特定非営利活動法人 Sea Turtle Ecology Lab 代表理事 菅沼 弘行氏
特定非営利活動法人 Sea Turtle Ecology Lab(以下、STEL)は、ウミガメの生態研究と保全活動を通じて、科学的根拠に基づいた「ウミガメ学」を構築することを目的とする団体です。本記事では、代表理事の菅沼弘行氏に活動内容や現在の取り組み、今後の展望について伺いました。
目次
研究と保護、その間にある“断絶”を埋めるために
――STELの活動内容について教えてください。
ウミガメの世界は大きく2つに分かれています。ひとつは“研究者”の世界、もうひとつは“保護団体”の世界です。
研究者は論文を発表することが使命で、保護団体は目に見える活動を通して寄付を集めることを行っている場合が多いです。しかし、その両者の間には交流がほとんどなく、大きな断絶があります。
放流会や産卵見学など“見せる保護”が増えていますが、これは本来の生態を損ねる危険性もあります。人がいるだけで産卵ガメは上陸をためらい、結果的に産卵数が減少しています。また世界的に見ても人工孵化放流で個体数が増えている地域はなく、産卵数は激減しています。STELが目指すのは、守るべき地域を選択し、当該地域で科学的にウミガメの生態を解明することにより、ウミガメの健全な産卵環境を未来につなげることです。
「ウミガメ学」という新たな学問体系をつくる
――設立の経緯について教えてください。
大学卒業後、小笠原諸島では食用のためにアオウミガメを捕獲しています。それらの親亀をト殺前に生け簀に入れて産卵させ、ウミガメの育成や人工孵化に関わる仕事をしていました。当時は、明治時代から続く人工孵化放流を戦前まで行っていましたが、その成果は見られませんでした。その結果を踏まえて2008年にはその活動を中止しました。また、インドネシアでタイマイやオサガメ・ヒメウミガメの産卵状況調査を行い、夜間パトロールや研究者による調査などの人の介入によるウミガメの減少を目の当たりにしました。
その後、人が介入することをやめ、自然の営みに任せたことで、徐々にウミガメの数が回復していきました。その経験から、「人間が守るつもりで、実は減らしている」という現実を痛感したんです。
こうした背景から、ウミガメの生態を体系的に捉える“ウミガメ学”を確立しようと考えたのが、STEL設立のきっかけです。短期的な成果ではなく、長い時間をかけて信頼できる知を構築していきたいと思っています。
研究と教育をつなぐコミュニティとして
――現在の活動体制について教えてください。
会員は約60名で、そのうち正会員が12名、理事が6名です。理事の中にはウミガメの研究博士も複数名います。東京海洋大学、三重大学、宮崎大学などの大学で講演を行い、学生サークルや研究会と連携しながら、次世代の研究者や保全活動者を育てています。
また、会員にA4一枚ほどの情報をほぼ毎日発信しています。ウミガメの最新知見や観察データを共有しながら、学術と現場をつなぐプラットフォームとして機能させています。
企業や団体との連携も進めており、宮崎県野生動物研究会や設計会社の翔設計、PR TIMESなどと共同で取り組みを行っています。
地道な広がりを信じて――時間をかけて“理解”を育てる
――今後の展望についてお聞かせください。
短期間で大きな成果を求めるのではなく、一人ひとりの理解者を増やしていくことを大切にしています。ウミガメの世界は横のつながりが弱く、地域ごとに取り組み方も異なります。だからこそ、「ウミガメ学」という共通基盤を整え、知識と意識の共有を進めていくことが必要です。STELでは、地域での講演活動を通して、現場の課題を可視化しながら地道に理解を広げていきたいと思っています。
自然から学ぶ時間
――お仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
山登りです。月に3回は登りますね。海の生き物に関わる仕事をしていますが、山を歩くと、地形や川、そして海岸のつながりがよくわかります。
海と山は切り離せない存在で、自然はすべて循環しています。ウミガメも数百万年という時間の中で、氷河時代の地球環境の変化を乗り越えてきました。そう考えると、今の温暖化や海岸の変化も、自然の流れの中にあると感じます。ただ、その変化速度が急激なことを強く憂慮しています。
目的を持ち、一歩ずつ淡々と
――最後に、経営者や起業家を目指す方へメッセージをお願いします。
目的に向かって、一歩ずつ淡々と進むことです。焦らず、理論を持って行動する。情報に流されず、自分の目で確かめることを大切にしてほしいと思います。周囲に左右されず、信念を持って進む。その姿勢が、やがて結果につながります。

