着物を通じて、慈しみ合うきっかけを――すべての子どもに「特別な一日」を
NPO法人きもの縁ブレイス 代表理事 澤山 綾子氏
NPO法人きもの縁ブレイスは、障がいや医療ケアによって着物を着ることが難しい子どもたちに無償で着付けを行い、本格的な七五三を届けてしています。医療関係者と連携し、一人ひとりの身体の状態や生活環境に合わせ、その子だけの「特別な一日」をつくることを大切にしてきました。
しかし、この活動が目指しているのは、七五三を届けることだけではありません。その先にあるのは「誰もが互いに慈しみ合い、自ずと手を差し伸べたくなる社会」です。
代表理事の澤山綾子氏に、活動を始めた原点、大切にしている価値観、そしてこれから実現したい未来について伺いました。
目次
一人ひとりに合わせた、オーダーメイドの七五三
――現在の事業内容や、活動の特徴について教えてください。
NPO法人きもの縁ブレイスを4年前に立ち上げ、障がいなどによって着物を着ることが難しいお子さんに無償で着付けを行い、本格的な七五三をプロデュースしています。
経済的な事情を抱えているご家庭も含め、すべてのお子さんに七五三を届けたいという想いから、七五三に不可欠な「着付け」と「祈祷」は無償で行っています。ヘアメイクやプロの撮影などを希望される場合には、協力いただいているプロの方々を、奉仕価格でご紹介しています。
外出すること自体が難しいお子さんも多いため、ご自宅や施設などへ私たちが伺います。決まった形にお子さんを合わせるのではなく、一人ひとりの身体の状態や生活環境に合わせて、その子のための一日をつくっています。
――医療関係者が多く携わっていることも強みでしょうか。
そうですね。14名いるメンバーのうち、約半数が医療関係者です。安心安全に着せられるよう、事前に細かく打ち合わせをしながら計画しています。
基本的には一般の着物を使い、着付けを工夫することで対応しています。ただ、医療的ケアが必要なお子さんの中には、わずかな動きでも脱臼や骨折につながる可能性がある子もいます。着物は伸び縮みしないため、袖に腕を通すこと自体が難しい場合もあるんですね。
そこで昨年から、通常の着物の形では着用が難しいお子さんの為に、研究を重ね、身体への負担をできる限り抑えた特殊な着物を開発しました。まず7歳の女の子用が完成し、現在は無償で貸し出しています。
「着物に身体を合わせる」のではなく、「その子に着物や環境を合わせ」、オーダーメイドで一日をプロデュースすることを大切にしています。
「仕方ない」と思わせたくない――活動の原点
――この活動を始めたきっかけを教えてください。
私は明治43年から続く呉服屋の4代目としてのれん分けをし、都内で着物サロンと着付け教室を運営しています。また、真言宗の僧侶として、都内や広島を拠点に、人々の苦しみに寄り添い、ご相談や、ご供養、加持祈祷を行っています。
NPOを立ち上げる大きなきっかけになったのは、テレビで小児科病棟の特集を見たことでした。
そこに、生まれてから11年間をずっと病院で過ごしている女の子が登場していました。「ここでの生活はどうですか?」と聞かれた彼女が、「もう仕方ないよね」と答えたんです。
その言葉を聞いたときショックと共に、11歳の子どもに「仕方ない」と言わせたくない、と強く感じました。
自分に何ができるだろうと考えたとき、呉服屋として七五三をお手伝いする中で見てきたご家族の笑顔が浮かびました。
「あの笑顔を、この子たちにプレゼントしよう」
そう思ったことが、この活動の始まりです。
――活動を通して、最終的に実現したいことは何でしょうか。
私たちの目的は、七五三の一日をつくることだけではありません。
目指しているのは、
『世の中を互いに慈しみ合うきっかけであふれさせ、誰もがおのずと手を差し伸べたくなる社会』この仕組みをつくることです。
七五三は、そのための一つのきっかけだと考えています。
七五三を経験したご家族が、その後どんどん前向きになっていく姿を見てきました。そして変化するのは、障がい児やご家族だけではありません。関わったスタッフにも、新しい気づきや変化が生まれています。
支援する側、される側という一方向の関係ではなく、関わった人たちがお互いに何かを受け取り、心が豊かになっていく。こうした温かな循環を社会の中につくっていくことを意識して活動しています。
100年後も続く活動であるために
――活動の中で、判断するときに大切にしている基準はありますか。
大切にしているのは、100年後も続いている事を見据えて行動していくことです。
例えば先日、とある中学校の生徒から問い合わせがあり、弊団体の活動を1年間取材したいとのことでした。学校の課題だそうです。
子供たちには「私たちのあたり前の生活が、実はあたり前でないこと。みんな同じ大切な命であること。」など伝えて、感じたこと、身につけたことは、周りとも共有していく工夫も一緒に考え、話し合っています。
また講演会などでも、次の世代に想いのバトンをどんどんつないでいってます。
もう一つ大切にしているのが、言葉だけに頼らないことです。
言葉は人と人をつなぐ一方で、言葉によって分けたり、断定してしまう側面もあります。 そのため、ときに偏見や先入観を生み、人を傷つけてしまうこともあります。
言葉を話さないお子さんに着付けをするときも、身体にそっと触れながら「今から腕を通すよ」と伝えると、言葉を超えて心が通じ合ったと感じる瞬間があります。
人と人とのコミュニケーションには、言葉になる前に伝わるものがある。
その感覚を、障がいの有無にかかわらず、大切にしていきたいと思っています。
七五三のその先へ――活動を全国に広げたい
――今後、挑戦していきたいことを教えてください。
現在は関東圏を中心に活動していますが、沖縄をはじめ全国からお問い合わせをいただいています。それをお断りしなければならないのは、本当に心苦しいです。
そこで現在、次の拠点として関西や広島方面への展開を考えています。
活動資金や人材などの環境を整えながら、最終的には全国の子どもたちに届け、誰一人取り残されない社会に寄与できたらと思っています。
――七五三を終えたご家族への支援も考えているそうですね。
はい。私たちは七五三をして終わりではなく、その後もお子さんやご家族とのつながりを大切にしています。その一つとして、「いつでもプリンセス」という企画も始めています。
七五三が終わっても、成人するまでいつでも着物を着ておしゃれをする機会を提供しています。例えば、お誕生日会、親戚の結婚式参列、成人式などなど、私たちもご家族と一緒にお子さまの成長を見守ります。
また、障害や医療的ケアのあるお子さんを育てるご家族は、日々の生活の中で孤立してしまうことがあります。ご家族がほぼ24時間体制で医療的ケアを担っているケースもあります。
そこで、七五三を経験してくださったご家族同士がつながり、相談したり情報交換したりできるオンラインコミュニティも立ち上げたいと考えています。
特別な一日を届けるだけではなく、その後の生活にも寄り添える仕組みにしていきたいんです。
大自然に触れ、自分を大きな視点から見つめる
――お休みの日のリフレッシュ方法を教えてください。
365日ほとんど休みがないのですが、隙間時間があれば温泉へ行きます。大自然に触れていると、土や地球に還るような感覚になれる、私にとって大切な時間ですね。
あと、僧侶として修験道にも携わっていて、山の中や、滝に入る機会があります。
大自然の中に身を置くと、それまで抱えている悩みやゴタゴタを徐々に手放せ、ズームアウトして、まるで宇宙から地球上の人間を眺めるように、自分自身や目の前の出来事を、大きな視点から見つめることができるんです。
慈しみの輪を、一緒に広げてくれる仲間へ
――最後に、これから活動に参加してみたい方へメッセージをお願いします。
これから、この活動を一緒につくってくださる仲間をもっと増やしていきたいと思っています。
現場では、カメラマンやヘアメイク、着付けなどに携わってくださる方も募集しています。経験が浅い方でも、必要なトレーニングをしてから一緒に現場へ行きますので、安心して参加していただけます。
この活動には、言葉では伝えきれないほどたくさんの感動があります。
そして私は、参加する人が一方的に「誰かのために何かをする」のではなく、その人自身も何かを受け取り、心が豊かになって帰ってほしいと思っています。
一人の小さな行動が、誰かの笑顔につながり、その笑顔がまた別の誰かへとつながっていく。
そんな慈しみの輪を、一緒に広げていけたらうれしいです。