株式会社takaraful 代表取締役 上地 智枝 氏
「幼い頃の夢は“化学者”。実験と探究が当たり前の世界で育ったのに、体調を崩したことで、その道はふいに途切れてしまった。将来のイメージが全部ぼやけてしまった頃、たまたま入ったのが介護の現場だった。ここにいる時間だけは、焦りや不安がすっと静まる感じがしたんです。」
そう体験談を話すのは、株式会社Takarafulの代表として、そして“国際介護士”という新しい役割を世に広げることに全力を注いでいる上地智枝氏です。日本の介護文化を世界へ届ける仕事について話を伺いました。
目次
日本の介護は、文化そのもの
――事業の特徴を教えてください。
私が大切にしているのは、「日本の介護文化を、文化として伝える」 という視点です。海外から見ると、日本の介護って本当に珍しいんです。技術より前に、その人がどんな人生を歩んできたのか。何を大事に暮らしてきたのか。その“暮らしの積み重ね”を理解して支える。これが“Made in Japan KAIGO”の土台になっています。
アジアを中心に、たくさんの方がこの文化を学びに日本へ来る。私たちはそこで身につけたものを、今度はその国の介護現場へ循環させる。ただ技術を渡すのではなく、文化として、人として伝える。国際介護士は、その橋渡しをする存在です。
海外で気づいた、日本の介護の価値
――経営者を目指されたきっかけを教えてください。
2016年にフリーランス介護福祉士として独立しました。その頃、中国の介護現場を見に行く機会をいただいて、そこで衝撃を受けたんです。日本の介護は、細かい観察、生活リズムの読み取り方、その人らしさを守る感覚——こうしたものが当たり前になっていて、逆に気づきにくい。海外で初めて「これは文化なんだ」と腑に落ちた瞬間、“日本の介護は輸出できる” と確信しました。
コロナで触れ合うことさえ難しくなったとき、介護は技術じゃなく“文化”だという想いがより強くなりました。ここが、国際介護士という構想の出発点です。
歳を重ねても“欲張って生きられる”世の中をつくりたい
――今後の展望について教えてください。
私が最終的に作りたいのは、歳を重ねても、どんどん欲張って生きていい社会。やりたいことを我慢するんじゃなくて、「もっと楽しみたい」「まだできる」を応援し合える社会です。
そのために、国際介護士と介護ケア美容、この2つを軸にしています。
――“心のADL”を整える介護ケア美容とはどういうものですか。
介護ケア美容は美容ではなく、心のケアだと思っています。高齢になると、「自分は役に立てているのか」「ここにいていいのか」そうした気持ちが揺らぎやすくなる。その揺らぎを、触れる手でふっと整えて、「私はまだ私として生きていい」という感覚を取り戻していく。これが、私のいう“心のADL(心が生きるための基本動作)”です。
そして介護ケア美容は、日本型ケアの本質——生活文化を理解し、尊厳を守り、相手を丸ごと見るという姿勢と深くつながっています。国際介護士の現場でも、必ず活きる視点です。
2040年の介護人材不足は、“文化と仕組み”で超えていく
――2040年問題への向き合い方はありますか。
2040年は介護人材不足のピークと言われています。でも私は、人数を埋める話だけではないと思っています。必要なのは、文化 × 教育 × 多国籍の共働モデル。日本の介護文化を正しく伝え、再現できる技術を育て、異なる文化の人たちと協働できる仕組みをつくる。
国際介護士協会では、そのための教育設計や地域連携を整えています。“人材を集める”のではなく、“育ち続ける土壌”をつくる。これが私の答えです。
リフレッシュは「動く」。動けば、景色は変わる
――リフレッシュ方法を教えてください。
私にとって一番のリフレッシュは、動くことです。体を動かす、ゴルフ、旅、神社巡り。旅先で文化に触れて、人と話して、その土地のお酒をちょっといただく、この瞬間が本当に好きです。動くと、必ず景色が変わります。人は何歳からでも、自分の未来を自分で動かせる。だから私は、仕事で関わる方にもよく伝えます。
「他人と比べても意味はない。大事なのは自分を信じる力。その一歩で、未来は変わる」

