「あり方」と「関係性」から組織を強くする──ポジティブ心理学×コーチングで伴走する組織開発
株式会社Being and Relation 代表取締役 池田 佳奈子 氏
知識やスキルを学んでも、職場が根本から変わらないことがある。そんな“歯がゆさ”を出発点に、組織の成長を「あり方」と「関係性」から支えてきた株式会社Being and Relation。ポジティブ心理学とコーチングを土台に、上場企業から地域密着の中小企業まで幅広く伴走。代表の池田氏に、事業の軸や起業の背景、そしてこれからの挑戦を聞きました。
目次
激動の時代に対応していくために。「あり方」と「関係性」をコンセプトに掲げる
——まず、事業内容を簡単に教えてください。
企業向けの支援がメインで、組織開発やチーム作り、チームビルディング、そしてリーダー層のリーダーシップ開発を支援しています。クライアントは、社員数4万人以上の大手グループから、地元密着の中小企業まで幅広いです。
また、メインではありませんが、個人向けにも、組織作りやチーム作り、リーダーシップ向上に関心がある方向けのセミナーや講座を定期的に開催しています。
——御社の特徴は何でしょうか。
社名のとおり「あり方」と「関係性」をコンセプトにしています。人や組織が成長して次のステップに進み、激動の時代に変化へ対応しながら成長していくには、知識やスキルの習得も大事です。
ただ、それだけでは持続的な成長につながりにくいと感じています。一人ひとりが自分自身や組織のあり方を問い直し、関係性の中で新しい意味づけやものの見方を獲得していく。相互作用の中でお互いが成長した結果として、組織が成長していく。そう考えています。
だからこそ、関係性を育てる“器”となるような組織づくりを支援したいと思っています。
——強みはどこにあると考えていますか。
大きく二つあります。一つは、知識を提供するだけではなく、「あり方」と「関係性」にアプローチしていくことです。
もう一つは、コーチングやポジティブ心理学の最新研究を土台とする組織開発の実践を支援している点です。
ポジティブ心理学は「人がより良く(善く)生きる」「人が持つ可能性を最大限に発揮するために何が大切か、またそれを促進するチームや組織とはどのようなものか」を科学的に解明している学問で、いま叫ばれている人的資本経営とも親和性が高いと思っています。
ポジティブ心理学を土台に組織作りをしている会社は、日本ではまだほとんどないという認識です。
私たちは、悪いものを除去したり、外から新しいものを持ってきたりするような存在ではありません。いま組織にある“いい部分”や“強み”を見つけて活かせるように支援します。
ここで言うポジティブは、お花畑的なものではなく、苦難の中でも希望となる要素に光を当てて引き出す、という意味です。
池田氏の背景にあったのは、「挫折」と「自らへの問い」
——事業を始めた背景には、どんな経験があったのでしょうか。
少し恥ずかしいのですが、私は新卒から会社員として働く中で、壁にぶつかることが多くありました。仕事にやりがいを感じられない、上司との関係性で悩む、うつ寸前まで追い込まれる、といった挫折も経験しました。
周りを見ても、優秀で想いを持っている人たちが職場で疲弊し、力を発揮しきれないまま退職してしまう場面をたくさん見てきて、歯がゆい思いもありました。
自分自身も、マネージャーになったときにうまくメンバーに関わることができず、部下が辞めてしまったことがあります。さらにプライベートでは、家族に性同一性障害の者がいて、「自分らしく生きられない苦悩」や「生きづらさ」を間近で見てきました。
人が生き生きと力を発揮しながら組織で働くとはどういうことか、ずっと自分の中で問いとして残っていました。
——研修や育成の現場で、どんな違和感がありましたか。
会社員としてこの領域の仕事を始め、研修も多く担当しましたが、知識やスキルの研修だけで「本当に人が生き生きする」「職場が変わった」と言える状態をつくるのは難しい、と感じていました。
一方で、関係性の中で生き生きできるようになった人や、自分自身と向き合って実現したいビジョンや新しいあり方を獲得した人が、一気に高い目標を達成していく姿も見てきました。だからこそ「あり方と関係性」なのだと思い、弊社を立ち上げました。
——起業のきっかけは何でしたか。
二つあります。一つは妊娠・出産です。コロナ禍の時期に結婚して妊娠し、出産までを経験しました。結婚を機に都内から神奈川の湘南エリアへ引っ越し、コロナ禍と妊娠が重なって、物理的に都内へ通勤できない状況になったことも大きかったです。
二つ目が、子どもを産んでみて「私たちは子どもたちが生きやすい社会や世界をつくっているのだろうか」という感覚が生まれたことです。
もっと子どもたちが自分らしく力を発揮できる社会をつくらないといけないのではないか、という使命感のようなものが背中を押しました。
“教える”より“引き出す”——伴走型で変化を定着させる
——サービス提供は、研修中心なのでしょうか。
研修、講座、ワークショップ、セミナーはありますし、リーダー層の方へ1対1で定期的にコーチングをすることもあります。ただ、振り返ってみると「1回だけ研修をやって終わり」はほとんどありません。
基本的には年単位、短くても数か月単位で伴走します。自分たちで変わっていく力をつけていくには、どうしても時間がかかるからです。ただ、もうサポートが十分だと感じたら、きちんと離れるようにもしています。
——一般的なコンサルとの違いはどこにありますか。
処方箋として「こうするといいですよ」と答えを渡すのではなく、クライアントの組織内にいる当事者たちが自分たちで問題を見つけて、自分たちでよりよく変化していける力を引き出す支援をしています。
コーチングの考え方に近く、私たちが答えを与えるのではなく、当事者たちが自ら答えを出して変化を起こす。結果として、組織が自走できるようなレジリエンスを獲得していくことを大切にしています。
——自治体や地域との取り組みはどのように始まったのでしょうか。
起業する頃から、地元の山形に貢献できないかと考えていました。里帰り出産をした時期がコロナ禍だったこともあり、思いがけず長く山形に滞在して、改めて地元の良さを実感しました。
そんな中でご縁をいただき、山形県上山市の方々とお会いする機会があったんです。
上山市では、企業の健康経営を独自のアプローチで支援する取り組みをスタートしていたそうです。「人が生き生きと健康で、職場が活性化する」というテーマで取り組んでいて、私がやっていることとつなげられると感じました。
小さな体制で、どう運営するか。メンバーとの関係づくりについて
——いまの体制はどのようになっていますか。
社員は私ひとりで、業務委託のパートナーに支えてもらっています。定期的に関わってくださっている方は現在3名です。これから増やしていけたらと思っています。
——パートナーの方々とのコミュニケーションで、重視していることはありますか。
子育て世代が多いので、突発的に子どもの体調不良などが起きるのはお互い様だという前提で関わっています。
申し訳なさが心に絡まないように、必要以上に気にしなくていい、というスタンスは大切にしています。
また、パートナーは必ずしも人材開発や組織開発の業界出身ではなく、さまざまなバックグラウンドを持っています。だからこそ、私にない視点や知識、スキルを存分に活かしてもらえるように関わりたいと思っています。
——いま、経営として向き合っている課題は何ですか。
事業を伸ばしていきたいと考えると、人材やお金など、経営資源がこれから必要になってきます。そのときに、どう優先順位をつけて整えていくかが課題です。
現状は、社長ひとりと業務委託パートナーが頑張って回している面があります。もう少し体制を整え、ルーティン化するなどして、それぞれがやるべきことに集中できる状態をどうつくるかを考えています。
変化の時代に必要なこと——関係性の中で「アンラーン」を起こす
——大切にしている考えは何でしょうか。
インプットとは逆の「アンラーン(学習棄却)」という考え方も大切にしています。山形県上山市での研修もそうですが、私たちが企画する研修やワークショップは、クライアントからすれば日常から離れた「非日常の場」であることが多いです。そうした場では、新鮮な視点でじっくり自分と向き合ったり、他者とも向き合ったりすることができます。他者との対話は結局、自分と向き合うことにもなります。
「こういう考え方もあるのか」「今までの自分の考え方だけではないかもしれない」「他の見方もできるかもしれない」。そうした気づきが他者との対話の中では起こりやすいと感じています。
——アンラーンは、いまの組織にとってなぜ重要だと思いますか。
環境変化が激しい時代なので、当事者同士が対話することで「今までこうだったけど、そうじゃなくてもいいかもね」と捉え直すことが、チームや組織に必要だと思っています。
講義や情報提供もしますが、それだけではなく、必要に応じてアンラーンできるように、安心して効果的に対話ができる場をファシリテーションしていきたいです。
人的資本経営を“本質”から進めるために
——今後、どんな挑戦をしていきたいですか。
中長期の目標になりますが、日本における本当の意味での人的資本経営を支援していきたいです。多様な人が活かし合い、成長し合い、その結果として日本企業が強くなり、競争力を高めていく。その一歩一歩を支援したいと思っています。
多くの企業が「人的資本」と言われながら、まだ手探りで試行錯誤している段階だと感じています。AI導入やリスキリングも必要ですが、仕事は結局、人と人との相互関係で進みます。違いがあるから分断が進むのではなく、違いを活かせる対話の力を一人ひとりが身につけていくことが重要です。
さらに、ポジティブ心理学をもっと広げていきたいです。レジリエンス、自己効力感、困難の中でも希望を持ち続ける力など、目に見えない「心理的な資本」は、これからの企業の競争力の源泉になっていく。そうした視点が経営の中でより重視されるように、いろいろな方と協力しながら訴求していきたいと思っています。