失われつつある「和」の心を大切に。東洋医学の復権を目指す鍼灸師の真髄
誠真堂合同会社 代表社員 東 洋史氏
病院で「異常なし」と診断されても不調を感じる人々に対し、東洋医学の深い知恵で向き合う「誠真堂鍼灸院」を運営する誠真堂合同会社。代表の東 洋史氏は、かつて勤務していた鍼灸院の院長との方針の違いから、2016年に独立・開業しました。効率ばかりが重視され、人情味が失われつつある現代社会において、「誠実に、真心を込めて」患者と接することを理念として掲げています。東氏が目指すのは、東洋医学を西洋医学と並び称される存在に引き上げること。その真摯な思いと、患者への深い愛情に裏打ちされた経営の軸について伺いました。
目次
東洋医学の復権を目指して。「人間として向き合う」姿勢こそが揺るがない強み
――事業の特徴と、それに込めた思いをお聞かせください。
当院では、確かな技術は当たり前のこととして、東洋医学とは「人間を診る医学」であるという点を大切にしています。症状が出ているところだけを診るのではなく、患者さんというその人と向き合うということです。ですから、問診はもちろんのこと、何気ない会話もとても大切にしています。お悩みの症状の原因は日常生活の中にあるものですが、過剰なストレスや睡眠不足が日常化してしまい、患者さん自身が頑張りすぎていることに気づいていないケースも少なくないのです。
私は、単に体の不調を治すだけでなく、じっくりと話を聞きながら、その方の心の糸を解きほぐし、患者さんご自身が「頑張りすぎていたんだ」と気づいてもらうことを大切にしています。特に、女性は、日々の激務で体力をすり減らしながらも、「まだ努力が足りない」と自分を責め、無理をしている方がとても多いことに驚かされます。そんな患者さんには、ご自身が十分頑張っていることに気付いていただき、自分の心身を労われる気持ちを持っていただくことを大切にしています。これが、つまり「人間として向き合う」という、東洋医学の真髄だと思うのです。
――理念や、目指すビジョンにはどのような思いが込められているのでしょうか。
屋号の「誠真堂」には、「誠実に真心を込めて」という意味が込められています。昔から、患者さんの心身を癒せるドクターになりたいと思っていたのですが、その頃からずっと「ドクターになれたら、誠実に真心を込めて患者さんと接したい」と思っていました。
今、世の中は効率ばかりを重視し、人と人との間に人情味のようなものが失われつつあるように思います。日本人が古くから大切にしてきた「和」という心、つまり他者との調和を重んじる心が失われつつあることに、危機感を覚えているのです。だからこそ、この院の名前のように、人を尊重し、誠実で温かい人情味のある気持ちを大切にする。それがそのまま当院の理念であり、経営の軸になっています。
また、東洋医学を西洋医学と並び称される存在にすることが、鍼灸師としての目標です。日本では、東洋医学は法律上「医学」ではありません。しかし、本来は立派な医学と呼べるほどの深遠な理論があるのです。そのために、様々な疾患を改善できる高度な専門知識を持った鍼灸師を育成することで、東洋医学の真の実力を世の中に認知してもらいたいと思っています。
超一級の師匠との出会いがキャリアを導く。経営の軸は「患者さんの幸せ」
――これまで歩まれたキャリアの中で、ターニングポイントとなった出来事と、経営判断の軸を教えてください。
不思議なことに、私はこれまで、その時々に必要な超一級の師匠に巡り会えています。複数の師匠に、それぞれが持つレベルの高い知識や技術、そして鍼灸師としての心構えをご指導をいただいてきたのですが、そのおかげで自分一人の努力では到達できないところまで短期間で引き上げていただくことができました。そのような師匠と絶妙なタイミングで出会えたことが、大きなターニングポイントになっていると思います。もちろん、独立したときもターニングポイントでしたが、師匠との出会いがなければ、鍼灸師になって5年目で独立することなど、到底不可能であったと思います。
経営判断の軸は、一貫して「患者さんが幸せになるかどうか」です。患者さんにとって良いことは行うべきですし、患者さんの人生にマイナスになることはやってはいけない。患者さんが幸せを感じてくださるか、患者さんが望む未来を得られるかどうか、というところが最も重要です。いつも、患者さんの立場に立ち、患者さんの体を自分の体のように大切にする。その軸から決してブレないようにしよう、と心がけています。
――患者さんとのコミュニケーションにおいて、最も大切にされていることは何でしょうか。
「どんなときも患者さんに合わせる」ということですね。こちらが伝えたいことがあったとしても、そのタイミングではうまく伝わらないこともありますし、その伝え方も、若い方とご高齢者、男性と女性で違ってきます。患者さんのその時々に合わせた会話、アドバイス、そして治療を心がけています。
僕は、ただ患者さんが好きで、鍼灸師という仕事が好きで、患者さんに喜んでもらうために仕事をしているだけです。当院にはクレームがほぼありません。患者さんを大切に思うからこそ、技術や話し方、立ち居振る舞いなどすべてが洗練されていくのだと思うのです。そして、その気持ちが自然と患者さんとの信頼関係を生み出しているのだと感じています。
日本食の知恵を伝え、次の世代を育てる。志を共有できる仲間との出会いを求めて
――今後の事業展開、特に鍼灸師の育成への思いを教えてください。
今、一般の方向けに、効率重視の食生活の中で忘れられつつある「日本食の知恵」に関する本を執筆しており、令和8年の1月には出版される予定です。「医食同源」という言葉のとおり、食事は体を作るものであり、病気の原因は食生活を含めた生活習慣にあるからです。
これが一段落したら、次は鍼灸師向けの東洋医学の本を執筆したいと思っています。伝統的な東洋医学の理論を基とした鍼灸を学びたいけれど、難解なためなかなか臨床で活かすことができないという鍼灸師向けに、東洋医学の奥深さを分かりやすく伝えたいのです。志が高くセンスが備わっているのに、それを磨く機会がない。そんな鍼灸師に、手を差し伸べられるような活動をしていきたいと考えています。その本の執筆が、鍼灸師の育成、そしてひいては社会全体の幸せにつながると信じています。
現状、鍼灸院は私一人で運営しており、技術面や人格面で信頼できるスタッフの育成も今後の大きな課題です。志も技術も高い鍼灸師と出会い、力を合わせて院を大きくしていきたいと思っています。
――お忙しい毎日の中で、リフレッシュ方法があれば教えてください。
一番のリフレッシュは、子供たちと戯れることです。まだ小学生なので、一緒に遊んでくれますからね。昔から映画鑑賞やピアノを弾くことが好きなのですが、今は時間と気持ちの余裕がなく、できていないのです。ですから、子供との時間を今は大切にしています。