年齢的にどうするかは迷っていますね。
「ふくだ企画」は、サポーターやバッグ、アパート経営も含めて毎年しっかり利益が出ています。だからこそ、ふくだ企画の中で、もう一つ何かできないかと考えています。
――経営や人生観に影響を受けた考え方はありますか。
松下幸之助さんもそうですが、稲盛和夫さんもすごいと思っています。無駄遣いをしないところは、自分に近い感覚がありますね。
私は45年間商売をしてきて、新車に乗ったことはありません。動けばそれでいい。自分のためにお金を使うより、社員が働きやすい環境を整えることにはお金を惜しまない。自分の趣味、たとえばゴルフのような楽しみは、スイッチの切り替えになるため使いますが、それ以外は必要ないと思っています。
仕事から離れても、思考は前に進み続けている
――お休みの日は、どのように過ごされていますか。
休みは取っていますが、結局のところ何かを考えていますね。昨日も休みだったのですが、気づいたらパソコンに向かっていました。「何かいいことはないかな」と思いながら、自然と仕事につながることを考えてしまうんです。
商売を始めた頃は、車1台での無店舗販売がスタートでした。年中無休で働き、ほとんど休んだ記憶はありませんが、不思議とそれが苦だとは感じませんでした。むしろ楽しかったですね。
――これまでのリフレッシュ方法について教えてください。
コロナ前は、ゴルフによく出かけていました。沖縄や北海道にも行きましたし、昔の警察時代の仲間がいる場所へ会いに行くことも多かったですね。海外にもゴルフを目的に行きました。
フィリピンへは、剣道の指導に訪れました。マニラ近郊で剣道をしている方々と交流する機会があり、防具は高価なので、比較的余裕のある方が多い印象でしたが、剣道を通じたつながりは強く心に残っています。
――仕事と休みの向き合い方について、今感じていることを教えてください。
休んでいる時間でも、自然と頭に浮かぶのは会社や社員のことですね。自分のためというより、社員が働きやすい環境をどう整えるか、会社をどう続けていくか。そうしたことを考えるのが、今の自分にとっては当たり前になっています。
若い頃のような働き方はできなくなりましたが、考えること自体は嫌いではありません。これまで積み重ねてきた経験を活かしながら、社員のため、会社のために、自分にできることを考え続けていきたい。
そしてこれからも、その思いを次の世代へとつないでいけるよう、向き合い続けていきたいと思っています。