大和駅前の音楽ホールから広げる、音楽を「仕事」として社会につなぐ挑戦
K-sax Music Support 代表 北嶋 恭子氏
90人を収容できるホールを運営している北嶋氏。グランドピアノを2台常設し、音楽教室やコンサートのほか、講演会、セミナー、企業説明会、交流会などにも対応しています。目指しているのは、音楽を身近な存在にし、演奏家が音楽を仕事として続けられる環境をつくること。企業や地域、福祉分野との接点を広げ、音楽の価値を社会のなかで形にしようとしている北嶋氏に、ホールを始めたきっかけや大切にしていること、目指しているものなどについて伺いました。
目次
音楽だけに限らない、「やりたいこと」を実現できる場所へ
――現在の事業内容について教えてください。
私は大和駅から徒歩1分の場所で、90人収容のホールを運営しています。グランドピアノを2台常設していて、響きの良さもご好評をいただいています。
音楽教室では、現役の演奏家が講師を務めています。ご依頼に応じて演奏したり、自らコンサートを開催したりできる環境です。
――音楽以外では、どのように利用されていますか。
ホールの用途は音楽だけに限定していません。講演会やセミナー、企業説明会、ダンス教室、交流会、マルシェなどにもご利用いただいています。プロジェクターやマイクもあるため、説明会や研修にも対応が可能です。
ケータリングを持ち込んでいただければ、セミナーや講演会の後、そのまま同じ会場で懇親会を開くことも可能です。1つの場所で完結できる点は喜んでいただいています。
建設関係の企業から、急遽、説明会を開きたいというご相談をいただいたこともあります。私のホールは、椅子やプロジェクター、マイクが揃っていたため速やかに対応することができました。
私は、このホールを「何かをやりたい方が自分のやりたいことを実現できる場所」にしたいと考えています。
――ホールを始めたきっかけを教えてください。
ホールを始める前は、1人の演奏家として、演奏することと教えることを仕事にしていました。毎日のように違う現場へ出向き、個人の生徒さんを教えたり、学校の吹奏楽部を指導したりしていたのです。
生徒さんに合わせて自分が動く働き方が当たり前でしたが、「このスタイルを何歳まで続けられるのだろう」と考えるようになりました。生徒さんの増減によって収入が変わることもあり、長く続ける上で不安定さも感じていたのが本音です。
そこで、生まれ育った大和で、生徒さんに通っていただける拠点を持ちたいと思いました。当初は、駅近くのスナックくらいの広さでも十分だと考えていて、地元の不動産企業に相談したところ、紹介されたのが現在の90人規模の物件でした。
想定していたものとはあまりにも大きさが違ったため、最初は断ろうかとも思ったのが正直なところです。ただ、この広さがあるなら、教えることや演奏することだけではなく、音楽に関するさまざまなことに挑戦できるかもしれないと考えました。それが、ホールを始めようと決めたきっかけです。
「仕事をください」ではなく、相手の課題に何ができるかを考える
――演奏家の方々と関わる上で、大切にしていることは何ですか。
音楽業界では、演奏の依頼を待つ姿勢になりやすいと感じています。しかし、待っているだけでは仕事は来ませんし、「私はこれができるので仕事をください」と伝えるだけでも十分ではありません。
大切なのは、自分たちの仕事が相手の仕事に対してどのように役立てるのか、どんな形で協力できるのかを考えることだと思っています。相手が抱えている課題を理解し、そのなかで音楽が何を提供できるのかを考えなければ、対等な会話にはなりません。
――演奏家の方々と異業種の方との関わりについてどう考えていますか。
私は以前から、企画や経営者団体での活動を通じて、異業種の方々と関わってきました。ただ、演奏家のなかには、異業種との関係のつくり方や、自分で仕事を生み出す方法がわからない方も多くいます。私が窓口になるだけでなく、演奏家自身が人脈をつくり、仕事につなげられるようになってほしいです。
企業・福祉・地域へ、音楽の価値をさらに広げていく
――ホール運営では、今後どのような状態を目指していますか。
まずは、定期的にホールを利用してくださる方を増やしたいです。毎週でなくても、毎月でも、ワンシーズンに1回でも構いません。固定で利用してくださる方が増えれば、安定した運営につながります。
すべての時間を固定利用で埋めるのではなく、新しい取り組みができる余白は残したいです。その上で、ホールがしっかり稼働している状態を目指しています。
同時に、運営の仕組み化も進めたいです。今はワンオペなので、利用が増えれば私の時間と体だけでは対応できません。いずれは1人をきちんと雇える状態をつくり、予約システムなどもさらに便利にしていきたいです。
私がホールにずっといなくても運営できる状態になれば、外に出て新しい人と出会い、人脈や情報を新しい仕事につなげていきたいです。
――企業向けには、どのような展開を考えていますか。
長期的には、企業の福利厚生や研修にも音楽を活かせると考えています。例えば、コーラスやボディパーカッションであれば、特別な楽器を用意しなくても、複数人で1つのものをつくる経験ができるはずです。
音楽では、それぞれが担当するパートを練習し、期限から逆算して準備を進めます。誰かが遅れていれば、責めるのではなく、どうフォローするかを考えることが重要です。そうした過程は、企業のチームビルディングにも通じる部分があります。
――福祉や地域に対して、音楽で実現したいことを教えてください。
福祉の分野でも、音楽ができることはあると思っています。私は今、障害のある子どもたちのための音楽会を2か月に1回開催しています。学校がないときに行ける場所が限られている方々にとって、音楽が1つの居場所になる可能性があると思っているのです。
ただ、音楽を届けるには費用も必要です。介護施設などでも音楽が求められる一方、予算がなければ演奏家を呼ぶことができません。将来的にはNPO法人のような仕組みも含め、必要とする人へ音楽を届けられる形を考えていきたいです。
音楽に対する対価の支払いを「当たり前」にするために
――音楽の将来について、どのように考えていますか。
音楽に対して対価を払うことが、個人にとっても企業にとっても当たり前になるためには、私たち自身が価値をつくらなければいけません。何をやりたいのか。なぜそれをやりたいのか。誰に届けたいのか。そして、それがどのような価値を持ち、社会にどう貢献できるのか。そこはぶれずにいたいと思っています。
――最後にメッセージをお願いします。
音楽業界をきちんとビジネスとして成り立たせたいと考えている演奏家の方がいれば、ぜひ一緒に取り組んでいきたいです。音楽をもっと身近にしながら、音楽に携わる人自身も胸を張って仕事を続けられる形をつくっていきたいと考えています。