日本の眠る技術を、世界で価値に変える――合同会社A.I.高橋亨氏の挑戦

合同会社A.I. 代表 高橋 亨氏

日本には、世界に誇れる技術が数えきれないほど眠っています。一方で、それを「価値」として市場に届け、収益化するのは簡単ではありません。合同会社A.I.代表の高橋亨さんは、窒素発生装置と小型射出成形機という2つのプロダクトを軸に、日本の技術を海外で活かし、社会に還元する道を描いています。プラスチック成形の不良を減らし、環境負荷の低減にもつながる取り組みとは何か。じっくりお話を伺いました。

「窒素」と「小型成形機」2つの柱

――ホームページを拝見して、装置がとても特殊だと感じました。どんな価値を提供しているのでしょうか。

当社の取り扱いは大きく2つあります。1つは「窒素発生装置」です。常温の空気を取り込み、窒素以外を排気して、窒素ガスだけを取り出す装置です。日本では20年ほど前から存在していますが、当社が特徴的なのは、その窒素ガスをプラスチックの成形機に流して使う点です。

私はもともと、射出成形機と呼ばれるプラスチック加工機のメーカーにいました。プラスチックを熱して溶かし、金型へ流し込んで固めていくのですが、この工程で変色したり、分解ガスが出たりして不良が生まれます。そこで、プラスチックが溶ける環境に窒素ガスを流すことで、酸素との反応を抑え、不良を大きく減らせることを知りました。

窒素ボンベでも対応はできますが、消耗品でコストがかかります。ならば既にある窒素発生装置を、成形工程で使える形にしていこう、と考えたのが先人たちの知恵でした。そしてそれをまだ殆ど知る人がいない海外で展開しようとしたのがこの事業です。装置は国内外メーカーにOEM製造していただき、自社ブランド「A.I.」のステッカーを貼って、主に海外のプラスチック加工工場へ輸出しています。

もう1つが、小型の射出成形機です。こちらは逆に、海外で安価にOEM製造した機械を、自社ブランド「R3」として日本に輸入し、国内のお客様に販売しています。

日本国内で小型機の需要は毎年一定数ある一方、国内でこのサイズを作るメーカーは限られます。さらに、大手メーカーが小型機を作ると、大型機と同じような価格帯になりやすく、ユーザーが「小さくて安い機械が欲しい」のに選択肢が少ない状況が長く続いてきました。

だからこそ、海外製造をうまく活かし、日本の要求を反映した小型機を、日本の市場へ届ける。こうした構造は、当社のような動き方ができる会社だからこそ実現できたと思っています。

不良削減の先にある「環境」と「収益」の両立

――窒素を使うことで、具体的に成形工程はどう変わるのでしょうか。

射出成形では、材料を300度程度まで熱して溶かします。そのときに、気泡が出たり、透明を作りたいのに黄ばんだりすることがあります。その原因の大きな一つが、溶融中に酸素と反応してしまうことです。そこで酸素の代わりに窒素を流し、反応しにくい環境にしてあげることで、酸素由来の不良が減っていく仕組みです。

ただ、私が大切にしているのは「不良を減らして利益を出す」だけではありません。日本では昔から似た技術が使われてきた一方で、目的が企業の収益向上に留まりがちだったとも感じています。今は環境負荷やカーボンニュートラルが問われる時代です。この装置は、不良が減れば無駄なプラスチックが減り、無駄な電力も減ります。

そのため、お客様への説明も「半分は不良削減による収益改善、もう半分は脱炭素やカーボンニュートラルへの貢献」という形でお伝えしています。

私が日本で働いたのは2年ほどですが、その間に感じたのは、工場の中にも、近所の中小企業にも、「世界一なのでは」と思う技術が散らばっていることでした。ところが、それをフィールドに持っていって、お金に変えて帰ってくることが、日本は苦手なのではないか。

だから私は、日本で眠っている最先端の技術を海外へ持ち出し、収益化して日本に利益を落とす――この理念で起業しました。

小さなチームが生む「クロスオーバー」

――御社の強みは、どこにあるとお考えでしょうか。

当社の強みは、クロスオーバーな動きができることだと思います。社員は4人に満たない小さな会社ですが、その分、大手なら「やった方がいい」とわかっていても、固定費や体制の問題でできない動きを、軽やかに実行できます。

社員4人のうち2名は外国人で、全員が少なくともバイリンガルです。国籍もバックグラウンドも違うからこそ、発想や判断が一方向に固まりません。海外のパートナー企業ともつながりながら、必要な場所で必要な形の協業を組み立てていける。そこは小さな組織ならではの強みです。

海外展開についても、私は「日本人を海外に送り込めば勝てる」とは考えていません。私自身、中国に約20年駐在した経験があり、現地の感覚や地場の市場を踏まえない限り、海外ではうまくいかないと痛感しています。

だから、拠点を作って社員を抱えるよりも、現地のビジネスパートナーを見つける方が早い。固定費も抑えられますし、勝ち筋を作りやすい。過去のサラリーマン時代の人脈やマーケットも含めて、活かせる資源は徹底して活かしていく。その姿勢が、今の事業の土台になっています。

多様性を力に変える、任せて褒めるマネジメント

――少人数のチームで、メンバーが動きやすくする工夫はありますか。

多様性は、とても大事にしています。年齢も性別も国籍も、通ってきた道が違うので、何かを決めるときに同じ意見が出ることの方が少ないです。だからこそ私は、メンバーのモチベーションを上げるというより、「キープしてもらう」ための環境づくりを意識しています。

具体的には、「おかしいな」と思っても、よほど大きな資金が動く話でない限りは、まず本人たちの提案で決めてもらい、一度やってみてもらう。うまくいったら、思い切り褒める。会社が回っているのはあなたのおかげだ、と。もし失敗したら、一緒に修正すればいい。失敗は怖くないです。むしろ、失敗してからでないと見えてこないものもあります。

小さい組織だからこそ、一人ひとりの挑戦がそのまま会社の前進になります。任せること、称えること、そして必要なときに一緒に立て直すこと。その繰り返しが、チームを強くすると感じています。

「業界スタンダード」を目指す展望

――今後、どんな挑戦や目標を描いていらっしゃいますか。

ビジネスとしての目標は明確です。窒素発生装置もR3の小型成形機も、世界ではまだ当たり前になっていない領域だと思っています。だからこそ、当社がこの業界のスタンダードにしていきたい。窒素発生装置が、どのプラスチック加工工場にもある世の中へ。小さなプラスチックを生産する会社なら、どこに行ってもR3が並んでいる世の中へ。必ずお客様の役に立ち、業界に貢献できると確信しています。

価格面でも、これまで日本のユーザーには「選択肢がない」状況がありました。結果として、どうしても高額な設備投資になってしまうケースがある。そこに当社の機械を入れていただくことで、機械そのものの価格を抑えられ、投資回収が現実的になる。そうした意味でも、現場にとって助けになる標準をつくりたいです。

もちろん、困難な面もあります。それでも、現場の役に立つ手応えがあるからこそ、踏ん張れる。業界にとって「あるのが当たり前」の存在にしていく――それが今後の挑戦です。

家族と地域、そして「社会貢献」を忘れない

――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。

今のリフレッシュは、子どもと遊ぶことです。中学1年生の娘と小学5年生の息子がいて、家ではできるだけ一緒に過ごすようにしています。それが今の私のストレス解消になっていて、生活のリズムにもなっています。近所の海岸に行って、親子でゴミ拾いをすることもあります。地域とつながりながら、子どもにとっても良い時間になればと思っています。

私が大切にしていることは、「利益と社会貢献の両立がかなってこそ、初めて経営者の使命を感じる」ということです。事業で利益を出すのは当然として、その先にどう使うのかまで考え続けたい。

たとえば私は、利益を上げて子ども食堂をやりたいと思っています。もしそれが難しければ、地域の高齢者が集まれる場でもいい。サラリーマン時代にも、機械を売るたびに子ども向けの書籍を買い、半年に一度、小学校へ届けるようなことをしていました。会社を起こした今は、さらに自分の意思で、それを形にしていきたいと考えています。

不良を減らし、無駄を減らし、環境にも収益にも向き合う。そのうえで、地域に還元する。そんなふうに一歩ずつ積み重ねながら、利益と社会貢献の両方を成り立たせる経営者でありたいと思います。

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