医療画像×AIで診断の未来を変える――次世代医療を切り拓く経営の挑戦
MedBank株式会社 代表取締役CEO 李明宙氏
MedBank株式会社は、医療画像のAI解析を軸に、高精度かつ効率的な診断支援を目指す研究開発企業です。李氏は、医療画像診断の需要増加と専門医不足という社会課題に向き合い、順天堂大学や東京医科大学との共同研究を通じてAIによる次世代医療の実装を進めてきました。本記事では、事業の特徴や強み、創業の背景、組織づくりの考え方、そして医療AIの未来についてお話を伺っていきます。
目次
医療画像AIで次世代医療を支える事業モデル
――現在の事業内容と、開発しているプロダクトについて教えてください。
当社は、医療画像のAI解析を中心に事業を進めています。設立から3年ほどで、順天堂大学や東京医科大学、AI関連半導体を研究開発しているNVIDIAとも連携しながら開発してきました。
プロダクトとしては、まず超音波診断にAIを組み合わせる取り組みがあります。一般的にはスキャン画像を医師が目視で判断しますが、そこにAIを活用して診断を支援する技術を研究しています。
もうひとつは病理画像診断の分野です。これまで顕微鏡を使った読影が主流でしたが、当社では東京医科大学との共同研究により、甲状腺結節画像をAIで支援診断するシステムを開発しました。
さらに順天堂大学との共同研究では、肺癌の病理画像を自動解析し、疑い部分をヒートマップで示す仕組みを構築しています。
今後は、超音波診断AI支援システム群の構築と、癌病理診断の生成AIシステムの開発を進め、将来的に多くの疾患モデルをカバーすることを目標にしています。
――医療画像分野において、AI活用にはどのような可能性がありますか?
AIはテキストだけでなく画像分野とも相性が良い技術です。ただ、画像系AIを専門に扱う企業はまだ多くありません。特に医療領域では、これから5年から10年の間に世界的に広がっていく可能性があると見ています。
人間では見落としが起こる可能性がある部分も、AIであれば客観的に検出できます。診断の補助として活用することで、精度や効率の向上につながる余地は大きいと感じています。
医療機器業界の経験から生まれたAI事業の原点
――現在の事業を始められた背景を教えてください。
もともと20年ほど前から医療機器販売の会社を経営してきました。コロナ禍の時期に既存事業が低迷し、時間ができたことをきっかけに製品開発へ踏み出したのが始まりです。
そのタイミングで、超音波画像の解析システムの開発に着手しました。ちょうどAIが話題になっていたことに加え、医療機器業界で培ってきた知識や情報があったため、画像診断にもAIが関わる時代が来ると考えたのです。
開発はコロナの頃から始めていたのですが、最近になってようやく製品化の段階まで進みました。
――これまでのキャリアの中で、事業の方向性を決定づけた出来事は何でしたか?
医療業界に長く関わる中で、診断に時間がかかる現場を何度も見てきました。結果が出るまで1~2週間ほど待つケースも珍しくありません。
画像診断ができる専門医は不足しており、日本でも必要人数に対して大きく足りていない状況があります。発展途上国ではさらに深刻です。
AIを使えば、医師が15分ほどかける作業を短時間で処理でき、最終的に専門医師はAI結果をチェックする時代が来ると確信しております。
感情に左右されず24時間稼働できる点も特徴です。こうした現場の実情を知ったことが、今の事業を進めるうえで大きな転機になりました。
医療・IT・薬事を横断した独自の強み
――他社にはない御社ならではの強みはどこにありますか?
医療画像AIの開発企業は、医師出身かITエンジニア出身が多い傾向があります。私は医療機器製造販売の経営を経験し、その前にはIT分野の仕事にも関わっていました。
AI診断システムは、技術だけでなく薬事や販売の知識も欠かせません。医薬品医療機器総合機構の承認が必要になるため、制度理解も重要です。
医療、IT、薬事、製造販売のそれぞれを経験してきたことで、全体を組み合わせた提案ができる点が強みだと考えています。
――理念やビジョンには、どのような思いが込められていますか?
人材面では、前向きさや情熱、誠実さ、責任感を持ち、変化を恐れず挑戦し続けるプロフェッショナルを目指しています。事業としては資金や人材、AI技術を軸にグローバル展開を見据えています。
多様な人材の共創によって次世代医療の水準を高め、社会課題の解決にも貢献したいという思いがあります。人とAIが協働する未来をつくり、命と暮らしに寄与することを価値観の中心に据えています。
――経営の道を歩む中で感じてきた葛藤と、やりがいを感じた瞬間について教えてください。
経営に携わって20年近くになりますが、投資や事業運営の中で失敗も経験してきました。AI分野は成果が出るまで時間がかかり、資金面の不安やスピードを出せないもどかしさに悩むこともあります。
一方で、東京医科大学との共同研究の成果が発表された時や、医療画像AI処理の特許を取得できた場面では大きな手応えを感じました。研究が形になり実用化へ近づく実感が、次の挑戦への原動力になっています。
自律的に動く組織をつくるためのマネジメント
――社員が自分で考えて動けるようにするための工夫はありますか?
社員の考え方が自分と異なるのは当然だという前提で向き合っています。それぞれが持つ価値を引き出し、自分の目標に向けて主体的に課題を解決できる状態を目指しています。
自分の判断が常に正しいとは限らないため、メンバーの想像力を活かす環境づくりを意識しています。
――社員とのコミュニケーションで大切にしていることは何でしょうか?
会社の外での対話を重視しています。
食事やお酒の席など、リラックスした場では本音やアイデアが出やすくなります。そうした機会に意見を受け取り、経営判断に活かすよう心がけています。
――採用や育成で重視している人物像を教えてください。
課題を提示した際に意図を素早く理解し、自分なりのアイデアを出して行動できる人を求めています。分析力や論理性を見極めるため、質問や課題設定を通じて考え方を確認します。
最近では、AIを活用した特許作成の場面で、プロンプトの考え方をすぐに吸収し、意図を汲んで動いた社員が印象に残っています。
医療現場の課題解決に向けた今後の挑戦
――今後取り組んでいきたい展開や目標について教えてください。
今後は、開発してきたAIをできるだけ早く製品化し、実際の医療現場で使っていただく段階まで進めたいと考えています。そのためには、医療機器として必要になるPMDAのライセンス取得が大きな目標になります。
医療現場では専門医が不足している一方で、診断業務の負担が非常に大きい状況があります。本来は患者さんとのコミュニケーションに時間を使うべき専門医が、日々大量の画像を確認する作業に追われているのが現状です。
さらに働き方改革によって労働時間には制限があるものの、業務量自体は減っていないという矛盾も生じています。
こうした状況の中でAIを活用することで、診断業務の効率化を進め、医師が本来担うべき役割に集中できる環境をつくることが理想です。開発した技術を現場に届け、実際の医療の流れを変えていくところまで実現したいと考えています。
――現在向き合っている課題と、その乗り越え方をどのように考えていますか?
いま最も大きな課題は資金調達です。資金は車で言えばオイルのような存在で、なければ前に進みたくても進めません。実際に複数のベンチャーキャピタルと面談してきましたが、PMDAの承認というハードルや、現時点での売上・利益が小さいことから、出資判断は簡単ではありません。
社会課題の解決につながる製品であっても、投資側にはリスクがあるのは理解しています。そのため、まずは現在手掛けている製品で小さくても売上をつくり、実績を積み上げる方針です。利益が出てくれば、出資側も判断しやすくなると考えています。
スタートアップは将来が不確実であることが前提ですが、日本では投資判断が銀行に近い基準で見られる場面も多いと感じています。その厳しさを受け止めつつ、事業を前進させるための現実的な一歩を重ねていきたいと思っています。
AIが変える医療の未来と経営者としての視点
――今後、医療やAIの分野はどのように変化していくと考えていますか?
最近は「AI」という言葉自体は広く知られるようになりましたが、実際の普及はこれからだと感じています。
今後は汎用的なAIだけでなく、医療画像のように特定領域に特化したAIが増えていくでしょう。5~10年ほどの間に、細分化された専門分野ごとに新しい企業が生まれてくる可能性もあると思っています。
さらに先の未来では、病院に行かずとも個人がAIを活用して自分で診断を受けるような形が出てくるかもしれません。AIの性能は非常に高まっており、AIが診断を担う“AI病院”のような概念が現実になる可能性もあると考えています。
実現の時期は不明ですが、医療の提供形態そのものが変わっていく余地は大きいと見ています。
――尊敬している経営者や影響を受けた存在はいますか?
アメリカのイーロン・マスク氏には強い関心を持っています。特にテスラの時価総額の大きさには驚きました。
売上や利益だけでなく、市場からの評価が資金調達のしやすさにつながっており、資金繰りの面で大きな優位性を築いている点に注目しています。
また、最先端の分野で常識にとらわれない挑戦を続けている姿勢も印象的です。電気自動車に加えて宇宙産業など、通常の発想では踏み出しにくい領域に挑んでいるところに、経営者としての視点の違いを感じ、尊敬しています。
――お休みの日は何をされていらっしゃいますか?
平日は多忙なため、週末は子どもと過ごす時間が中心です。
高校生と小学生の子どもがおり、日本に来る際も一緒に連れてきました。世話に追われることもありますが、家族と向き合う時間を楽しみにしています。