PDエアロスペース株式会社 代表取締役 緒川 修治氏
これまで国家プロジェクトだった人工衛星の打ち上げや、観光としての宇宙旅行など「宇宙輸送」に民間企業が挑む時代が訪れています。PDエアロスペース株式会社は、飛行機のように滑走路から離発着し、宇宙と地球を往復できる“スペースプレーン”の実現を目指す企業です。独自のエンジン技術と強い意志&突破力を武器に、宇宙輸送の常識を変えようとしています。本記事では、緒川代表に事業の現状、キャリアの原点、組織づくり、未来の展望を伺いました。
目次
宇宙輸送をもっと身近に──事業の現状とビジョン
――御社の事業内容をわかりやすく教えてください。
当社は「宇宙へモノや人を運ぶ」宇宙輸送サービスを事業の中心に据えています。宇宙ビジネスには大きく、①人工衛星で取得したデータの活用、②人工衛星そのものの製造・運用、③そして人工衛星など貨物や人を宇宙へ届ける輸送という3つのレイヤーがあります。私たちが取り組んでいるのは、この3つ目の“輸送”になります。
特徴的なのは、これまでの”垂直に打ち上げる”ロケット方式と異なり、”水平に離着陸する”航空機方式を採用している点です。離着陸を含む空気がある環境と高高度で空気が無い環境で、ジェット燃焼モードとロケット燃焼モードを切り替えるエンジン技術により、この航空機方式が可能となります。結果、宇宙輸送のコストと運用性、安全性を大幅に改善できるのが強みです。
――具体的には、いつどのようなサービス開始を予定しているのでしょうか。
まずは2027年に無人機で弾道飛行(サブオービタル飛行)サービスを開始する計画です。高度80km超に到達し、高高度域のデータ収集のほか、落下時に生じる微小重力や超音速環境を提供し、学術研究や技術開発分野での需要に対応します。続く2030年には同様に無人での地球周回飛行にて、小型人工衛星を軌道に投入する事業へサービスを拡大し、その後段階的に有人飛行へと進めていく計画です。
原点は“発明家の父”──挑戦を支えてきたキャリアと価値観
――宇宙開発に挑戦するようになったきっかけを教えてください。
父が”発明家”だったことが一番大きなきっかけです。生まれた時から家には実験室があり、工作する為の道具やジェットエンジンなど色々な機械があちこちに転がっていました。実験室が私の遊び場であり、幼少の頃から父の実験助手をしていました。”考えたことを形にする”一連の流れを学び、ものづくりへの関心と工作力が自然と培われていったのです。
また、小学生の頃からパイロットへの憧れがあり、自衛隊や民間の選抜試験を何度も受験しました。宇宙飛行士の試験も受けました。が、全て落ちてしまいました。それでもやはり航空宇宙の世界に身を置きたい気持ちがあり、作る方へ移りました。大手重工で新型航空機の開発を経験した後、大学院に入り直し、極超音速エンジンの研究を行いました。ある時、実家に戻った時、父と一緒に実験をしていたエンジンの構造図を見ていて、「このエンジンならジェットとロケットを一つの機構で切り替えられるのでは?」とのアイデアにたどり着きました。
――起業へと踏み切る決定打になった出来事はありますか。
2000年初頭、アメリカで民間有人ロケットの開発を促す”賞金レース”があり、従業員たった50名の会社がこれを達成させたことです。ロッキードやボーイングのような大企業ではなく、小さなベンチャー企業が独自の発想と技術で有人宇宙飛行を成し遂げたことに大きな衝撃を受けました。「誰かに選んで貰う」ではなく「自分でやる」との発想に切り替えました。
2007年に会社を設立し、そこから10年間は1人で”実験室”で開発を続け、2016年にANAやHISからの出資が決まり、少しずつ仲間を集め、環境を整えてきました。
16名の小数チーム──組織運営で大切にしていること
――現在の組織体制や、社員の皆さんとの関わり方について教えてください。
現在は16名体制です。一時は40名規模まで増えましたが、資金調達が難航し、已む無く縮小を迫られました。非常に厳しい状況であっても残ってくれたスタッフに感謝しています。ただでさえ困難な宇宙機開発を少人数で行うことになるので、一人で幅広い業務領域をカバーする必要があります。夫々が、一騎当千の兵(つわもの)です。
私自身も、CEO・CTO・CFO・COOを兼任し、資金調達から技術開発、政府自治体対応、社内調整まで全てを担っています。これは決して理想的ではなくお薦めできるものではありませんが、自身でできることは全て行うようにし、社員にはできるだけ開発に集中できる環境を整えることを意識しています。
――組織として大切にしている価値観はありますか。
「人の会話に首を突っ込め」ですね。聴こえてくる会話に参加したり、コメントすることを是としています。「自分の仕事は、これ」としてしまうのではなく、興味を持ったら会話だけでなく、実験にも参加して良いことにしています。その為には、関連する資料を読み、自身で情報を集めていく必要があります。自由度を高くし、守備範囲を広げていくようにしています。
その他、仕事を進める上で、大切なことは、社訓として示しています。
一つ、不屈のチャレンジスピリットこそ、原点とせよ。
一つ、道が無ければ己で作れ。
一つ、改良ではなく、Innovate (創造)せよ。
一つ、時間、空間は有限であることを理解し、行動せよ。
2030年、そして2040年へ──スペースプレーンが創る未来
――今後の展望について教えてください。
直近の目標は2027年の無人弾道飛行です。その後、2030年に人工衛星軌道投入、さらに有人宇宙輸送へと段階的に進めていく計画です。
その先には、東京―ニューヨークを2時間で結ぶ“高速二地点間輸送(P2P)”の実現です。ジェット・ロケット切替と水平離発着の統合技術は、P2Pの実現に非常に有効です。世界の移動の常識が変わることとなります。一方で、安全性や法整備、莫大な開発費など、乗り越えるべき課題は多くあります。早期実現・実用化に向けて、全力で取り組んでいきます。
当社は、このように航空宇宙の分野で革新を起こしていく研究開発(R&D)に特化した、常にゼロ⇒イチに取り組む会社となることを目標としています。
少しの休息と好きな作品たち──挑戦を支える原動力
――お仕事以外のリフレッシュ方法はありますか。
映画やアニメ、漫画を見るのが好きです。少し古い作品ですが『エリア88』、最近ですと『進撃の巨人』などがお気に入り(バイブル)です。どんなに厳しい状況でも絶対に諦めず、「戦え!」と自身の意識を振り替えています。
――最後に、読者へメッセージをお願いします。
起業を考えている方には、どんな状況でも「諦めないこと」「工夫すること」を伝えたいです。困難の連続となるのは当たり前なので、苦境に陥っても”道”を探してください。諦めてはダメです。考えて考えて考え抜いて、藻掻いてください。答えは必ず見つかります。
私は1人で立ち上げましたが、本来は複数名で立ち上げるほうが健全だと思います。互いに意見がぶつかることも多くなりますが、事業の推進力は大きくなります。
中小企業の皆さんには、守りに入るのでなく、常に“攻める姿勢”を忘れないで欲しいです。現状が厳しい経営状態であっても、工夫の余地は必ずあります。兎に角、考えたことを実践して試していって頂きたいです。小さく早く始める。「やってみなはれ」の精神が大切だと思います。
何事も“できない”と思った瞬間に、本当にできなくなります。“どうしたらできるのか?”を考えるところがスタート(挑戦)であり、どんなに大きな事柄もこの小さなスタートの集まりだと思います。
私たちもこの先、宇宙輸送というハードな領域で挑戦を続けていきます。

