一般社団法人デジタルサロン協会 事務局長 森越道大氏
美容師として圧倒的なキャリアを積み上げながら、テクノロジーの波に翻弄される美容業界を目の当たりにし、「誰も置き去りにしないDX」を掲げて協会を立ち上げた森越道大氏。美容文化を守りながら、未来の働き方をつくる。その強い信念の裏側にある原体験と、デジタルサロン協会が描く未来の業界図を伺いました。
目次
美容文化を守るために立ち上がった協会の現在地
――まず、デジタルサロン協会の理念や活動について教えてください。
美容業界は長く「技術や文化が主役」の世界でしたが、SNS の登場以降は編集スキルやアルゴリズム対応が優先され、技術への向き合い方に変化が生まれました。さらに今は AI や様々な Web サービスが急速に普及し、また新しい波が来ています。
しかし、多くの美容師さんが“テクノロジーに追われる側”になってしまっている現状があります。そこで私たちは「AI は目的ではなく手段」であり、最も大切なのはお客様を幸せにするという美容師本来の価値だと伝えるために協会をつくりました。
DX の導入支援や研修、AI システムの開発なども実施していますが、その根底には必ず“美容の文化を守る”という理念があります。どれだけ技術革新が進んでも、誰も置いていかない──それがデジタルサロン協会の存在意義です。
森越道大を形づくった原体験と、経営者としての視点
――森越さんご自身のキャリアや大切にしている価値観についてお聞かせください。
私は厳しい家庭環境で育ち、勉強漬けの学生時代でした。函館の高校に主席で入学しましたが、家庭との関係性もありすぐに退学し、16歳で漁師になりました。その後美容師となり、お客様に「ありがとう」と言われる経験を重ね、自分の人格が大きく変わりました。
美容師としては月1,200万円を売り上げ、予約は4か月待ち。全国から飛行機で来ていただくような環境でした。「自分の手だけでなく、仲間の手でより多くの人を豊かにしたい」という思いから、独自の技術やノウハウを短期間で体系化し、弟子とともに全国へ広めたことで半年で15店舗展開につながりました。
父の死をきっかけに「社会的に意義のある仕事とは何か」を深く考えるようになり、美容業界に恩返しをしたい──その思いこそが、協会や関連企業の立ち上げの原点になっています。
組織運営と“誰も置いていかない”という約束
――組織の雰囲気やコミュニケーションの特徴を教えてください。
協会のスタッフには、美容業界を本気で良くしたいという強い意志を持つメンバーが集まっています。目的意識を共有することで、職種やバックグラウンドの違いを越えてフラットに議論できる雰囲気があります。
特に大切にしているのは「納得感をつくること」です。美容師さんが“なぜ DX が必要なのか”を理解し腹落ちしない限り、ただのツール導入に終わってしまいます。だからこそ、技術者や経営者としての目線だけでなく、美容師としての経験を踏まえたコミュニケーションを何より重視しています。
未来への展望──美容業界を次のステージへ
――今後挑戦していきたいこと、描いている未来像を教えてください。
美容師の価値が再定義される時代に入っています。AI によって効率化できる部分はどんどん増えますが、そこで浮いた時間を“技術向上”や“深い接客”に還元できれば、美容文化はさらに進化します。
協会としては、AI 研修の拡充や、未来の働き方を支える新しいシステム開発を進めています。また、美容学校やメーカー、ディーラー、メディアなど業界全体と連携し、どんなサロン・どんな美容師でも取り残されない環境を広げていきたいと考えています。
森越氏自身のリフレッシュ方法や価値観
――お仕事以外で大切にしている時間や、リフレッシュ方法はありますか。
実は、毎日のサウナが欠かせません。スマホを持ち込めない環境なので、強制的にデジタルデトックスができるんです。忙しく動き回る日々の中で、自分の“余白”をつくれる貴重な時間ですね。気づけば毎日2時間ほどはサウナに使っているので、もう趣味というより生活の一部になっています。
もうひとつ大切にしているのが、1時間のウォーキングです。サウナで思考をリセットし、歩きながらアイデアを整理する。これを続けていると、どれだけ忙しくても心と身体のバランスが保たれます。
華やかに見られることもありますが、実はとてもシンプルで地味な時間を積み重ねることで、日々の判断やクリエイティブの質を維持している──そんな感覚です。

