クマ被害を減らすために――クマよけアプリ「BowBear」の挑戦
株式会社ウィズム 代表取締役 渡邊 尚希氏
クマの出没や被害が社会問題として注目される中、アプリという形でリスク低減に挑む企業があります。それが株式会社ウィズムです。同社が提供するクマよけアプリ「BowBear」は、クマの出没情報を可視化し、音による対策も可能にするサービスです。本記事では代表の渡邊尚希氏に、同社の事業内容や開発の背景、現在の課題、そして今後の展望について伺いました。
クマ被害を減らすために開発されたアプリ
――現在の事業内容やその特徴について教えてください。
当社では現在、「BowBear(ボウベア)」というクマよけアプリを展開しています。このアプリは、クマの目撃情報をユーザー同士で共有できるマップ機能と、国や行政が発信している情報を地図上で確認できる仕組みを備えています。
もう一つの大きな特徴がサウンド機能です。この機能ではクマが苦手な音をスマートフォンのスピーカーから出せるようにしています。具体的には銃声や猟犬の鳴き声、それからクマが苦手とする周波数帯の音を再生できる仕様です。クマは臆病な動物なので、自分たちがここにいると知らせることが重要です。鈴の代わりとして、鈴を忘れたときにも使えるような存在になればと思っています。
――利用シーンとしては、常に音を出しておくイメージですか。
そうですね。クマが出てから音を出すのでは遅いので、出没の可能性があるエリアでは常に再生しておく使い方を想定しています。あわせてマップで最新情報を確認し、「ここは避けよう」「ここは迂回しよう」と判断してもらえれば、少しでもリスクを下げられると考えています。
ユーザー層はクマの出没エリアに住んでいる方が中心ですが、東京や大阪のユーザーも意外と多いです。旅行やアウトドアの際に使っていただいている方も多いのだと思います。
――ビジネスモデルについて教えてください。
このアプリは、行政情報を扱うという特性から、誰もが等しく利用できることを重視し、基本機能は無料で提供しています。現在、約30万人のユーザー様に利用されていますが、無料で提供している為運営費を十分に賄えておらず、赤字の状態が続いているのも事実です。そこで、現状の基本機能は無料のまま維持しつつ、新機能の追加によって利便性や価値を高められるものを提供し、その付加価値部分について有料化を検討しています。これにより公共性を保ちながら、サービスとしての質と持続性の両立を目指しています。現時点では、こうした取り組みに共感いただけるユーザーの皆さまには継続的な利用を通じたご支持を、企業の皆さまにはスポンサーとしてのご協賛を通じて運営をご支援いただく形が、最も現実的でバランスの取れたモデルであると考えています。
祖父から受け継いだクマ被害対策への想い
――なぜクマよけアプリを開発しようと思われたのですか。
これは会社のホームページにも書いているのですが、祖父がもともと猟師をしており、クマの被害から村を守るために闘う人だったんですね。その祖父は猟師を引退した後もクマの被害を解決しようと試行錯誤していたのですが、ある時、猟犬が狩りをしている時の咆哮や銃声の音源を農地で流すと、被害が軽減することを発見しました。これを受けた祖父は、この音源を製品化して世の中のクマ被害を少しでも減らして欲しいとずっと言っていました。しかし、製品化の道半ばで脳梗塞により他界してしまいました。
祖父が人生をかけて少しでも人々の為に被害を減らそうとしていた想いを受け継いで、製品化への道を模索しました。当初はハードウェアも考えたのですが、開発コストが非常に高くかかることと、より多くの人に広めることも考慮した結果、アプリにすることを決めました。
――これまででターニングポイントだと感じた出来事はありますか。
昨年のクマ出没件数の異常な多さはターニングポイントとなりました。ニュースで大きく取り上げられ、そのタイミングでテレビ取材が4局ほど入りました。それによってユーザーが一気に増え、ブランドとしての認知も広がりました。そういう意味ではターニングポイントになったのですが、それだけ被害に遭っている方もいらっしゃるということなので、心情的には複雑な気持ちです。
より多くの人が安全に暮らせる未来を
――今後の展望について教えてください。
詳細はお話しできませんが、新製品の開発に着手しています。より多くの人が安全に暮らせる未来を提供できるような、新しいプロダクトに挑戦する計画です。
――課題となっていることはありますか。
一番はマネタイズです。ブランドイメージを崩さずに、どう収益化するか。スポンサー開拓も含めて模索しています。もう一つはユーザーが増えたことで、いたずら投稿への対応が増えたことです。善意を前提に作ったサービスなので、その管理体制をどう整えるかが課題になっています。
「やってみてから考える」で大丈夫
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
釣りですね。東京から静岡に引っ越して海が近くなったので、時間があるときに行きます。年に数回ですが、海の音を聞いて何も考えない時間を持てるのが大きいです。仕事のことを完全に忘れられる貴重な時間になっています。
――最後に、これから起業する方や経営者の方へメッセージをお願いします。
僕自身まだ成長途中で偉そうなことは言えないですが、「やってみてから考える」くらいの勢いでいいのではないかと思います。僕も意外とやってみたら大丈夫でした。
また経営者はワークライフバランスをきっちり分けるというより、仕事を仕事と思わず、プライベートと一緒くたにするくらいの覚悟が必要だと思います。そのほうが、つらさより楽しさが勝つ。楽しみながら、一緒に盛り上げていけたら嬉しいですね。